26話 爆破事件
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帝都に来てから、何度目になるだろう。
今年も、ミレーユの誕生日がやってきた。
バルドルは任務を終えると、寄り道もせず孤児院へ向かっていた。
手には、小さな箱が一つ。
「……これで喜ぶかねえ」
店員に勧められるまま買ったものだ。
自分で選んだわけではない。
そもそも、こういうものを選ぶのは苦手だった。
それでも、ミレーユが喜ぶ顔を想像すると、悪い気はしなかった。
孤児院の扉を開ける。
「バルドル兄ちゃん!」
「おかえり!」
子供たちが一斉に駆け寄ってくる。
「おう。元気そうだな」
「今日はミレーユさんの誕生日だよ!」
「知ってるよ」
「プレゼント持ってきた?」
「……持ってる」
バルドルが箱を見せると、子供たちが一斉に覗き込む。
「なにそれ!」
「ミレーユにあげるんだよ!」
「見せて!」
「お前らのじゃねえ」
子供たちを追い払うように箱を隠す。
「ミレーユはどこだ?」
「部屋にいるよ!」
「そうか」
バルドルが歩き出そうとした、その時だった。
「そういえばさ」
ソラが何気なく口を開いた。
「この前、軍人のお兄ちゃんに助けてもらったよ!」
「そうか、ちゃんとお礼言ったか?」
「うん、ケイ兄ちゃんまた来るって!」
バルドルの足が止まる。
「……誰って?」
「ケイ兄ちゃん!」
「もしかしてクロスって名前じゃなかったか?」
「うん!」
別の子供が嬉しそうに頷く。
「僕たちと遊んでた!」
「お菓子もくれたよ!」
「腕章も見せてくれた!」
「…………」
バルドルの眉間に皺が寄る。
「……あいつが、ここに来たのか?」
「うん!」
「何をしていた」
「だから、僕たちと遊んでたって!」
「…………」
拳が、僅かに握られる。
クロス。
あの男の顔が脳裏に浮かんだ。
模擬戦で見せた、あの黒い渦。
本人ですら理解していない、得体の知れない力。
悪魔の印を持った人間。
そんな奴が――。
「……何を考えてやがる」
低い声が漏れる。
「バルドル兄ちゃん?」
「なんでもねえ」
そう言いながらも、表情は険しいままだった。
その時――。
――ドォンッ!!
「――ッ!?」
帝都のどこかで、轟音が響いた。
建物が僅かに揺れる。
子供たちの笑い声が、一瞬で消えた。
「な、何……?」
「今の音……?」
バルドルは窓へ駆け寄る。
遠くの街並み。
その一角から、黒い煙が立ち上っている。
「……爆発?」
次の瞬間。
――ドォンッ!!
今度は別の方向。
さらに、
――ドォンッ!!
「…………」
一度じゃない。
二度、三度。
爆発音は帝都の各地から響いてくる。
「バルドル兄ちゃん……」
子供たちが不安そうにこちらを見る。
バルドルはすぐに振り返った。
「全員、地下へ行け」
「え?」
「早くしろ!」
普段とは違う声だった。
子供たちが慌てて動き始める。
その直後。
腰に付けていた通信魔道具が震えた。
「……ロゼか」
魔道具を起動する。
『バルドル、聞こえる?』
「聞こえる。何が起きてる」
『帝都各地で魔道具の暴走による爆発が発生してる』
「魔道具の暴走?」
『そう。原因はまだ分かってないの』
ロゼの声色は、いつもより少し固い。緊迫した状況だということが分かる。
『現在、各師団が対応に向かってるみたい。でも――』
「でも?」
『発生した場所が多すぎる』
バルドルは窓の外を見る。
まだ煙が上がっている。
『これだけの被害、人手がきっと足りなくなる。今も新しい爆発が確認されてる』
「……それで?」
『第四師団から応援要請がきたわ』
「場所は」
『甚大な被害を確認出来ているのは、南区画。工房街よ』
「分かった」
『バルドル』
「なんだ」
『無茶はしないでよ!』
「……俺を誰だと思ってやがる」
それだけ言って通信を切った。
振り返る。
子供たちはすでに地下へ向かっていた。
その中に、ミレーユの姿を見つける。
「バルドル!」
ミレーユがこちらへ駆け寄ってくる。
「一体何が起こっているの?」
「大丈夫だ、子供たちと避難していてくれ」
「…それと、これ」
バルドルは持っていた箱を差し出した。
「私に?」
「ああ」
ミレーユは両手で箱を受け取る。
「開けてもいいかしら?」
「……帰ってくるまで待ってくれ」
「ええ、必ず帰ってきてね」
ミレーユは小さく笑う。
「ああ、約束する」
ミレーユが頷く。
バルドルは踵を返した。
「バルドル!」
呼び止められる。
振り返ると、ミレーユが箱を持ったまま立っていた。
「絶対帰ってきてね」
「……ああ」
短く答え、孤児院を出る。
外へ出た瞬間、爆発音が響いた。
――ドォンッ!!
遠くの建物から、また黒煙が上がる。
バルドルは煙を睨みつける。
「……何が起きてやがる」
その光景を見ていると、脳裏に過去の光景が蘇った。
燃える家。
逃げ惑う人々。
泣き叫ぶ声。
「……違う」
あの日とは違う。
そう言い聞かせるように、首を振る。
今は考えている場合じゃない。
守るべき場所は、ここにある。
「待ってろよ」
バルドルは走り出した。
帝都の南区画。
新たな爆発が起きている場所へ。
その頃。
帝都では、さらに一つ――爆発が起きていた。




