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きみの知らないぼくのこと  作者: さか
新たな始まり

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第五十二話



 ――入学式当日。

 遥人はサッカー部の部長として、海都は在校生代表の挨拶として受付に立っていた。

 普段からブレザーを着用しない二人だが、この日はブレザーを着用し、ネクタイも締めていた。

 

 海都がめんどくさそうな表情で欠伸をし、遥人に軽くもたれかかる。

「なぁ〜んで、俺が在校生代表なんですかね〜。普通生徒会長とかでしょーが」

 海都は口を尖らせて、ぶーぶーと文句を言う。

 もたれかかってくる海都の身体を、遥人は顰めっ面をして押し返す。

「知らねーよ。単純な成績順じゃねーの。てかこっち来んな。重い」

「こんなか弱い後輩を押し除けるなんて〜。ひっどーい」

「キモいからやめろ」

 遥人は持っていたバインダーで、海都の頭を思いきり叩いた。

「いてっ、すぐ人のこと叩くんだから。新入生にそんなことしちゃダメですよ〜」

「しねーよ。お前だけだ」

「俺は特別ってこと?」

 海都は表情を明るくさせて、わざとらしく頬に手を添えた。

 そんな海都を蔑むような目で見る遥人。

「……………………今すぐ舌を引っこ抜かれたいようだな」

 そう言って、遥人は大きくため息を吐く。


 

 そんな二人の前に、受付に新入生らしき生徒がやって来た。

 それに気づいた遥人が名簿を取り出して、俯いたまま名前を聞く。

「……おはようございます。名前は――」

「僕だよ。遥人くん」

 遥人が聞くより先に、目の前の人が答えた。

 その声にハッとした遥人が顔を上げると、そこには理央がニコニコと笑顔で立っている。

「り、理央!? ……まさかリツを追って……?」

「しかなくない? 僕がリツ兄のいない高校に行く訳ないもん」

「相変わらずだな、お前は」

 遥人はまたため息を吐いて、名簿にチェックを入れ、名札を手渡す。

 理央はそれを受け取り、周りをキョロキョロと見渡し始めた。

 そんな理央を見て、遥人は眉を顰める。

「……リツならいねーぞ」

「…………なんで?」

 理央が遥人を見て首を傾げる。

 しかし遥人は理央から顔を逸らして、小さい声で呟いた。

「……………………知らね」

「知ってる間じゃん、それ。教えてよ〜」

 理央が遥人の顔を覗き込む。

 その時に理央は海都の存在に気づき、パッと海都の方を見た。

「……遥人くん。こんな友だちいたっけ?」

「友だちじゃねー。馬鹿みたいに生意気な後輩だ」

「紹介の仕方があまりにも雑すぎません?」

 海都が拗ねたような表情を浮かべ、遥人の肩をユサユサと揺らす。

 渋々、遥人は海都を指差した。

「櫻庭海都。サッカー部。以上」

「そんだけですか? もっとないの? 親愛なる後輩で、大好きなんだとか」

「……いい加減にしねーと、髪の毛むしんぞ」

「さーせん」

 海都は大人しく黙ると、理央は「……ふーん」と呟いた後、ニッコリと笑った。

「僕、サッカー部入る予定だから、僕の先輩になるんだね。これからよろしくお願いします。海都さん」

「こちらこそよろしく。……で、名前知らないんだけど、千蔭さんと知り合い?」

 海都が首を傾げると、理央は小さく頷く。

「そうです。リツ兄……、じゃなくて兄が遥人くんと友だちだから」

 理央は海都にそう言って、遥人の方を向いて「ねー?」と言った。

 

 海都は眉を顰めて遥人を見る。

「……さっきから気になってたんですけど、リツ兄って……」

「お前の知ってる奴で合ってるよ。こいつはリツの弟。名前は……」

 遥人が言うより先に、理央が口を開いた。

「園田理央です! ……って、海都さん、リツ兄のこと知ってるんですか? そりゃそうか〜。リツ兄のことを知らない人なんている訳ねーもん」

 理央は嬉しそうに、うんうんと頷いた。

「……いや、律希センパイの彼女の幼馴染だから知ってるだけで。特に意味は……」

 海都がそこまで言うと、理央の表情が一気に険しくなった。

「……はぁ――!? あの女の幼馴染!?」

 そう言って、理央は海都を睨みつけながらビシッと指差した。

 海都は目をパチパチとさせ、何が何だか分からないようだった。

「……? 凪と会ったことあんの?」

「あの女の名前を出すなよ! リツ兄を誑かしてる女の名前なんか!」

 理央の言葉に、海都はピキッと額に青筋を立てた。そして笑顔のまま遥人の方を向く。

「千蔭さん。このクソみたいな後輩なんですか。俺、とってもムカつきます」

「その言葉をそのままそっくり返してやるよ」

 腕組みをしている遥人は、真顔で海都に言葉を返す。

 逆に海都は青筋を立てた笑顔のまま、理央の方を向いて言った。

「あ、あのさ理央くん? 俺、凪の幼馴染なわけ。大事な幼馴染を悪く言われたらムカつくんだけど?」

「あ゙ぁ゙? てめーに名前で呼ばれたくねーんですけど。あいつと知り合いなら僕の敵だろ」

 理央は依然として海都を睨みつけたまま、そう言い放った。

 あまりに堂々たるその態度に、海都はワナワナと身体を震わせる。

「……っ、こんの……、クソガキッ……!」

「いいぞ〜、理央〜。もっとやれ〜」

「千蔭さんはどっちの味方ですか!!」

「リツのことを考えてんのは同じだからな」

「俺の周りは律希信者しかいねーのかよ!」

 耐えきれなくなった海都が、頭を抱えて唸り声を上げた。

 そんな海都の顔をジッと見つめる理央。

 海都は理央の視線に気づき、怪訝そうに理央のことを見た。

「…………んだよ、クソ後輩」

「あんた、顔だけはリツ兄の次にいいのに。あの女に振られたのか?」

 思いのよらない一撃に、海都はヴッと声を上げて胸を押さえた。

「え、図星? だっせ――」

 そう言って、理央は海都を指差しながらケラケラと笑った。

「……今ここでこいつを縛り上げても、何の犯罪にもなりませんよね?」

「ならねーけど、その時は俺がお前を縛り上げる」

「もうやだこの先輩」

 海都は顔を両手で覆って、その場にしゃがみ込んだ。

 そして少しして手を離すと、海都の赤い顔が顕になり、涙目で大声を上げる。

「……そうだよ、振られたよ! 文句あっか!?」

 海都のあまりの剣幕に、理央は目を見開いて後ずさった。

「え、おぉ、ないです……。……ねぇ、遥人くん。この人やばくない?」

「あんまり揶揄ってやるなよ。後で慰めるのめんどくせーから」

「そこぉ!! 聞こえてっから!! 千蔭さんは後でご飯奢ってください!! 弟は……、知らん!!!」

 そう言って、海都はプイッとそっぽを向く。


 そんな海都を見た理央は、険しい顔から一変してクスクスと笑い出した。

「……ふ、ふふ……。面白い先輩。あの女は嫌いだけど、あんたは嫌いじゃねーかも」

「弟に好かれても意味ねーし。てか、凪のことはもう吹っ切れてるし」

 海都はボソボソと言い訳をしながら、さりげなく遥人の背中に移動する。

 そして遥人の肩に顎を置いて、頬を膨らませた。

「千蔭さんにも意地悪されるし、弟には舐められるし。新学期早々、踏んだり蹴ったりなんですけど」

「知らん。日頃の行いだろ。どけ」

 遥人は海都の頭をどけて、理央の背中を軽く押した。

「理央。そろそろ他の新入生も来るから席行ってろ」

「はーい。またね遥人くん、海都さん」

 理央はニコニコと笑って二人に手を振り、体育館に入っていった。





 理央がいなくなった途端、海都は大きくため息を吐いて遥人に寄り掛かる。

 もはや引き剥がすのもめんどくさくなったのか、遥人はされるがままだった。

「……俺、あんな後輩は嫌です。千蔭さんの気持ちが少しだけ分かりました」

「そうか。ならさっさとどけよ」

「それは嫌です」

「しばくぞ」

 遥人は小さくため息を吐いて、海都の手に缶ジュースを無理矢理置いた。

 海都は突然のことに目を点にさせた。

「……………………毒物?」

 海都の発言に、遥人は一気に表情を険しくさせた。

「いらねーなら返せ」

「いりますいります」

 海都は必死に缶ジュースを握り締め、遥人から取られないようにした。

 そして遥人を見てニヤリと笑う。

「……千蔭さんって、本当にツンデレですよね」

「俺の優しさを無下にしたらどうなるんだろうなぁ」

「そんなこと言って〜。俺のこと大好きなんだから〜」

「そんなんじゃねぇよ」

 そう言って、遥人は海都から顔を逸らす。

「…………お前も、俺と一緒だからな」

「――っ、……まぁ、そう……ですね……」

 海都は口をキュッと結び、苦笑いを浮かべながら遥人の方を見た。

「……ありがとう、ございます。やっぱ俺、千蔭さんのこと好きですわ」

「……今だけは許してやる。今後一回でも言ったらしばくからな」

 遥人は顔を逸らしたまま、腕組みをしてそう言い放つ。冷たいように見えるその態度も、遥人なりの優しさなのだろう。

 海都は遥人の横顔を見て、フッと笑った。


 


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