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35話 第一師団の実力

すみません、今週全く投稿できませんでした。なんとか続けていきます。

拳と刃が交差し、火花が散った。


轟音が響き、石畳が大きく砕ける。


数えることすら意味を失うほど、二人の攻防は加速していく。


ロガーの右拳が大剣の腹を叩き、アレクが刃を返す。


ロガーは首を逸らして斬撃を躱し、返す左拳を叩き込む。


アレクは柄で受け止め、そのまま大剣を滑らせて肘打ちを受け流した。


次の瞬間には、ロガーの蹴りが大剣の側面を打ち抜く。


アレクの身体が僅かに流れた。


だが、その勢いを利用して大剣を旋回させる。


ロガーは身を沈め、刃の下を潜り抜けた。


拳が迫る。


大剣が立ちはだかる。


ロガーの拳を受け止めたアレクは、僅かに足を沈ませただけだった。


「……なるほど」


大剣越しに伝わってくる重さを確かめるように、アレクが呟く。


「さっきより、ずいぶん重くなったね」


「はっ!」


ロガーが笑う。


「分かるか!」


拳を引くと同時に、今度は反対の腕を振り抜く。


アレクは大剣を傾け、その一撃を滑らせるように受け流した。


しかし、ロガーは止まらない。


間髪入れずに繰り出される攻撃が、次々とアレクへ襲いかかる。


二人の攻撃は、数百回にわたって交差した。


一歩踏み込むたびに、衝撃波が街路を走る。


ロガーの拳が大剣を弾けば、アレクの刃がその腕を掠める。


アレクが斬り込めば、ロガーは紙一重で躱し、懐へ潜り込んで拳を叩き込む。


その拳を大剣の柄で受け止めた瞬間、アレクの足元が数メートルにわたって削れた。


その後、ロガーの腹の底から、雄叫びが放たれる。


「――ぐ、おおおおおおおおおおッ!!」


咆哮に魔力が乗り、空気そのものが震動する。周囲の瓦礫が、音の圧力だけで細かく砕けていった。


「――『銘』、不屈の闘志(ジェヴォーダン)」


ロガーの体が、内側から膨れ上がるように闘気を増す。血管が浮き上がり、瞳の色が、燃えるような赤へと変わっていった。


ロガーが吠え、連続して拳を繰り出す。


その全てを、アレクは大剣で受け、流し、逸らしていく。


刃が拳を弾く。


柄が肘を受ける。


剣身が蹴りを受け止める。


そのたびに、凄まじい衝撃が周囲へ放たれ、建物の壁が震えた。


「まだだァッ!」


ロガーの拳がさらに速くなる。


アレクの大剣もまた、残像を生むほどの速度で応じた。


拳と大剣が、視界を埋め尽くす。


火花が連続して弾け、まるで二人の間に雷が落ち続けているかのようだった。


それでも、ロガーは笑っていた。


「ははは!こんな人間もいるのか!」


拳を振り抜く。


アレクは大剣を盾のように構えた。


衝撃が弾け、二人の身体が同時に後方へ弾かれる。


だが、着地した瞬間には、再び互いへ向かって駆け出していた。


交差するたびに、攻撃の速度と威力は増していく。


その一撃一撃が、先ほどまでとは明らかに違っていた。


速く、そして重い。


アレクの大剣が何度も火花を散らし、受け流した衝撃が周囲の建物を揺らす。


「おらぁッ!」


ロガーが大きく踏み込む。


拳が振り抜かれた。


アレクは身を逸らす。


頬のすぐ横を拳が通り過ぎ、背後の石壁が粉々に砕け散った。


その隙を狙い、アレクが大剣を振る。


ロガーは身体を捻って躱した。


刃が脇腹を掠め、衣服が裂ける。


「まだまだァ!」


ロガーの口から、獣じみた笑い声が漏れた。


その身体には、すでにいくつもの傷が刻まれている。


それでも、倒れるどころか――強くなっていた。


ロガーが胸いっぱいに息を吸い込む。


そして。


「――オオオオオオオオオオオオッ!!!」


魔力を込めた咆哮が、帝都を揺らした。


空気そのものが震え、周囲の窓ガラスが一斉に砕け散る。


レオンは思わず腕で顔を覆った。


ただの雄叫びではない。


膨大な魔力が、声となって放たれている。


ロガーの身体から、凄まじい魔力が噴き上がった。


「――『不屈の闘志(ジェヴォーダン)』!」


その瞬間。


ロガーの身体能力が、さらに跳ね上がった。


筋肉が軋み、踏み込んだ地面が陥没する。


傷つけば傷つくほど。


追い詰められれば追い詰められるほど。


その戦闘能力は際限なく高まっていく。


「厄介だね。普通の相手なら、削れば削るほど不利になっていくわけだ」


「さあ――死ねぇッ!」


ロガーが消えた。


「――ッ!」


レオンの目では、完全に追えなかった。


次の瞬間には、アレクの目の前へ到達している。


拳が振り抜かれる。


アレクは大剣を盾のように構えた。


――ドンッ!!


身体ごと吹き飛ばされるほどの衝撃。


だが。


アレクは倒れなかった。


大剣を支点にして衝撃を逃がし、地面を滑りながら体勢を立て直す。


「……ずいぶん速くなったね」


その表情に、焦りはない。


激しい攻防が、瞬く間に幾度も繰り返される。


ロガーの攻撃は一撃ごとに鋭さを増していた。


だが、それでも――。


「……当たらねえ!」


ロガーが吠える。


どれだけ速くなろうと。


どれだけ重くなろうと。


アレクには届かない。


身体を僅かに逸らす。


大剣の腹で拳を流す。


半歩下がる、刃を返す。


「くそがァッ!」


ロガーが拳を振り下ろす。


アレクは横へ一歩移動した。


拳が地面を砕く。


その直後。


アレクの大剣が、ロガーの肩を打ち抜いた。


「ぐっ……!」


ロガーの身体が僅かに沈む。


だが、すぐに笑った。


「そうだ……それでいい!」


ロガーの傷が増えていく。


そのたびに、ロガーの力は増していく。


「もっとだ! もっと俺を楽しませろ!」


アレクは静かにロガーを見つめた。


そして、大剣を地面へ突き立てる。


「そうだね」


周囲の魔力が一瞬で変質する。


次の瞬間。


六属性の魔法が、間断なく連続で繰り出されていく。まるで巨大な弾幕のように空間を埋め尽くし、逃げ場を塗り潰していった。


ロガーの表情が止まる。


「――ッ!」


ロガーが笑った。


「最高じゃねえかッ!!」


「――ッ、はぁッ!!」


ロガーは、雄叫びとともにその全てを受け止めていく。炎に焼かれ、水に刺され、土塊に殴られながらも、傷を負うたびに、その体はさらに膨れ上がっていった。銘の効果が、着実に彼を強化し続けている。


だが――削られているのは、肉体だけではなかった。


六属性、絶え間ない連撃。防御に徹しているとはいえ、意識を張り詰め続ける負荷は、決して軽いものではない。


最後の一撃――闇属性の奔流を、ロガーはなんとか腕で受け切った。


「――は、ぁ……」


一瞬。ほんの一瞬だけ、ロガーの呼吸が乱れた。全弾を凌ぎきったという安堵と、消耗による僅かな虚脱。


その隙を、アレクシスは見逃さなかった。


気づいた時には、既に背後に回り込んでいた。


大剣が、一閃する。


抵抗する間もなかった。ロガーの首が、綺麗に両断され、地面へ落ちる。膨れ上がっていたはずの巨躯が、糸の切れた人形のように崩れ落ちていった。


静寂が、戦場に戻る。


「……嘘、だろ」


レオンが、掠れた声を漏らした。


「銘を、使わずに……あいつを……」


アレクシスは大剣を下ろし、こちらを振り返った。その顔には、汗の一つも浮かんでいない。


「ああ、それなんだけどね」


苦笑交じりに、頭を掻く。


「僕はずっと、銘を使ってたよ」


「……は?」


「生まれた時から、ずっとね」


その一言に、レオンは言葉を失った。


意味が、すぐには理解できなかった。発動する瞬間も、名乗りも、何一つなかった。それなのに、最初から発動していたと言われても、実感が伴わない。


「一体どうやったらアンタみたいに強くなれる…!」


アレクシスは一瞬困惑した表情を見せたが、口を開く。


「すまない、僕は人に教えるような力は持ってないんだ。それに――」


「もう君は答えは持っているだろう?」


アレクシスは、そう言って笑うと、レオンの傍らへ屈み込んだ。


「今は、ゆっくり休みなよ。よく持ち堪えたね」


その優しい声音に、レオンは何も返せなかった。ただ、崩れ落ちたロガーの死体と、何一つ気負った様子のないアレクシスの横顔を、交互に見つめることしかできなかった。

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