13話 第七師団
第七師団の駐屯地は、帝都の外れ、他の師団の施設からは少し離れた一角にあった。
重厚な石造りの庁舎を前に、俺は思わず足を止めた。
装飾は控えめだが、それでいて威圧感のある佇まい。
両開きの扉には、太陽のような模様に剣が刺さった紋章が刻まれている。
「ささっ、入るっスよ」
ソルトに促され、重い扉を押し開ける。
中に広がっていたのは、想像していたよりも遥かに広いエントランスだった。
天井は高く、吹き抜けになっている。
最奥には、ひときわ大きな紋章が掲げられていた。
「せっかくなんで、歩きながら第七師団についても説明するっス」
ソルトは、案内人らしく胸を張った。
「クロスさんも薄々気付いてると思うっスけど、ウチはちょっと特殊な部隊なんスよ」
「特殊?」
「役割で言うなら、特殊戦闘、危険区域への対応、あとは規格外案件――要は、他の師団の面倒ごとを押し付けられる部隊っスね」
歩きながら、ソルトは指を折る。
「人数は、他の師団と比べても圧倒的に少ないっス。だけど、その分、アザレア様含めて、実力者の比率がとにかく高いっスよ」
「なるほどな……」
「ただ」
ソルトが、そこで一度言葉を切った。
「実力はあっても、みんな一癖も二癖もあるっス。他の師団じゃ扱いきれない、常識外れの変人集団――それが、外から見た第七師団の評判っスね」
「その言い方、なんか含みがあるな」
「否定はできないっスから」
面白い人達だとおもうんスけどねーっと苦笑いを浮かべるソルトに、俺も乾いた笑いを返すしかなかった。
歩きながら、俺は頭の中で、道中にソルトから聞いてきた情報を整理していた。
この帝国軍には、七つの師団がある。
第一師団は、皇帝直轄の精鋭部隊。国の中枢を守る、まさにエリート中のエリートだと聞く。
第二師団は対外戦闘――戦争そのものを担う部隊で、常時は国境付近に常駐しているらしい。
第三師団は国内の防衛と治安維持、現代でいう警察に似た役割に近しい。第二師団とは犬猿の仲だそうだ。
第四師団は諜報と情報収集。ここの師団員の半数は常に国外で任務に就いている。
第五師団は魔法と魔術の研究機関、一般的に魔法局と呼ばれている。
第六師団は医療と後方支援――ダリスとミアの所属する部隊だ。
そして、第七師団。特殊戦闘、危険区域、規格外案件。
要するに、分類しきれないものを全部押し付けられる、最後の受け皿。
自分がその一員になったのだと思うと、妙な実感の湧かなさがあった。
「――で、案内は一旦中断ということにして、まずは食堂に行くっス。腹減ってるでしょ?」
「言われてみれば」
そういえば、まともに食事をした記憶がない。
食堂は、エントランスから続く廊下の先にあった。
扉を開けた瞬間、香ばしい匂いと、賑やかな話し声が同時に押し寄せてくる。
「あ、ソルトだー! そっちが新人~?」「新人~?」
声のした方を振り向くと、瓜二つの顔をした二人組が、テーブルから身を乗り出してこちらを見ていた。
全く同じ顔立ちだがそれぞれ金髪と銀髪の少女。
片方は快活そうな笑みを浮かべ、片方は興味津々とした表情で見つめてくる。
「双子っス。姉のユーリと、妹のメーリっス」
「よろしくな、おっさん!」「な!」
「黒須慧だ、よろしく。ってまだ21歳だ!」
「ええ!?」「ええ!?」
金髪の姉の方が大げさにびっくりし、もう一方が片手でグッジョブをつくり、昼食をつついていた。
息の合った掛け合いに、周囲の団員たちからも笑いが漏れる。
「わー!クロス君じゃん!!!」
奥のテーブルから、猫耳を立てた亜麻色の美女がこちらへひらひらと両手を振っている。
「模擬戦、見てたわよ。レオン君、あんな無様に転がるの初めて見たわ」
「……あれは、俺も予想外だったんだけど」
「まあ、座って座って~!私はロゼ。歓迎会代わりに、色々聞かせてもらうから」
ニヤリと何か企んでいるような怪しい表情で話しかけてくる。
促されるまま、俺は空いていた椅子に腰を下ろす。
「にしてもクロス君、レオン君相手によく戦ったよね~!ロゼびっくりしちゃった!」
「運が良かっただけですよ」
実際、あの模擬戦では運の要素も大きかっただろう。
最後の一撃もレオンには反応されていたし、避けられていた可能性も高い。
「あのね、知らないかもしれないけど――」
ロゼが、少し声を落とす。
「レオン君って、代々剣聖を輩出してる超有名なアルセリオン家の出なのよ」
「……剣聖?」
聞き慣れない言葉に、思わず聞き返す。
「そう。帝国じゃ知らない人の方が少ないくらいの名門よ。歴代の――」
「おい」
不意に、右肩を掴まれた。
「うおっ!?」
「私の元に訪れずに何を呑気に飯を食おうしている」
振り返ると灼熱のような赤色の髪。
そして、ゴゴゴゴとでも効果音が聞こえてきそうな、鬼のような形相をしたアザレアが立っていた。
食堂にいた全員の動きが、ぴたりと止まった。
「…………」
「…………」
さっきまで騒がしかった食堂が、嘘のように静まり返る。
ある者は箸を止め、ある者は目を逸らし、またある者は何事もなかったかのように黙々と食事を再開した。
さっきまで俺に話しかけていたロゼでさえ、いつの間にか姿勢を正している。
「ソルトォ!!!!!」
「は、はいっス!!!!!」
「着いたらまず師団長室に来いと伝えたよな?貴様、命令を聞く耳まで落としてきたのか?」
「ひぃぃぃ!すいませんっス!」
「クロス、お前も来い」
「は、はい。ってええ!?」
俺とソルトの襟首を捕まえ、アザレアは二人を引きずりながら食堂を出ていった。
「あーあ、まだまだ聞きたいこといっぱいあったのにな~」
「バイバイソルトー!」「またなおっさんー!」




