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28話 帝国軍会議

帝国軍軍務府。


普段なら静寂に包まれている会議室に、重い足音が次々と響いていた。


扉が開く。


最初に姿を現したのは、第一師団長――ルシウス。


第二師団長グレン。


第三師団長セドリック。


第四師団長ラウル。


第五師団長エルウィ。


第六師団長セレネ。


そして最後に――。


「お、意外と皆早いじゃねえか」


赤髪の女が入ってくる。


第七師団長、アザレア・エーデルハルト。


全員が揃った。


会議室の最奥。


巨大な地図を背にして立っていた男が、ゆっくりと口を開く。


「全員、揃ったな」


帝国軍元帥。


ヴィルヘルム・クロイツ。


その声が響いた瞬間、部屋の空気が引き締まった。


「現在、帝都各地で魔道具の暴走による爆発が発生している」


誰も口を挟まない。


「さらに、帝都内部へ多数の賊が侵入した」


グレンが口角を上げる。


「へえ……賊が帝都にねぇ」


「笑っている場合ではないぞ、グレン」


セドリックが睨む。


「わーってるよ」


ヴィルヘルムは二人を無視して続ける。


「第三師団からの報告では、重要施設の一部が爆発に巻き込まれている。第四師団からは、賊が魔道具を転移元として帝都内部へ侵入したとの報告を受けている」


アザレアの眉が僅かに動いた。


「転移元に魔道具を?」


「ああ。通常の魔道具ではない」


「一般的な転移の魔道具なんて人一人が限界サ。一回使用すると回路が焼き切れ二度目の使用が不可能な物ダ」


エルウィは右手の義手を回転させながら忌々しそうに呟く。


ヴィルヘルムは地図上の帝都を指でなぞる。


「今回の事件は、単なる魔道具の暴走ではない。何者かが意図的に帝都内部への侵入と爆発を同時に仕掛けた可能性が高い」


「つまり――」


ルシウスが口を開く。


「これは組織的な襲撃だと?」


「その可能性が高い」


部屋に沈黙が落ちる。


ヴィルヘルムは全員を見渡した。


「これより各師団に対応を割り振る」


まず、ルシウスを見る。


「第一師団」


「はっ」


「皇帝陛下、皇族の安否は」


「すでに確認を開始しております。皇宮内の警備も厳戒態勢中」


「大貴族の居住区は?」


「こちらも確認を進めています。現時点で大きな被害は確認されておりません」


「よし。そのまま警護を継続しろ」


「承知した」


「ただし、皇宮及び皇族の安全が確保でき次第、余剰戦力の一部を賊の鎮圧へ回せ」


ルシウスが頷く。


「皇帝陛下の安全を最優先としつつ、可能な限り戦力を派遣しよう」


「頼む」


続いて、グレンへ視線を移す。


「第二師団は賊の対応を最優先とする」


「了解」


グレンの口元が、僅かに吊り上がった。


「ただし、全てを殺すな」


「……あ?」


グレンの表情から笑みが消えた。


「最低でも数人は捕らえろ。尋問はこちらで行う」


グレンは露骨に嫌そうな顔をした。


「チッ……分かったよ」


明らかに不満そうではあったが、グレンは頷いた。


ヴィルヘルムの声が低くなる。


「数が多い。無理に追撃するな。各所の戦力と連携し、確実に制圧しろ」


「数は?」


その質問に、ヴィルヘルムはラウルを見る。


「第四師団から報告させる」


ラウルが一歩前へ出た。


「現時点で確認できている侵入者は、およそ二百から三百」


「二百……三百だと?」


セドリックが眉をひそめる。


ラウルは肩をすくめた。


「帝都の中に突然、それだけの人数が湧いたんだ。そりゃ驚くわな」


「侵入者の出所は?」


アザレアが尋ねる。


ラウルの表情から笑みが消える。


「北方の新興国、オラス」


「オラス……」


セレネが小さく呟く。


「近年、国内で大規模な内乱があった国だな」


「そうだ」


ラウルは続ける。


「その内乱で国のトップが入れ替わった。新政権になってから、魔人との接触があるという噂も流れている」


「魔人……」


会議室の空気が僅かに変わった。


アザレアが目を細める。


「確証は?」


「新政権は旧体制の人間を大量に排除し、軍備の増強を急速に進めている」


「それだけなら珍しくない」


「きなくせぇのは、魔人と思われる不明な相手との接触記録が確認されていることだ」


ラウルは自身の爪を眺めながら答える。


「……ま、俺なら証拠が出るまで待つより、出した奴ごと消しちまうがね」


ヴィルヘルムが頷く。


「引き続き調査しろ。第四師団は帝都各地の状況を把握し、各師団へ情報を共有。現場への指示伝達もお前たちに任せる」


「了解」


「報告は逐次行え」


「もちろん」


次に、セドリックへ視線が向く。


「第三師団は帝国市民の避難誘導、重要施設の警備を強化。特に帝都の行政施設、軍事施設、主要な魔道具関連施設を優先しろ」


「承知しました」


「それと、魔道具の暴走への対応も任せる」


「現在、現場には既に部隊を向かわせています」


「そのまま続けろ」


セドリックは深く頷いた。


「続いて第五師団」


エルウィが


「今回使用された魔道具について報告しろ」


「既にほぼ無効化したヨ」


「……ほぼ?」


エルウィは地図を見る。


「転移や爆発に利用された魔道具は、こちらで機能停止させタ。ただ――」


指を三か所に置く。


「まだ三か所、私の対象範囲外に残っていル」


「場所は?」


「こちらと、こちら。それから――ココ」


帝都の各所に印が付けられた。


「なんともいやらしい配置だネこれは。能力を知っている奴の仕業かナ」


ヴィルヘルムがセドリックを見る。


「第五師団は現場へ技術要員を派遣、第三師団と連携して処理しろ」


「承知しました」


「伝えとくヨ」


続いて、セレネ。


「第六師団は帝都内の安全な場所に救護所を設置しろ、帝国民の命が最優先だ」


「既に準備を進めています」


セレネは穏やかな表情のまま答えた。


「頼む」


そして最後。


ヴィルヘルムはアザレアを見る。


「第七師団」


「ああ」


「第二師団の担当区域を補完しろ」


アザレアの眉が僅かに動く。


「あ?第二のお守りってことか?」


「はぁ?第七の支援なんていらねーよ」


グレンはアザレアを睨みつける。


「グレン、最近大した活躍もしていないから焦っているのか?」


「…っアザレア!」


「お前達」


ヴィルヘルムの低い声が飛ぶ。


「命令だ」


「分かったよ」「…チッ」


ヴィルヘルムは全員を見渡す。


「以上だ」


誰も動かない。


「今回の襲撃は、帝都そのものを狙った可能性がある」


その言葉に、全員の表情が変わった。


「各自、己の役割を果たせ」


「――帝国軍、総員出撃だ」


椅子が一斉に引かれる。


各師団長が立ち上がった。


「……」


「俺が全員ぶちのめしてやる」


「承知いたしました」


「ちょっとだけ面白くなってきたな」


「小国程度に後手に回るだなんテ、恥だヨ恥」


「怪我人を待たせるわけにはいきません」


「いくぞーお前ら」


「テメェが仕切んな!」


それぞれの言葉を残し、師団長たちは会議室を後にしていく。

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