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30話 魔人襲来

帝都南区画。


とある建物の屋上に、四人の影が立っていた。


眼下では、いくつもの場所から黒煙が立ち上っている。


遠くからは爆発音と怒号が断続的に響いていた。


「……こんなもんか」


カルナが呟いた。


「何が?」


ネスが尋ねる。


「クレイヴェル帝国だよ」


カルナはつまらなそうに街を見下ろした。


「もっと骨のある連中が、大勢いると思ってた」


「オラスと大して変わらない、と?」


「ああ」


ロガーが鼻で笑う。


「少しばかり街がデカくて、人間が多いだけだろ」


「軍務府には、それなりの魔力を持った連中が集まっているみたいだけどね」


サロマが遠くへ視線を向ける。


「でも、今はこっちの方が圧倒的に有利」


ネスが言葉を引き取った。


帝都では、すでに各地で爆発が起きている。


建物の倒壊。


市民の混乱。


軍の分断。


そして、それに乗じたオラス兵の侵入。


帝国が本来の戦力を発揮できる状況ではない。


「向こうは守らなきゃならないものが多すぎる」


ネスが淡々と続ける。


「皇宮、重要施設、市民……。どこか一つを捨てて、戦力を集中させることもできない」


「だったら簡単じゃねえか」


ロガーが拳を鳴らす。


「ぶっ壊して、ぶっ殺せばいい」


「今回の目的は殺戮じゃないよ」


サロマが笑う。


「分かってる」


ロガーはつまらなそうに答えた。


カルナは三人の会話を聞きながら、自分の右手を見た。


そこには黒い紋様――印が刻まれている。


今回の依頼を持ち込んだ、カルナの契約悪魔。


『アザレア・エーデルハルトを捕らえろ』


それが今回の目的だった。


殺せないのが残念だが生きてさえいればいい。


「カルナ」


ネスが声をかける。


「標的は?」


「第七師団長、アザレア・エーデルハルト」


カルナは帝都を見下ろした。


「そいつを捕まえる」


「それが今回の依頼」


「ああ」


カルナは口角を上げる。


「だが、それだけじゃねぇ」


遠くで爆発が起こった。


ドォンッ!!


黒煙が空へ昇っていく。


「帝国がどれだけ強ぇのか。それも見せてもらおうぜ」


「魔人族は既に滅んだ」


そう信じている者は、この世界に多い。


だからこそ――。


「その認識をひっくり返す」


ネスが続ける。


「魔人族は滅びてなんかいない」


ロガーが拳を握る。


「人間なんかに負ける存在じゃねえってことを教えてやる」


カルナが笑った。


「そのための帝都だ」


四人は、それぞれ別の方向へ視線を向ける。


「じゃあ、探すとしようか」


ネスが言う。


「アザレア・エーデルハルトを」


「俺は西」


ロガーが歩き出す。


「私は東へ」


サロマも続く。


「カルナは?」


ネスが尋ねる。


「俺は中央だ」


「じゃあ残ったとこは僕で」


カルナは少し考えたあと、そう答えた。


「まずは一番強い奴がいる場所に行く」


四人は、それぞれ帝都へ散っていった。


◇


「……いた」


建物から少し離れた屋根の上。


二つの影が身を伏せていた。


第四師団の偵察兵だ。


女が望遠鏡を下ろす。


「何人?」


男が尋ねる。


「四人」


「オラス兵は?」


「周囲に多数」


女が再び望遠鏡を覗く。


「でも、あの四人だけ違う」


四人の周囲にいるオラス兵たちは、明らかに彼らを恐れていた。


一人の兵士が何かを報告すると、カルナが短く指示を出す。


それだけで、オラス兵たちが一斉に動き始める。


「指揮官か?」


「違う」


女が首を横に振る。


「たぶん、もっと上」


男は息を呑んだ。


「じゃあ、あの四人が今回の首謀者……?」


「分からない」


女は四人を見つめる。


「でも――」


その視線がカルナで止まった。


「……あの男」


「どうした?」


「怖い」


「え?」


「あの男だけじゃない」


女は四人を順番に見る。


「四人とも……おかしい」


そこに立っているだけで、近づいてはいけないと本能が告げている。


「親分と同じくらい……」


女の声が僅かに震えた。


「いや」


男が四人を見る。


「違う」


「……何が?」


「もっと嫌な感じがする」


男は通信魔道具を取り出した。


「報告する」


『こちら第四師団、偵察班』


通信が繋がる。


『帝都南区画にて、正体不明の戦力四名を確認』


男が続ける。


「オラス兵と行動を共にしています。四名とも通常の兵士とは明らかに異なる戦力を有している可能性があります」


『所属、目的は不明』


「ですが――」


女が望遠鏡を覗きながら口を開く。


「四人のうち一人が、周囲のオラス兵へ指示を出しています」


『指揮系統を掌握している可能性あり』


「各師団へ警戒を――」


そこで、女が言葉を止めた。


次の瞬間――。


二人の目の前に、カルナが立っていた。


「――見つけた」


男が短剣を抜く。


だが、カルナの拳が振り抜かれる。


「ぐっ……!」


男の身体が吹き飛ぶ。


「くっ……!」


女も応戦しようとする。


しかし、一瞬で間合いを詰められた。


「遅ぇ」


衝撃。


視界が大きく揺れる。


『こちら……第四師団……』


途切れ途切れの声が響く。


『南区画……正体不明の四人……』


『…即…撤………』


そこで通信が途切れた。


◇


軍務府。


通信を聞いていたラウルが、ゆっくりと顔を上げた。


「……切れた?」


隣にいた兵士が頷く。


「はい。偵察班からの通信が突然」


「二人は?」


「応答がありません」


ラウルはしばらく黙っていた。


「……そうか」


「救援を――」


「必要ねぇ」


「ですが――」





「もう死んでる」


兵士が息を呑む。


ラウルは通信魔道具を見つめた。


「あいつらは第四師団の人間だ」


「……?」


「任務中に通信を切るような連中じゃねぇ」


ラウルが顔を上げる。


「切ったんじゃない」


「……」


「切られたんだよ」


室内に、重い沈黙が落ちる。


ラウルは通信魔道具へ手を伸ばした。


「全師団へ再通達」


「はい」


「南区画で確認された正体不明の戦力――」


一瞬だけ、ラウルの目から笑みが消える。


「絶対に単独で接触するな、かなりの手練れがいる」


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