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23話 アリアリ

「食らえ!『銘』砂の惑星(ハングバンカー)!」


叫び声と同時に、男の背後から、大量の砂が噴き出した。


「――ッ!?」


次の瞬間。


砂は渦を巻きながら形を変え、やがて――巨大な二つの拳へと姿を変える。


その大きさは、人間の身体など簡単に覆い隠してしまうほどだった。


「なんだ……あれ……」


俺は思わず息を呑んだ。


巨大な砂の拳が、左右から迫ってくる。


逃げ道がない。


右へ避ければ左の拳、左へ避ければ右の拳。


しかも、拳の動きが速い。


「――くっ!」


身体強化を全開にして後ろへ飛ぶ。


ズドンッ!と俺の前に砂の拳が叩きこまれる


(まずい……!)


このままじゃ避けきれない。


受け止めるなんて論外だ。


なら――。


(どうする?)


頭の中に、レオンとの戦いが蘇る。


あのとき。


俺はレオンを殴り飛ばそうとした。


レオンはなぜか俺の方へ飛んできた。


あれは偶然じゃない。


自分の意思で使ったわけでもない。


でも――確かに、俺の中にあった力だ。


(もう一度やってみるしかない)


迫ってくる砂の拳を見る。


あんな巨大なものを、どうすればいい。


殴る?避ける?


無理だ。


間に合わない。


だったら――。


(ただ引き寄せるんじゃない、そのまま体の横へ流す)


俺は右手を前へ突き出した。


胸の奥へ意識を集中させる。


魔力とは違う。


もっと深い場所。


自分の魂に刻まれた、まだ名前も知らない力。


(この拳を……)


右手へ魔力を集める。


(全部、吸い込む)


その瞬間だった。


右手の掌に――小さな渦が生まれた。


「……なんだ、これ」


掌に収まるほどの大きさ。


黒い。


光すら飲み込んでしまいそうな、真っ黒な渦。


それは音もなく回転していた。


「そんな小せえもんで何ができる!」


男が叫ぶ。


巨大な砂の拳が、俺へ迫る。


「潰れろ!」


俺は逃げなかった。


右手を、迫りくる拳へ向ける。


そして――。


渦が触れたその瞬間。


ズズズズズッ――。


巨大な砂の拳が、掌の黒い渦へ吸い込まれていく。


「――え?」


「――なっ!?」


男の顔から、余裕が消えた。


「な、なんだと……!?」


砂の拳が渦へ飲み込まれていく。


まるで存在そのものを削り取られていくように、砂が次々と消えていく。


「俺の……銘が……!」


男が一歩後ずさる。


その瞬間。


「――今だ!」


俺は地面を蹴った。


身体強化。


さらに足へ魔力を集中させる。


一瞬で距離を詰める。


男が慌てて残った砂の拳を振り上げた。


「くそっ!」


「遅い!」


俺は右手を向ける。


掌の黒い渦が、残った砂の拳へ触れる。


ズズズズッ――。


それもまた、吸い込まれていく。


「な……」


男の目が見開かれる。


両肩から伸びていた巨大な砂の拳は、跡形もなく消えていた。


完全に、がら空き。


俺は拳を握る。


男の目が見開かれる。


両肩から伸びていた巨大な砂の拳は、跡形もなく消えていた。


完全に、がら空き。


俺は拳を握る。


そのまま一歩踏み込んだ。


「――ッ!」


男が身を引く。


だが、もう遅い。


俺の拳は、男の腹部へ向かって一直線に伸びていた。


――ここだ。


拳を止める。


男の腹、その寸前。


風圧だけが、男の軍服を揺らした。


「…………」


男が目を見開いたまま固まる。


俺も拳を下ろした。


「……これで一本で大丈夫ですか?」


数秒の沈黙。


やがて、アザレアの声が訓練場に響いた。


「勝負あり!」


その瞬間、周囲から一斉に声が上がった。


「すげええええ!」


「銘を発現させたぞ!」


「すごっ!黒いぐるぐる!」「ぐるぐる!」


「砂の惑星を丸ごと消した……?」


「クロスさん、やばいっス……!」


俺は自分の右手を見る。


さっきまで掌にあった黒い渦は、もう消えていた。


自分のものなのに、今まで知らなかった言葉が、頭の中に浮かび上がる。


――かつて凡百だった者が、持ち得なかった全てを欲する。まさに、万象への渇望。


「……万象の渇望」


口にした瞬間、その言葉が妙にしっくりとくる。


まるで、最初から自分の中に刻まれていた名前を、ようやく知ったような感覚だった。


「これが……俺の銘――万象の渇望《ファウスト》」


確かに今、俺自身の意思で発動させた。


そしてもう一度、自分の右手を見つめた。


(……一体、俺の銘の能力はなんなんだ?)


目の前で起きたことは、まだ何一つ理解できていない。


ただ一つだけ分かっている。


――あの渦は銘を吸収出来るということ。

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