14話 支給
師団長室へ戻るなり、アザレアは俺たちを放り出すように手を離した。
「ソルト、お前は今晩までに団員を全員集めろ」
「全員っスか?」
「ああ。今夜、入団式を兼ねて集会を行う」
「了解っス!」
ソルトが敬礼する。
「それと、本来なら副師団長にも立ち会わせるところだが……」
アザレアは机の上に置かれた書類へ目を落とした。
「生憎、任務で帝都を離れている。戻るのは半年後だそうだ」
「副師団長って、どんな人なんだ?」
俺がソルトに尋ねると、アザレアは少し考えるように眉を寄せた。
「お前が会えば分かる。まあ、今は気にするな」
随分と雑な説明だった。
「それで、俺は何をすれば?」
「お前は残れ」
「え?」
「入団式まで、時間がある。少しでも無駄にするつもりはない」
そう言って、アザレアは机の脇に置いてあった箱を持ち上げた。
蓋を開ける。
中には、折り畳まれた黒を基調とした軍服と、一枚の腕章が入っていた。
「クロス。前へ」
言われるまま、一歩近づく。
アザレアは腕章を取り出し、俺へ差し出した。
「これを受け取れ」
手に取る。
布地はしっかりとしていて、中央には第七師団の紋章が刺繍されていた。
紋章には入口で見た、剣で貫かれた黒い太陽が描かれている。
「第七師団所属の証だ」
続いて、濃紺色の軍服を渡される。
「これもお前のものだ。今日から正式に第七師団の団員として扱う」
その言葉に、俺は軍服と腕章を交互に見つめた。
正式な入団。
ここ数日、死刑だの悪魔だの、あまりに現実離れした話ばかりが続いていたせいか、その言葉が妙に現実味を持って胸に響いた。
「ただし、浮かれている暇はないぞ」
「アザレア、これから頑張るよ」
突然、ゴン!っとげんこつが振り下ろされた。
「上司に向かってなんだその口の利き方は、次ふざけた事を抜かすようなら迷宮まで殴り飛ばすぞ」
いってえええっと頭をさする俺。
その横で、ソルトがにこにこと笑っていた。
「これでクロスさんも正式に第七師団の仲間っスね!」
「なんでニコニコしてるの?」
「いやー、よかったっス。めでたいっス!」
俺が言及してもソルトは笑顔を崩さない、こいつ…
アザレアがソルトへ視線を向ける。
「では、今夜までに全員へ伝えておけ」
「了解っス!」
「あと――」
アザレアは、ふと思い出したように付け加えた。
「レオンも呼んでおけよ」
「……え」
ソルトの表情が固まった。
「レオンさんも、っスか?」
「当然だ。あいつも第七師団の一員だろう」
「いや、まあ……そうっスけど……」
「何か問題でも?」
「いえ!全力でお伝えしておくっス!」
ソルトは勢いよく敬礼すると、そそくさと部屋を出ていった。
扉が閉まる。
静かになった室内で、アザレアが俺へ視線を戻した。
「さて」
嫌な予感がした。
「お前は私と来い」
「……どこへ?」
「修行だ」
「入団初日から?」
「むしろ初日だからだ」
アザレアは当然のように言い切った。
「昨日の戦いを見て確信した。お前の魔力操作、いや出力の方か。普通の人間とは少し違う」
「違う?」
「ああ」
アザレアは腕を組む。
「お前は魔力の扱い方を知らない。それなのに、ほんの僅かな操作であれだけの出力を引き出した」
「それって……そんなに凄いことなのか?」
「凄いというより、異常だ」
即答だった。
「だからこそ、放っておくわけにはいかん」
アザレアは扉へ向かって歩き出す。
「……どこ行くんだ、です?」
「修行だと言っただろう」
「それは聞いたんですけど、練兵場では?」
「着けば分かる、さっさと軍服着ろよ。腕章も」
相変わらず説明する気はないらしい。
俺は仕方なく、その後を追った。
◇
第七師団の庁舎を出ると、帝都の喧騒が一気に押し寄せてきた。
石畳の大通りには、商人や冒険者、帝国軍の兵士たちが行き交っている。
露店からは焼いた肉の香ばしい匂いが漂い、遠くからは荷馬車の車輪が石畳を叩く音が聞こえてくる。
「なあ、これって歩いていくんですか?」
「そうだ」
「結構遠くないですか?」
「まだ帝都を出てすらいないぞ」
「……マジですか」
帝都は思っていた以上に広かった。
中心部に近づくほど建物は大きくなり、人の数も増えていく。
逆に、城壁へ近づくにつれ、建物の数も少しずつ減っていく。
やがて目の前に巨大な城壁が現れる。
帝都をぐるりと囲む、堅牢な石の壁。
門の前では衛兵たちが行き交う人々を確認していた。
アザレアは立ち止まることなく、そのまま門へ向かっていく。
「止まらなくていいんですか?」
「なんの為の軍服だ、それに私がいる」
それだけだった。
衛兵たちはアザレアの姿を確認すると、すぐさま背筋を改め、敬礼し、道を開けた。
どうやら第七師団長という立場は、俺が思っている以上に知られているらしい。
城門を抜ける。
その瞬間、空気が変わった。
帝都の喧騒が遠ざかり、代わりに鳥の鳴き声や風に揺れる草木の音が耳に届く。
街道の両脇には広大な草原が広がっていた。




