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24.5話 【閑話】プールの水はどこへ

「……よし。もう一度試してみるか」


訓練を終えたある日のこと。


俺は自分の銘について、さらに検証を続けていた。


石、木片、鉄。


これまでに試したものは、どれも問題なく吸収できた。


吸収したものは、意識すれば再び取り出すこともできる。


「次は……魔法か」


そう思いながら練兵場を歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「ユーリ、こっち!」


「待ってよ、メーリ!」


声の方を見る。


そこにはユーリとメーリがいた。


二人の前には、小型の簡易プールが置かれている。


中には水がたっぷりと張られていた。


「何してるんだ?」


「水遊び!」


「訓練終わったから遊んでるの!」


二人は楽しそうに水を掛け合っていた。


「お前ら、風邪引くぞ」


「大丈夫!」「魔法で温度調整してるから!」


「……そういう問題なのか?」


二人の手から、小さな水流が飛び出す。


どうやら水魔法を使って遊んでいるらしい。


俺はその様子を眺めながら、ふと思った。


――魔法も吸収できるのだろうか。


ちょうどいい。


「なあ、二人とも」


「なに?」「なにー?」


「ちょっと、その水を使わせてもらってもいいか?」


「いいよ!」「何するの?」


「銘の検証」


「また?」「もういいじゃーん」


「ああ」


俺はプールへ意識を向けた。


これまでと同じように魔力を集中させる。


「……吸収」


掌に黒い渦が生まれた。


だが――。


ズズズズズッ――!


「「えええええ!?」」


プールそのものが、床を引きずられるようにして渦へ吸い込まれていく。


中に入っていた水も、一緒に飲み込まれていく。


「クロス!」


「プールまで吸い込んだ!」


「……しまった」


一瞬だった。


そこにあったプールは、跡形もなく消えていた。


「…………」


「…………」


ユーリとメーリが、ぽかんと口を開ける。


「……返せる?」


「たぶん」


俺は吸収したプールを意識する。


「戻れ」


ポンッ。


次の瞬間、空っぽのプールだけが元の場所に現れた。


「……あれ?」


「水は?」


「…………」


俺はもう一度、水を取り出そうと意識を集中させる。


「出ろ」


何も起こらない。


「……出てこない」


「水、どこ行ったの?」


「分からない」


「クロスが食べた?」


「食べてない」


「じゃあ返して!」「返して!」


「返せないんだって!」


二人が揃って頬を膨らませる。


「「せっかく遊んでたのに……」」


「ごめん」


「クロスのばか!」「あほ!」


「はい……」


俺は空っぽになったプールを見つめる。


プールそのものは戻すことができた。


だが、中にあった水は戻せない。


「……なるほど」


俺は少し考える。


プールは普通の非生物だ。


だから吸収しても、問題なく取り出せる。


だが――。


この水は違う。


二人が魔法によって生み出した水だ。


「……水そのものを吸収したんじゃない」


俺は自分の右手を見る。


「魔法を吸収したんだ」


そう考えれば、辻褄が合う。


「魔法そのものを吸収することができる……」


「でも、水は返せないんだね」


メーリが言う。


「ああ。どうやら一度吸収した魔法は、外へ出せないみたいだ」


「じゃあ、メーリたちの水は?」


「……諦めてくれ」


「えー!」


「クロスのばか!」「やっぱりあほ!」


「悪かったって」


二人は不満そうに空っぽのプールを覗き込む。


「……あとで普通に水を入れてやるから」


「ほんと?」


「約束?」


「ああ、約束」


二人は顔を見合わせる。


「じゃあ許す!」


「許す!」


切り替えが早い。


「……現金だな、お前ら」


「じゃあクロス、水入れて!」「たっぷりね!」


「今から?」


「今から!」「すぐに!」


「せっかく遊んでたんだから!」


「……分かったよ」


俺は空っぽのプールを見る。


確かに、これを放置するわけにもいかない。


「普通に水を入れればいいんだよな?」


「うん!」


「じゃあ――」


俺は近くにあった水桶へ目を向ける。


「それを運べば――」


「魔法で入れてよ」


「……俺、まだ水魔法使えないんだけど」


「じゃあ銘でなんとかして!」


「まだ練習中なんだ、無茶言うなって」


二人は顔を見合わせる。


そして――。


「「クロスならできる!」」


「なんでだよ!」


訓練場に、二人の笑い声が響いた。


結局。


その後、俺は練兵場の反対側にある水場から水を運ぶ羽目になった。


「もうちょっと!」「もう一回!」


「……お前らも手伝えよ!」


「私たちは監督!」


「監督!」


「絶対それ、監督じゃないだろ……」


もう一度水を吸収しに行き、やっとプールに水が溜まった。


「できたー!」


「やったー!」


二人は勢いよくプールへ飛び込む。


バシャァンッ!


「…………」


全身に水を浴びた俺は、無言で二人を見る。


「クロスも入る?」


「入らない」


「楽しいよ?」


「俺はもう十分楽しんだ」


「「そう?」」


「そうだよ」


二人はまた水を掛け合い始める。


俺は濡れた服を見下ろして、ため息をついた。


――銘の検証。


その成果は、確かに大きかった。


ただ。


「……次からは一人で検証しよう」


この日、俺は心に固く誓った。

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