07話 死刑回避の方法
「死刑を回避する方法が一つだけある」
アザレアの声に、俺は思わず身を乗り出した。
「本当か……! なんだ、その方法は」
「第七師団に入れ」
あまりに簡潔な一言に、一瞬、理解が追いつかなかった。
「……は? 師団って、軍隊の……」
「ああ、私が率いてる部隊だ。印を持つ人間を野放しにはできない…が、監視下に置いて使い道があるなら話は別だ、って理屈がこの国にはある。召喚者ならば尚更な。」
アザレアは、真っ直ぐに俺を見据えた。
「ただし、勘違いするなよ。軍に入るってのは、生ぬるい話じゃない」
声のトーンが、一段低くなる。
「これから先、お前がやることになるのは、命懸けの任務ばかりだ。死んだ方がマシだと思う瞬間なんて、数え切れないほど出てくる。それでも、お前はやっていけるか」
覚悟を問う目だった。からかいでも、脅しでもない。
純粋に、答えを求めている目。
俺は、すぐには答えられなかった。
「……それと、もう一つ」
アザレアが、続ける。
「任務の中じゃ、お前に印をつけた悪魔――そいつと再び遭遇する可能性もゼロじゃない。もしそうなったら、元の世界に帰る方法が分かるかもしれない」
その一言に、心臓が跳ねた。
帰れるかもしれない、住んでいた元の世界に。
だが同時に、あの闇の中で感じた、指一本で人間の体を意のままにする圧倒的な力も、脳裏に蘇る。
あんな化け物に、また対峙することになるかもしれない。
「……分かった」
しばらくの沈黙の後、俺はそう答えていた。
「入るよ。第七師団に」
生き延びるためだ。それ以外に、選択肢なんてありはしなかった。
アザレアは、俺の顔をしばらく見つめていたが、やがて口の端を吊り上げた。
「いい面構えだ。気に入った」
その一言に、ほんの一瞬、別の誰かに言われた同じ言葉が、頭の隅を掠めた気がした。
◇
退院した日、俺を出迎えたのは、アザレアではなく、引きつった笑みを浮かべた若い青年だった。
「あ、あなたが例の噂の新人っスか! 自分、ソルトって言います、第七師団の一兵卒っス!!今日からご案内役、仰せつかりましたっ」
ぴょこんと頭を下げてくる仕草は、兵士というより、どこかの部活の後輩みたいだった。
「黒須慧です、よろしくお願いしますソルトさん」
歳は俺より五つほど下だろうか。
「軽い調子で悪いんスけど、クロスさん、早速練兵場行きましょう!こっちっス!」
引っ張られるようにして連れて行かれたのは、広々とした土の広場だった。
あちこちで、鎧姿の兵士たちが打ち合いの訓練をしている。
剣がぶつかる音、掛け声、時折響く怒声。
奥の一角では、また違う種類の訓練が行われていた。
標的に向かって次々と魔法を放っている。
掌から迸る炎の塊、地面を這うように奔る雷光、風の刃が空を裂く音――言葉で唱えているのか、それとも無詠唱なのか、遠目にはよく分からない。
魔法を、これほど間近で目にするのは初めてだった。
あの化け物が放った火球のことが、否応なく脳裏をよぎる。
「あの、これから何を……」
「入団試験に決まってるじゃないっスか」
ソルトが、きょとんとした顔でそう言った。
「――は?入団って、もう決まったって話じゃ……」
「アザレア様に気に入られたのは聞いてますけど、それとこれとは別っスよ。仮にも軍隊っスからね。誰でもかんでも無条件で入れてたら、示しがつかないじゃないっスか」
その通りすぎる正論に、返す言葉がなかった。
「気に入られたのかどうかは分からないけど」
「実は相当優秀だったりするんスか?体格良いっスもんね」
「いや格闘技や武道なんかは全く…、ちなみに試験内容って過酷だったりするの?」
「安心してください、死にはしないっスから。……まあ、死ぬ気で来る奴もたまにいるっスけど」
「それ、全然安心できないんだけど」
「あはは、そう言うと思いました!」
ソルトは屈託なく笑いながら、俺の背中をぽんぽんと叩いた。
「ちなみに死にはしないだけで毎年医務室送りになる人達はいっぱいいるっス!気合入れるっスよ!」
その言葉を前に、俺は改めて、自分がどれほど甘く考えていたかを思い知らされていた。




