31話 局所戦
軍務府から各師団へ、緊急通信が入った。
『第四師団より全軍へ通達。先ほど確認した敵性勢力について、追加報告を行う』
戦場の各所に散っていた兵士たちが、通信魔道具へ耳を傾ける。
『確認された敵は四名。特徴、魔力反応、行動から判断して――四名は魔人である可能性が極めて高い』
その言葉が、帝都を駆け巡った。
「……魔人、だと?」
第七師団の駐屯地。
レオンが通信魔道具を握ったまま、眉をひそめる。
「四人……」
◇
一方、別の区画。
グレンは交戦中の敵兵を睨みながら、通信に耳を傾けていた。
『各魔人はすでに帝都各区画へ散開していると思われる』
「……四人か」
グレンは口元を僅かに吊り上げる。
「ちょうどいい」
その声には、恐怖など欠片もなかった。
むしろ――待ち望んでいたようだった。
◇
同じ頃。
アザレアも通信を受け取っていた。
『確認された敵は四名。魔人である可能性が極めて高く――』
「四人も帝都に入り込んじまったのか?」
アザレアが眉をひそめる。
「第五は一体何してんだよ」
『現在、各師団がそれぞれ対応に――』
通信を切る。
アザレアは帝都を見渡した。
「……一番近いのは……東か」
アザレアは踵を返した。
◇
第三師団の女兵士が数人のオラス兵に囲まれていた。
「っ……!」
女兵士が剣を構える。
一人の剣を受け流し、反撃する。
しかし、すぐに別の兵士が横から斬り込んできた。
「くっ……!」
身を捻ってかわすものの、次々と繰り出される攻撃に押されていく。
「……まずいわ」
このままでは、援軍が来る前に押し切られる。
女兵士の額を、冷たい汗が伝った。
――その瞬間。
目の前にいたオラス兵が、突然吹き飛んだ。
「……は?」
何が起きたのか分からない。
ただ一人の青年が、女兵士とオラス兵の間に立っていた。
黒い髪。
軍人として一際目を引く体格。
鋭い目つきは、目の前のオラス兵を射抜くように向けられている。
身に纏っているのは帝国軍の軍服。
その腕には――第七師団の腕章。
右腕に黒い渦が集まる。
次の瞬間、青年が踏み込んだ。
オラス兵が次々と吹き飛んでいく。
最後の一人が倒れるまで、ほとんど時間はかからなかった。
「……」
女兵士は剣を構えたまま、呆然と立ち尽くしていた。
先ほどまで自分が苦戦していた相手を、たった一人で。
青年は倒れたオラス兵を確認する。
「大丈夫か?」
「え……あ、はい」
「ならよかった」
青年は踵を返す。
「あ、あの」
「悪い、急いでるんだ」
それだけ答えると、青年は再び走り出した。
少し遅れて、別の金髪の青年が女兵士の横を通り過ぎる。
「クロスさん、いくっスよ~」
「分かってる!」
「またうんこっスか~?」
「違ぇよ!」
二人の姿が路地の向こうへ消えていく。
「……クロス……?」
女兵士は、しばらくその背中を見つめていた。
「……何なの、あの人」
そして、自分が助けられたことを思い出したように、ゆっくりと剣を収めた。
◇
『――魔人である可能性が』
「なるほど…な…おいお前。魔人ってお前か?」
バルドルが首をかしげながら聞く。
「……そういうことになるね」
目の前に立つのは、静かな少年だった。
ただ、そこに立っているだけで――妙な寒気がする。
「僕の名前はネス」
少年は淡々と名乗った。
「君は?」
「名乗る必要ねぇだろ」
ネスはバルドルをしばらく見つめる。
「…そうだね、今から死ぬのに聞く必要なかったね」
「死ぬのはおめぇだよ!!!」
距離を詰めたバルドルの一撃が、真正面からネスへと迫る。
ネスは、僅かに笑った。
「……それを決めるのは――君じゃない」
◇
帝都西区画。
第六師団が設置した臨時治療所では、運び込まれる負傷者への対応が続いていた。
「次、こっち!」
「止血を急げ!」
慌ただしく声が飛び交う中、ダリスが負傷兵の状態を確認していく。
「この人は重傷だ。先に処置する」
「了解!」
ミアも黙々と治療の手伝いをおこなっている。
「先生!」
一人の兵士が駆け込んでくる。
「市民の避難状況ですが、ほぼ完了したとのことです」
「そうか」
ダリスが頷く。
「軍の皆が頑張ってくれたんだろう」
帝都では、今も爆発が続いている。
それでも、街から人の姿はほとんど消えていた。
帝国軍は戦闘よりも先に、市民を戦場から退避させることを優先した。
その結果、この大規模な襲撃でありながら、市民の被害は最小限に抑えられていた。
「先生!」
別の兵士が声を上げる。
「魔人との戦闘が始まったようです!」
「……そうか」
ダリスは一瞬だけ外へ目を向ける。
「俺たちはここを守るぞ」
「はい!」
「了解!」
兵士達が走り去る。
その直後、また一人の負傷者が運び込まれた。
「次の患者です!」
「こっちへ!」
ミアが駆け寄る。
そして帝都各地で、魔人と帝国軍が激突する。




