第11話 クーデター<前編>
世界観を大事にしたいなと書き進めているうちにいつも間にか話が埋まってしまうことが多々あります。
ちゃんと続きではありますが、今回はそんな世界観を重視した上でできてしまった話です。
ガチャンッ!
「ブイトル伯!失礼します!」
領主の部屋に騎士風の男が勢いよくドアを開け放った。
普段であれば事前の知らせが必要であるが、緊急事態であるためやむを得ないということが男の表情から見て取れる。
「ひっ」
ドアを開けると男の目に裸の三人の猫人族と一人の男の人影が写った。
猫人族は特徴的な猫耳を生やしており、三人一斉にビクッと跳ね上がるとベッドからシーツを手繰り寄せた。
もう一人は一切動じずベッドで横になっており、怠惰な象徴であるでっぷりとした腹を隠そうとはせずに晒していた。
「...なんだスターゼンではないか?見ての通り儂は今取り込み中なのだが?」
ゆっくりと腰を動かしてベッドから降りたこの男こそ城下町トルクタウンを国王から任されている領主のブイトル伯である。
「申し訳ありませんブイトル伯。ですが、すぐにでもお耳に入れたいことがございまして」
「...はーしょうがない。お前らさっさとこの部屋から出んか!」
ブイトル伯は三人の猫人族に退出を命じた。
が、猫人族はすぐに動かなかった。
「死ね!」
「は?」
猫人族が突如その爪を露にしてブイトル伯に襲いかかった。
ドシュッ
「うぎゅうあああ!!」
が、切り裂かれたのは猫人族の方であった。
ブイトル伯と猫人族の間に騎士風の男が割り込んで斬りつけたのである。
騎士風の男の名はスターゼン。
彼は”俊足”という剣術と相性のいい異能をもっており、トルクタウンの騎士団長を務める男である。
「ブイトル伯!お怪我はありませんか!?」
「おっおお!助かったぞスターゼン」
ブイトル伯の無事を確認してからスターゼンは残りの猫人族二体を屠って剣を収める。
部屋に血が飛び散り、物音に反応した兵士が続々と集まりだす。
「流石の手際だなスターゼン。だが、どういうことだ?なぜ首輪が儂への殺意を感じ取って爆発しなかったのだ?」
ブイトル伯が周りの兵士に担がれながら立ち上がると、疑問の答えを知っているであろう騎士団長のスターゼンに問いかけた。
すると、スターゼンの顔が先ほどとは異なり、強張り始めた。
「そのことなのですが...今朝方に『起爆者』がボディガードの騎士と一緒に何者かによって殺害されていたのが発見されました」
「なんだと!?殺されただと!?どういう意味だ!?」
『起爆者』は主に奴隷用の首輪を作成する異能力者のことであり、どの国や町にも少なからず存在する。
しかし、その異能は本人が死んだ場合に効果がなくなってしまうため厳重な警戒を国から施されている。
このトルクタウンでも例外ではなく、ボディガードをつけて厳重に守っていたのだが...。
「落ち着いてくださいブイトル伯。今はそれに伴い、大きな事件が起きています」
「...なんだ?」
周囲に唾を撒き散らしながら慌てふためくブイトル伯にスターゼンは極めて冷静に問いかける。
「奴隷の亜人達よるクーデターが起こりました。場所は教会とその広場全域です。要求は町にいる他の起爆者の首輪をつけた亜人達を解放しろというものでした」
スターゼンはブイトル伯が混乱しないように必要な情報だけを淡々と述べた。
彼の決定によって自分たちがどのように動くか決まるのでせめて冷静に判断してほしいというスターゼンの計らいだ。
「...殺せ」
「は?」
「全員殺せと言っている。暴動を起こした亜人共を皆殺しにしろ!晒し首にすれば馬鹿なことはするもんじゃ無いと残った奴らも気づくはずだ」
「しかし、広場にいる人質はどうするんですか?」
「助けられそうなら助けてやれ。無理だと判断したら見捨てて良い」
トルクタウンの兵力は決して低い方では無い。
恐らく身体能力で劣っている彼らでも暴動を起こしている亜人程度あればすぐに制圧できるだろう。
しかし、人質を気にするなら話は変わってくる。
奴らも馬鹿では無い。
時間をおいて疲弊するのを待とうとすればすぐにでも残虐な方法で人質の数を減らしてくるだろう。
犠牲は止むおえないか...
己のひ弱さに打ちひしがれながらもスターゼンは自らの騎士団の元へと向かい、準備を始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・
教会を中心とした広場は東京ドームの四分の一ほどの広さで、木々がまばらに生えている。
先ほどまではそれを穴のないように等間隔で亜人達が周囲を囲っていたが、亜人達は徐々に収縮して持ち場を得て、教会の中に人質全員を集めていた。
「外の亜人の数は大体200ってところだな。教会の中には50より少し多いくらいか」
「んでこっちの人質は全部で200くらいだな」
「大丈夫さ?ハクト?」
「う、うん...」
教会の中は二列の横長の椅子が並んでおり、広い通路が左右と中央にある。
そして、奥には女神像が置いてあった。
そんな中現在、人質は教会の中央で座らせられている。
人質の隙間ごとに武装した亜人が配置しており、何かしようものなら直ぐにでも対処できるように統率された動きを見せている。
僕たちはその動きを観察しながら隙を見て会話をしていた。
「...にしてもよくここまで準備できたなこいつら」
「ああ。どこかの国の援護があるのかもしれない。急遽編成した部隊であれば俺も隙をつけたが、これでは下手に動けない」
「動かなくていいよ。助けを待とうよ...」
「ハクト。弱音を吐くな。そういうのは全体の士気に繋がる」
一体なんの話だ。
助けを待とうと言ったら全体の士気に関わるからやめろと言われた。
まさかこれも訓練のつもりなのか?やめてくれよ...。
「いつでも動けるように俺らも武器が欲しい」
「俺は要らないぜ?キロ」
「私は何か必要さね。できれば弓がいいけど。なければナイフでもいいさね」
「僕は...」
「ハクトはいつもの短剣を持っているな」
「...うん」
僕は服の下に背負っている短剣に触れた。
実は今日の町へのお出掛けには置いていこうとしたが、癖で持ってきてしまった。
要は前世の携帯と同じで使わなくとも無いとどこか違和感を感じるほどには持ち慣れてしまったのだ。
「俺も短剣を持ってはいるができればもっとリーチのある武器が欲しい。一点突破で逃げるとしても力量差がわからない相手を五人はみないといけないからな。地の利も向こうにある」
「厳しいさね。ハクトもいるからタイミングは重要さよ」
「ああ。わかっている。最悪俺が担ぐから安心しろ」
「ほんと?」
ふぅ...安心した。
僕は戦力には換算されていないようだ。
当たり前だよね。
3歳になったばかりだし訓練をしているとはいえ実戦はしたことないんだから!
「だが、最悪の場合のみだ。途中までは手を貸さない」
「!?」
前言撤回。
この人に僕の当たり前は通用しない。
「はっ...え!?無理だよキロ!僕、実戦したことないんだ...もがっ!?」
突然、キロに口を押さえられた。
「もがっもがっ」
「静かにしろハクト。降りてくるぞ」
キロが静かにしろというジェスチャーを送ってくる。
すると、カツッカツッと誰かが上の階から降りてくる足音が聞こえた。
ガチャッ!
「よう。人族共気分はどうだ?」
「「「...」」」
出てきたのはフルプレートを身に纏った大男であり、体と比べても更にでかいその頭はワニだった。
腕には中年くらいの整った服装をした男を抱きかかえている。
最初に教会の窓から顔を見せていた竜人族だ。
「気分は優れないようだな?この後の自分たちの行く末が心配でそれどろじゃあないか?はっはっはっ!」
竜人族は祭壇の上から大口を開いて高らかに笑い始めた。
「ふざけるなザザン!こんなのすぐに失敗する!いますぐやめろ!」
「は?」
竜人族に脇に担がれた男から声がかかった。
すると、竜人族は先ほどの上機嫌とは打って変わって一瞬で冷ややかな目つきになり、男に向かって腕を振り上げた。
「なに!?おい!やめっ」
「うるせぇ」
ドッ!
振り上げた竜人族の腕は男の首筋に直撃した。
そして、腕は直撃で止まらずにそのまま振り抜けていった。
ドッ...ドッ...コロコロ
教会にいた全員が息を飲んだ。
目の前で斬首が行われたのだ。
転がってくるそれから教会内に恐怖が伝染し始める。
「「「きゃあああああ!!!」」」
どこからともなく溢れ出す悲鳴。
パニックになり、訳も分からず逃げ出そうとする人が出るその直前に竜人族から声がかかった。
「だまれ人間共!!!その場から一歩も動くな!!!」
「「「!!」」」
パニックになりながらも人々は恐怖の元である竜人族に細心の注意を払っていたため一瞬でその場が鎮圧された。
「いいか?今死んだのは俺様の元飼い主だ。お前らも逆らえばこうなる。下手に動かないことだな」
まだ血を噴き出しながら震えている胴体を投げ捨てて竜人族は話を進めた。
「俺様たちの目的はこの町にいる我が同胞達を解放することだ。解放さえしてもらえばいきなりこっちから手を出すことはない。だがもし、向こうにその気がなければ...わかるな?」
ゴクッ
誰もが己の命の泡ゆさに息を飲んだ。
「あいつがリーダーで間違い無いな」
が、飲まない者もいた。
「だな。さっきの斬首は腕でやっていた。おそらく異能持ちだろうな」
「より厄介さね...」
キロ、レックス、ニーミはさすがと言うべきか全く先ほどの脅しは効いておらず、分析を続けていた。
で、僕はと言うと人生で初めて見る斬首に心をすっかり折られていた。
今も手の震えと変な汗が止まらない。
「ね、ね、ね、ねぇ...もう帰りたいよ...」
限界に近い。
周囲の人々同様にパニックを起こしそうだ。
近かったニーミとキロの袖を強く引っ張って恐怖という感情をなすりつけた。
「ちっいきなりこれはハクトには刺激が強すぎたか」
「あ、安心するのさハクト!何があっても絶対守るからさ!」
「うん...うん...うっ...うっ...」
ダメだ。泣き出してしまった。
ニーミの袖に顔を埋めてせめて大きな声をださないように泣いた。
だが、泣くこと自体は悪いことでは無い。
泣くことで心を落ち着かせることができるからだ。
そうやって現実を受け入れ、少しずつでも心を落ち着かせないといけない。
「ほら、大丈夫さよ。ハクトは強い子なんだから」
「うん...うん...」
「キロさんにレックスさ、ハクトが落ち着くまで待てる?」
「ああ。この状態は長くは続かないだろうが、今は動かない。存分に発散させてやれ」
・・・・・・・・・・・・・・・・
どのくらいの時間が過ぎたであろう。
日差しがまだまだ教会内にかかっていることから経ったとしても2時間くらいだろうか。
しかし、体感時間はもっとずっと長くじっとしている気がする。
「ふぅ...ふぅ」
耳をすますといろんな人たちの息遣いが聞こえてくる。
2時間も経つと緊張のせいかトイレに行きたい人や喉が乾いてくる人もいるだろう。
見張りの亜人達はしっかり交代をしているようで、顔をあげると先ほどまで近くにいた亜人が変わっている。
僕はようやく落ち着きを取り戻して周囲の観察ができるようになっていた。
「ありがとう...ニーミママ...もう大丈夫」
「ほっ...よかったのさハクト。もう落ち着いたんさね」
「うん...」
すると見計らったようにドタドタっと勢いよく階段をあの竜人族が駆け下りて来た。
教会内は再び緊張の渦に飲まれる。
「くそが!!ふざけんなよ!」
ドンッ!
降りてきた第一声で竜人族は壁を蹴り壊して怒りを露わにした。
誰もが良い知らせでないことを悟る。
そして、竜人族がその大きな口を開いた。
「おめーら残念だったな。この町の連中はお前らのことを見捨てたようだぜ?」
事態は大きく動き出した。
次の話からはちゃんと戦闘に入ります!




