71 森にて
思い出の風景に目を取られていると、村の方角から魔物の気配を察知した。
んー、でもゴブリンじゃないっぽいな。
今は別の種族があの村を占拠しているのかな。
森の中にあるかつてのゴブリンの村へは普通に歩いて一時間くらいかかる距離であるが、数が多い為かこの距離からでも伝わってくる。
「おーい、多分この先魔物いるぞー」
「出野さん!そんなこと、えいっ!分かってます!むしろもう出てきてます!早く支援を!光魔法、シャン!」
「おう。対象を破壊せよ!【リトルドラゴンブレス】!」
「ゴォォォオッ!」
俺達はただいま戦闘の真っ最中、森の中に入ったはいいものの、引っ切り無しに野生の魔物が襲ってきていた。
ここに来るまでの魔物とは打って代わり、油断していたら結構なダメージをもらうような魔物である。
今戦っているのは、【デビルモンキー】や【角虎】といった名の魔物だ。
以前この森はゴブリンの縄張りだったはずだが、時代の流れと共に別の魔物が彷徨くようになっているようだ。
「おいおい出野、そのしょうかん使いづらそうだなー。なんかムズムズするぜ」
「ナックルはん、こんな強力なドラゴンを操る師匠にもっと敬意を持ってほしいでやんすねぇ」
しょうかんしとしてレベル30になった際に、実は一つ新しいしょうかんを覚えていた。
しょうかんしとしての最後のしょうかん、それがこのリトルドラゴンブレス。
リトルドラゴンブレスを使うのは今回が始めてではない。
一回目は法子が仲間になった日、共闘して戦った魔物相手に。
二回目は皆が見たいと言い出したので道中の雑魚相手に。
そして今回が三回目だ。
リトルドラゴンブレスという名から俺はてっきり小さなドラゴン種が現れ、広範囲に亘り火を吐くのをイメージしていた。
しかし予想とは違った。
「こいつに決めた!」
目の前で咆哮を上げるドラゴンに、恐れおののくデビルモンキーを後ろから捕らえ俺は走る。
しょうかんしたドラゴンは、綺麗な水色の肌に、全長20メートルほどと大きな体つきをしている。
一般的な個体のドラゴンは、7~8メートル、良くて10メートル級の大きさである。
初めてその姿を見た仲間達は、誰もが興奮を口にした。
何を隠そう俺もその一人だ。
「まだ吐くなよー?」
しょうかんしたドラゴンはブレスの体勢に入る。
身体を反らせながら大きく息を吸い込むと、その圧倒的な吸引力により周りの木々が揺れ動いた。
俺は初めてこのドラゴンをしょうかんした時、その姿から今までの中で最強のしょうかんだと喜んだ。
体つきを見ろ、20メートル級だぜ?
そこそこ大きいとかじゃない、魔王時代に出会っていれば領地を一つくれてやってもいいほどの巨体だ。
しかし一つ致命的な欠点がある。
「▼*‡■○★※♪︎#◇!」
「間に合った!」
いつもながら俺が繰り出すしょうかんは意味不明な声を上げるが、最近になって何となく理解出来たような気がした。
多分これは『ドラゴンリトルブレス!』と言っているのであろう。
そんなことなどどうでもいい。
ドラゴンは魔物など一飲みしてしまいそうなほど巨大な口から、冷気のブレスを吐き出した。
そのブレスに合わせ、俺は跳躍しデビルモンキーをドラゴンの口元ギリギリに差し出す。
「いけぇぇぇえ!」
ブワァッ!
リトルドラゴンブレスを食らったデビルモンキーは氷漬けになりバリバリと音を立てて身体ごと破壊された。
「出野さん、それ効率悪いですよ多分」
法子が周りの魔物を焼き払いながら俺の行動に苦言を呈す。
確かにそれは否めない。
なぜなら、このリトルドラゴンブレス、範囲がドラゴンの口の周りのみという極端に範囲が狭いブレスなのだ。
リトルドラゴンのブレスではなく、どちらかというとドラゴンのリトルブレスという意味合いが強い。
このドラゴン、他のしょうかんと違い、絶対にその場から動かない。
そして百発百中、敵がいてもいなくても自分の目の前の空中に向けてブレスを放つ。
しかも範囲は口から直径1メートルもない。
つまり、絶望的にブレスが当たらない。
故に、俺が魔物を捕らえて口元まで持っていくというお膳立てをしなければ、現れて叫んで深呼吸をするだけの巨大なオブジェと化す。
せっかく覚えたしょうかんだからこそ使いたい一心で、俺はわざわざ魔物を拘束し処刑台へと連行する。
「そうだけどさー。なんかドラゴンって格好いいじゃん?」
結構な高さからだったので膝を曲げ着地をし、地に手を付き衝撃を逃がすと、そのまま視線を落とす。
そして役目を終えたドラゴンは煙となり消えていった。
そんな要介護のドラゴンではあるが、この冷気のブレス、範囲は驚くほど狭隘だが威力はめちゃくちゃ強い。
魔法の威力は小、中、大、特大、極大と大きく分けて五段階だが、おそらく極大だろう。
俺が捕らえた魔物を口元に運びブレスを吐き出すと、どうしても俺の手にも冷気が当たってしまう。
威力が極大だと考える理由は、そこにある。
俺は結界を張っていなくとも、多少の攻撃魔法は痛くも痒くもない。
氷属性の魔法もそう、まず着弾しても凍ることはない。
しかし目を落とした先にあるのは、指先が若干凍っている事実。
並の人間であれば、魔物もろとも破壊されてしまうだろう。
正真正銘、俺だけが使用を許される諸刃のしょうかん、それがリトルドラゴンブレスである。
それと、召還士としても一つ召還を習得している。
その名も【ゴブリンクラッシュ】。
これはまだ使用していない。
使用するに相応しい魔物が現れた時に使おうと温存している召還だ。
しょうかんし時代に初めて覚えたゴブリンアタックがあんな感じなので正直期待はしていないが、召還士として初めて覚えた召還だ、何かしら俺を楽しませてくれるだろう。
俺達はその後も幾度となく魔物を倒しながら先を目指した。
◇◇◇◇◇◇
一時間半くらいだろうか、魔物の襲撃がある程度収まったところで、森の中ではあるがしばし疲れた体を休めることにした。
「うえー、もう限界でござるー」
チェリーが我先と汗だくになりながら倒れこむと、他の面々も腰を下ろし始める。
俺の横には冒険者の書とにらめっこをする侶春と侶子がいる。
「おーい、戦闘には慣れたかー?」
「はい。でもチェリーさんや法子さんみたいに、魔法で攻撃するのがまだちょっと難しいなーと思ってます」
「俺っちは水属性と風属性の魔法しか使えないから、さっきみたいな魔物に効いているのか今一ピンとこない。んー、本当に効いてるのかなー?」
先程まで戦っていたデビルモンキーや角虎は、道中倒しまくった雑魚に比べると確かに強かった。
法子は別格で、魔法一発で大体の敵を倒してはいたが、チェリーは何度も何度も魔法を放ち、徐々に体力を削り倒していった。
法子ら大魔法師が扱う火、氷、雷といった属性の魔法は、火傷や凍傷、下手すりゃ灰になったり氷漬けになったりと、変化が目に見えやすい。
それに比べ、侶春ら賢者が扱う水、風といった属性の魔法は、打撲や裂傷が主で、他職業の普通攻撃のような変化しか感じられない。
つまりは地味なのだ。
しかし俺が見てる限り、侶春も侶子もそれらの魔法で魔物へダメージを与えていたから、効いていないというのは思い込みであることには違いない。
俺であれば水で魔物の身体へ大きな穴を空けることも、風で真っ二つにすることも出来る。
彼らもそうなる日は来るかもしれないが、そもそも賢者は補助的な職業だ。
デュラハンキングと戦った時の賢太郎のように、強い敵が現れた時に真価を発揮する。
「お前らの攻撃は十分効いていたぞ。でも勘違いするなよー、お前らは賢者だ。俺達が苦戦するような魔物が現れた時に輝くんだ」
「「はえー」」
これは絶対に話を聞いていない時の返事だ。
その証拠に、二人は遠くをぼけーっと見ながら俺の事など微塵も気にしてはいない。
「おい、お前ら聞いてるかー?」
「出野さん、あれ」
侶春と侶子は同時に指差す方向に目を向けると、一匹の小さなゴブリンが木に隠れながらこっちの様子を伺っていた。
次回予告
木の陰に隠れた小さなゴブリンを見つけたハーデス。仲間は魔物だと認識し殺そうとするが、ゴブリンに愛着があるハーデスは必死に皆を止めようとする。魔物を倒そうとする仲間と、魔物を守ろうとするハーデス。ハーデスはどう切り抜けるのか!?
次回 ~チビゴブリン~




