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きみの知らないぼくのこと  作者: さか
新たな始まり

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第五十三話



 ――数週間後のホームルームにて。

 凪と海都の教室では、一ヶ月後に行われる二、三年生合同の校外学習についての話がされている。

 担任が黒板に板書をし終えて、生徒達の方を向いた。

「……と、まぁこんな感じだ。班分けだが、明日の六限目に三年の生徒とごちゃ混ぜで行う。覚えとけよ〜」

 そう言って、担任は出席簿を持って教室の扉を開けて出ていった。





 ホームルームが終わると、海都は荷物を持って立ち上がる。

 その時に凪も立ち上がって、海都の隣まで近づいた。

「……海都、律希さんの教室に行くでしょ? 一緒に行く」

「おー、行くか」

 二人が教室から出た途端、二人の目の前にバッと影が現れた。

 海都は咄嗟に凪の身体を守るように、自身の背中で隠す。そして目の前にいる人物に気づくと目を見開いた。

「――っ、な、何で二年の階にいるんだよ! 弟!」

「…………弟……?」

 凪は目を丸くして、海都の背中から顔を覗かせる。

 

 そこにいたのは律希の弟の理央だった。

 理央と目が合った凪は、身体をビクッと震わせる。

「な、なな、何で君がここに……!?」

「僕だってこの学校の生徒だって言っただろ。どうせ今からリツ兄のところに行くに決まってる」

 そう言って、理央は険しい表情のまま凪に詰め寄る。

 凪は冷や汗を流して口元を震わせた。

「え、えーと……、その〜……。……り、律希さんに会いに行く……の?」

「ちげーよ。お前に会いに来た」

「何で!?」

 凪は目を見開いて、驚いた表情を浮かべた。

「リツ兄に変なことしねーか、見張りに来たんだよ。変な勘違いすんな」

 理央は凪の頭にデコピンをする。

 思いきりデコピンされた凪は、涙目で額を押さえた。


 ――……てっきり物理的に引き離されると思ったけど、律希さんの気持ちを考えての譲歩とか……?


 凪は怪訝そうに理央を見つめた。

 そんな凪の視線に、理央はプイッと目を逸らす。

「……だから、変な勘違いすんなって。僕はリツ兄に笑ってて欲しいだけだ。お前が信用に足る女かどうか、僕が見定める」

「監査ですか」

「僕はリツ兄の弟だからな」

「まるで遥人さんの分身……」

 凪がため息を吐くと、海都は凪より前に出て理央を見下ろした。

「……先輩への口の聞き方、あまりにもなってねぇんじゃねーの?」

「僕が尊敬してるのはリツ兄と遥人くんだけだし。海都さんの事は嫌いじゃないけど、尊敬出来るかは別問題」

 そう言って、理央は負けじと海都を見据える。


 ジリジリと二人が睨み合っている中、理央の頭を誰かが叩いた。

「――あいたっ! ……何す、……って、リツ兄!?」

「嫌な予感がしたから来てみれば……。何してんのさ、理央」

 理央の後ろには、呆れた表情をして手を上げている律希が立っていた。

 凪と目が合うと、ニッコリと笑う。

「蓮實さん、お待たせ。帰ろっか」

「あ、はい。……えっと……」

「理央の事ならほっといていいの。いい加減に兄離れしないとさ」

 律希はそう言いながら、理央の両肩を掴んで、理央を海都の前に差し出した。

 海都は律希と理央の顔を交互に見比べる。


 ――……マジで兄弟……。そっくり過ぎるだろ……。


 海都が返答に困っていると、律希は笑顔を浮かべる。しかしその笑顔は、一切目が笑っていなかった。

「……って事で櫻庭くん。理央のことよろしくね。どんだけ厳しくしてくれてもいいからさ」

「えっ!? リツ兄何言って――」

「いいよね? 理央」

 律希に否を訴えようとした理央の顔を、律希は片手で掴み、笑顔のままそう言った。

 理央は律希の迫力に負け、大人しく「はい」と答えていた。

 


 先ほどよりも明らかに態度が小さくなった理央。

 そんな理央を隅っこに追いやり、律希は眉を下げて笑った。

「ごめんね、櫻庭くん。ちょっと変な弟だけど、素直ではあるだから」

「ちょっとかどうかは分かりかねますが、素直なのは分かりました」

「遥人から言われても何にも響かないだろうし、櫻庭くんの言う事なら聞くと思うんだ」

 そう言って、律希は理央の頭を優しく撫でる。

 海都は目を見開いた後、苦笑いを浮かべた。

「……自信はないですけど、上手くやります」

「よろしくね。……じゃあ理央。部活、いってらっしゃい」

「………………家帰ったら一緒にプリン食べる」

「はいはい。待ってるからね」

 律希は頭を撫でていた手で、ポンポンと頭を軽く叩く。



 そして律希は凪の手を掴み、そのまま歩き出した。

 いきなり手を繋がれた凪は、頬を染めて律希を見る。

「えっ!? ここまだ学校……」

「もういいんじゃない? だいぶ広まってるし」

 その時に、律希は凪の耳元に顔を近づけて「……それに」と言葉を続けた。

「……蓮實さんはおれのっていう牽制したいし」

「――っ!? ど、独占欲っ……!!」

 凪はトキメキからか、胸を押さえてヴッと唸り声を上げた。

 そんな凪を見て、律希はクスクスと笑う。

「二年生になっても変わらないね」

「律希さんは三年生になって更にカッコよくなってます。好きです」

「そんな変わってなくない?」

 呆れた表情で笑う律希に、凪は勢いよく首を横に振る。

「何を言ってるんですか! 一年前の律希さんと今の律希さんは全然違いますよ!」

「それは蓮實さんの匙加減じゃ……」

「そこまで言うなら、しっかり説明します! 今日はカフェ行きましょう!」

 凪はキリッと真剣な表情で言った。

 律希は目を見開いた後、口元を押さえて喉を鳴らして笑う。

「……うん、行こっか」

 二人はそのまま楽しげに話しながら、歩いていった。







 凪と律希の背中を見届けた海都は、理央の首根っこを掴んだ。

「さぁ、部活行くぞ〜。一年はやること多いんだから」

「ちょっ、離せってば! そんなんしなくても逃げねーし!」

 理央がバタバタと暴れて始めたため、海都はパッと手を離した。

 理央は口元を押さえて軽く咳をする。そしてジトっと海都を見た。

「…………何も言わねーのな」

「何をだよ。あと敬語」

 二人は並んで歩くが、お互いがお互いを見る事はない。

 理央はそのまま言葉を続けた。

「あの女がリツ兄の隣にいる事だよ」

「……今更とやかく言ったって、何も変わんねーだろ」

「……ふーん……。そんなもんなの? 恋愛って」

「人によるんじゃねーの。俺は、もう凪の嫌がる事はしたくない。だから隣で見守る事にした。それだけだ」

 海都の言葉に、理央は少し感心したように目を見開く。

 そしてフッと笑って、海都の顔を覗き込んだ。

「……幸せを見守る事には同意する」

「あっそ」

 そう言って、海都はスタスタと先を歩く。

 その隣を歩く理央の足取りも、僅かながら軽やかになっていた。


 


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