27話 帝都侵入
帝都・軍務府。
「――第三師団より緊急報告!」
慌ただしい足音とともに、兵士が執務室へ駆け込んできた。
「帝都各地で、魔道具の暴走による爆発が発生!現在、第三師団が現場の封鎖と住民の避難にあたっています!」
机の前に立つ男は、報告を聞いても表情を変えなかった。
ヴィルヘルム・クロイツ。
帝国軍の頂点に立つ元帥である。
「被害状況は」
「正確な数はまだ……ですが、複数の区画で同時に発生しているとのことです」
「分かった。続報を待て」
「はっ!」
兵士が敬礼し、部屋を出ていく。
ヴィルヘルムは椅子へ腰を下ろすことなく、窓の外を見つめた。
帝都の各所から、黒煙が上がっている。
「……魔道具の暴走、か」
偶然とは考えにくい。
その時だった。
「失礼します!」
再び扉が開く。
「第四師団より緊急報告です!」
「言え」
「帝都内部に、身元不明の賊が侵入しました!」
「……何?」
ヴィルヘルムの眉が僅かに動く。
「侵入経路は確認できているのか?」
「それが……」
兵士が一瞬言葉を詰まらせる。
「帝都内に設置・流通されている魔道具を転移元として、突然出現したものと推測されています」
「転移だと?」
「はい。監視記録には、賊が外部から侵入した形跡がありません」
ヴィルヘルムは沈黙する。
魔道具の暴走。
身元不明の賊。
そして、帝都内部への転移。
「……繋がっている可能性が高いな」
「私もそう考えます」
ヴィルヘルムはすぐに判断を下した。
「全師団長を招集しろ」
「はっ!」
「緊急軍議を開く。各師団長が到着するまでの間、現場は副師団長の指揮で対応させろ」
「承知しました!」
「異常があれば、すぐに報告させろ」
兵士が駆け出していく。
ヴィルヘルムは再び窓の外を見る。
「……何者だ」
その呟きに答える者はいなかった。
◇
第七師団駐屯地。
――ドォンッ!!
「うおっ!?」
「クロスさん! 今の聞いたっスか!?」
突然、帝都のどこかで爆音が響いた。
「……なんだ?」
俺はソルトと顔を見合わせる。
「今の、かなり近くなかったっスか?」
「ああ」
その直後、再び――。
――ドォンッ!!
今度は先ほどよりも大きな爆音。
部屋の窓が僅かに震えた。
「……爆発っスよね?」
「たぶんな、しかもかなり近い」
「外を見てみよう」
俺たちは急いで外へ出た。
すると――。
「……なんだ、あれ」
駐屯地の中央。
そこに、見慣れない集団が立っていた。
人数は三十人ほど。
全員が、赤色のローブを身に纏っている。
顔はフードで隠され、誰一人として素顔が見えない。
「……誰っスか、あれ」
「俺に聞くなよ」
異様な空気だった。
そのうちの一人が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「お前たちはここの所属の兵士か」
「……そうだが」
「ならば聞きたい」
男が立ち止まる。
「アザレア・エーデルハルトはどこにいる?」
ソルトの表情が変わった。
「……何の用っスか?」
「質問に答えろ」
「それを聞いてどうするんスか?」
男は黙って俺たちを見る。
その視線には、迷いがない。
「アザレアとやら女に用がある」
「だったら正式な手続きを踏めよ」
俺が言う。
「ここは軍の駐屯地だ。いきなり乗り込んできて、師団長を出せと言われて素直に教えると思うか?」
「……そうか」
男は小さく息を吐いた。
「ならば、仕方がない」
ローブの袖から、何かが滑り落ちる。
小さな魔道具だった。
「――ッ!」
俺は反射的に身構える。
次の瞬間。
男の足元に魔法陣が広がった。
「クロスさん!」
「下がれ!」
俺はソルトの腕を掴み、後方へ飛ぶ。
――ドンッ!!
魔法陣から衝撃が走り、地面が大きく揺れた。
「なっ……!」
土煙が舞い上がる。
その向こうから、別のローブ姿の男たちが一斉に動き出した。
「敵襲だ!」
誰かが叫ぶ。
駐屯地の警報が鳴り響いた。
「第七師団、戦闘態勢!」
次々と団員たちが武器を手に飛び出してくる。
「クロスさん、どうするっスか!?」
「どうするって……」
俺は右手を前へ向ける。
掌に、黒い渦が生まれた。
「――迎え撃つしかないだろ」
目の前には、赤色のローブを纏った集団。
その先頭に立つ男が、静かに口を開いた。
「アザレア・エーデルハルトを出せ」
「断る」
「ならば――」
男が手を上げる。
「ここで死んでもらう」




