06話 死刑執行
「クロス、お前には冒険者殺害の容疑で死刑が執行されるだろう」
言葉の意味を、頭が理解するのを拒んでいた。
「……は? 待て、なに言って――」
「聞こえなかったか? 死刑だ」
アザレアは、感情の読めない声でもう一度繰り返した。
それから、背後に控えていた医師や兵士たちに視線を向ける。
「悪いが、席を外してくれ。この男と二人だけで話す」
「し、しかしアザレア殿――」
「命令だ」
短い一言で、反論の余地は消えた。
ダリスも、扉の前にいた兵士も、戸惑いながらも一礼し、部屋を出ていく。
扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
病室に、俺とアザレアだけが残される。
「殺害って……何の話だ。俺は誰も殺してない」
「そうか。なら聞かせてもらおうか、お前の言い分を」
アザレアは、椅子の背もたれに体を預け、腕を組んだ。
「お前を容疑者と断定した根拠は単純だ。お前の服に付着していた血液――それが、行方不明になっている冒険者の者と一致した」
「な……」
血の気が引く。身に覚えなど、まるでない。
「血液って、そんな……俺は、誰かを傷つけた覚えなんてない。本当に、何も知らないんだ」
必死に言葉を絞り出す。
信じてもらえるとは思っていなかった。それでも、黙っているわけにはいかなかった。
アザレアは、しばらく無言で俺を見据えていた。
値踏みするような視線の中に、これまでとは違う、何か観察するような色が混じっている。
「……まあ、血液の一件は表向きの理由だ」
「表向き……?」
「本当の理由は、別にある」
アザレアの声が、一段低くなる。
「お前の胸に刻まれてる、その印だ」
心臓が、跳ねた。
「この帝国じゃあ、悪魔と契約した人間は、問答無用で処刑対象になる。理由も経緯も関係ない。印がある――それだけで、十分な処刑理由になる」
「契約なんて、してない……! 俺は、何も――」
「お前がどう思ってようと関係ない。あれは、契約の証だ。それを刻まれた時点で、お前はもう『そちら側』の人間として扱われる」
理不尽だ、と叫びたかった。
だが、あの闇の中で刻まれた傷の熱と痛みを思えば、否定しきれない自分もいた。
「――聞かせろ。お前と悪魔の間で、どんな契約があった」
「……分からない」
「なら聞くが、お前はあの時、何を願った?」
「……何を?」
「悪魔を前にして、何も願わなかったのか?」
「…………」
そこで初めて、あの時の記憶が脳裏を掠めた。
――この世界で、生き抜く力が欲しい。
「……本当に分からないんだ」
俺は、それ以上を口にできなかった。
そう答えるしかなかった。
「気付いたら、これが刻まれてた。何を約束させられたのか、何を差し出したのか――そんなものは、何一つ覚えてない。本当だ」
「ふん」
アザレアは、鼻を鳴らした。信じたわけではないだろう。
それでも、それ以上追及してはこなかった。
「――なら、質問を変える。お前、どこから来た」
「……日本だ」
「にほん?」
聞き覚えのない単語に、アザレアの片眉が跳ね上がる。
「聞いたことのない国名だな。この大陸のどこにも、そんな国はない」
「大陸とか、そういう話じゃなくて――」
説明しようとして、言葉に詰まる。
どこから話せばいいのか、自分でも分からなかった。
「気付いたら、迷宮の中にいたんだ。目が覚めたら、あの円形の広間にいた。その後化け物に襲われて……何がどうなってるのか、俺が一番知りたいくらいだ」
「円形の広間?お前、深層にいたのか」
「分からない、だけど」
アザレアは顎に手を当て、どこか得心がいったような表情をする。
「なるほど、な」
「……何が、なるほどなんだよ」
「お前、召喚者か」
その一言に、息が止まった。
「遠方にある西の王国では召喚の儀と称して勇者召喚をしていると聞いたことがある。異世界から人間を呼び出して、『勇者』に仕立て上げる――そういう国家事業だ。帝国じゃ縁のない話だが、噂くらいは耳にしたことがある」
アザレアは、椅子に深く座り直し、俺を興味深そうに眺めた。
「まさか、その召喚に巻き込まれた人間が、こんな形で帝国の迷宮に転がり込んでくるとはな」
「巻き込まれた……?」
「まだ可能性の話だが状況的にはそうだ」
アザレアは、しばらく黙って俺を見据えていた。それから、静かに口を開く。
「――死刑を回避する方法が一つだけある」




