↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/37

19話 情報収集

『クレイヴェル帝国建国史』


まず手に取ったのは、帝国の歴史について書かれた本だった。


ページをめくる。


――クレイヴェル帝国は、今から約八百年前、一人の王によって建国された。


当時、この大陸には大小数百の国が存在していた。


戦争、飢饉、魔物の襲来。


混乱の中で勢力を拡大した初代皇帝は、周辺諸国を次々と併合し、巨大な国家を築き上げた。


「八百年……」


思ったより歴史が長い。


さらに読み進めると、帝国の周辺についても記されていた。


東には広大な大森林、エルフが統治する国々。


西には大渓谷、もっと進むと勇者生誕の聖地があるという。


南にはレギオン獣王国とアルテミス聖教国。


そして、この大陸のさらに先には、無数の小国が存在しているらしい。


「……結構、国あるんだな」


日本でいう県境みたいな感覚で考えていたが、どうやらそんな単純な話ではないらしい。




本を閉じ、次に手に取ったのは『魔力理論概論』だった。


魔力とは何なのか。


魔法とはどういう仕組みなのか。


昨日アザレアから聞いた話を思い出しながら、ページをめくっていく。


火、水、土、風、光、闇。


六つの属性。


魔力を属性へ変換し、現象として外部へ発現させる。


ここまでは昨日聞いた話とほとんど同じだった。


魔法は規模や威力などで下級、中級、上級と分類されるらしい。


今度練習してみるか…


「じゃあ、銘は……」


次に『銘現象研究序説』を開く。


生まれながら魂に刻まれた固有能力。


その発現条件、性質、変化。


どれも興味深い内容だった。


だが――


「……悪魔については?」


ふと疑問が浮かんだ。


印について調べるなら、悪魔についても知っておきたい。


俺は立ち上がり、司書のもとへ向かった。


「すみません。悪魔について書かれた本を探しているんですが」


「悪魔、ですか?」


司書の女性は、わずかに表情を曇らせた。


「……申し訳ありませんが、その分野の書籍は一般閲覧の対象外です」


「対象外?」


「はい。悪魔に関する書物は禁書指定されています。閲覧には、然るべき権限が必要です」


「軍人でも?」


「所属や階級によります。少なくとも、一般の兵士には閲覧許可は下りません」


「そうですか……」


やっぱり簡単にはいかないか。


アザレアからも、帝国では悪魔に関する情報そのものが厳しく扱われているとは聞いていた。


「閲覧許可を取る方法は?」


「申し訳ありません。私からお伝えできることではありません」


司書はそれ以上、何も語ろうとはしなかった。


俺は礼を言って、その場を離れた。


――禁書。


つまり、この世界では悪魔について調べること自体が簡単ではないらしい。


なら、今は別のことを調べるしかない。


それからしばらく、俺は帝国の歴史や貨幣、魔法の基礎、周辺国について読み漁った。


気づけば、窓の外はすっかり夕暮れに染まっていた。


「……今日はこのくらいか」


本を棚へ戻し、図書館を後にする。


◇


外へ出ると、夕方の帝都は昼間とは違う喧騒に包まれていた。


仕事を終えた人々が通りを行き交い、露店からは食欲をそそる匂いが漂っている。


俺は宿舎への道を歩き始めた。


その途中だった。


「おい、ガキ。さっきから無視してんじゃねえぞ」


前方から、怒鳴り声が聞こえた。


足を止める。


路地の入口に、数人の男が集まっていた。


その中央には、小さな男の子がいる。


「……や、やめてください」


「なんだその態度は」


男の一人が、男児の前に立ちはだかる。


「俺たちが聞いてんのは金の話だ。持ってるもん全部出せよ」


「持ってません……」


「嘘つけ!」


男が腕を振り上げる。


「おい」


気づけば、俺は声をかけていた。


男たちが一斉にこちらを振り返る。


「なんだ、てめ――」


先頭の男が言葉を止めた。


俺の服装に目を落とす。


帝国軍から支給された軍服。


その意味に気づいたらしい。


「……軍人?」


「そうだけど、何してんのお前ら」


「チッ……行くぞ!」


「は?」


男たちは顔を見合わせると、途端に態度を変えた。


「お、覚えてろよ!」


捨て台詞を残し、路地の奥へと逃げていく。


(……助かった)


思わず、胸を撫で下ろす。


アザレアからは安静にしていろと言われている身だ。ここで喧嘩にでもなっていたら、さすがに言い訳できない。


――軍服様々だな。


呆気に取られながら、俺は男児へ視線を向けた。


男児は怯えた様子で、こちらを見上げている。


「大丈夫か?」


「……はい」


「怪我は?」


「ないです」


ほっと息を吐く。


それでも、こんな小さな子を一人で帰すのは少し心配だった。


「家、近いのか?」


男児は小さく頷く。


「なら、送っていこうか」


「……いいんですか?」


「さっきみたいなのに、また絡まれたら危ないだろ」


男児は少し迷ったあと、こくりと頷いた。


「……お願いします」


「よし。じゃあ行こう」


俺は男児の歩幅に合わせて、歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。