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きみの知らないぼくのこと  作者: さか
僅かな気持ちの変化

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第四十四話



 ――ある日の休日にて。

 海都の家のケーキショップ内、イートインコーナーで凪と海都が向かい合って座っていた。

 そこでは凪が顔の前で両手を重ねて、海都に向かって何かを頼み込んでいる。

 その反対側にいる海都は、心底嫌そうな顔をしていた。

「い、や、だ! 他当たれ!」

「海都以外に誰がいるのさ! お願い! この通り!」

「しつこい! 無理なもんは無理!」

 お互いに一歩も引かない様子の二人。

 そんな光景を、レジから眺めていた海都の母親が、呆れたようにため息をついた。

「もういいじゃない、海都。素直に認めなさいよ。『俺のプライドが許さないから手伝わない』って」

「はぁ――!? ちっげーし!! 俺が手伝うのは違うだろって話だよ!」

 そう言って、海都はプイッとそっぽを向いた。



 事の始まりは十分前程から。








 ――十分前。

 神妙な面持ちで、ケーキショップの前でウロチョロする凪。

 そんな凪に気づいたのは、店内で商品を陳列していた海都だった。

「……何してんだ、あいつ……」

 海都は怪訝そうに凪を見る。

 見かねた海都が扉を開けて、凪に声を掛けた。

「お前、何してんの」

「――っ、か、海都!! なんでお店に……!」

「部活もねぇから暇で、母さんに無理矢理手伝いさせられてんだよ」

 海都は腰に手を当てて、めんどくさそうにため息をついた。

 海都がチラリと見れば、凪は目線を泳がせて何かを言い淀んでいるようだった。

「……で、本当に何してんの?」

 海都が聞くと、凪はビクッと肩を震わせる。

 そしてゆっくりと口を開いた。

「……、……海都に、お願いがあって……」

 そう言う凪に、海都はドキッと胸を高鳴らせる。

「――っ、な、なんだよ」

「私に……、……お菓子作りを教えて欲しいの……!」



 そして冒頭に戻る。




 



 


 ――現在。

 凪は拗ねた表情で、頬を膨らませていた。

「もう少しでバレンタインでしょ? 下手なお菓子を律希さんに渡せないもん」

「だからってなんで俺なんだよ! いっそのこと母さんに頼めよ!」

「おばさんは仕事で忙しいでしょ! 海都は部活だけしかしてないじゃん!」

()()ってなんだよ、腹立つな!」

 海都が机をバンッと叩き、その場に立ち上がる。


 そして大きくため息をついて、頭をガシガシと掻いた。

「……俺が手伝ったってこと、律希センパイが知ったら嫌な顔するの目に見えてるっつーの……」

「なんで? 海都なら大丈夫でしょ?」

 凪はキョトンとして、首を傾げる。

 そんな凪の様子に、海都は瞬きをして更に大きなため息をついた。

「ほん……っと、お前ら俺のことを信用しすぎだろ」

 海都は凪をチラリと見る。

 凪の表情は真剣そのもので、海都のことをジッと見つめていた。

「…………分かった。ただし! 俺が手伝うからには下手な菓子を渡させねーから覚悟しとけよ」

 そう言って、海都はビシッと凪を指差す。

 凪は嬉しそうに目を見開いて、表情を明るくさせた。

「あ、ありがとう! 海都!!」



 その日からバレンタインまで、海都の猛特訓が始まった。









 * * *









 ――バレンタイン当日。

 学校では、浮き足立っている男子生徒たちやソワソワしている女子生徒たちなど、あからさまな生徒ばかりだった。

 

 しかし気持ちが落ち着かないのは、律希も同じなようで、毎朝の日課の読書もどこか集中出来ていない。

 あまりにもソワソワしている律希に、見かねたクラスメイトが話し掛けた。

「おはよう、園田。その、大丈夫か……?」

「おはよう。何が? おれは普通だけど」

「……じゃあなんで、逆さまで読んでんだ?」

「……………………」

 律希は無言で、そっと本を元の向きに直す。

 そしてクラスメイトの方を向いて、ニッコリと笑った。

「ね? なんともないでしょ?」

「……お前も動揺とかすんだな……」

「……してないし」

 律希はクラスメイトから顔を逸らして、動揺を隠そうとする。

 そんな律希の様子に、そのクラスメイトは首を傾げて聞いた。

「でもお前、彼女いねーだろ。何をそんなにソワソワ……、……って、まさかお前……!」

 クラスメイトが凄い剣幕で、律希の両肩をガッシリと掴んだ。

「……彼女、出来たのか……!?」

 その一言が聞こえたのか、他のクラスメイトたちもわらわらと律希の席に集まってきた。

「えっ! 嘘でしょ!! 園田くん本当!?」

「はぁ――!? いつだよ! 言えよ! 俺たちの仲だろ!!」

「お前、そこまで仲良くねーだろ。馬鹿」

「えぇ〜……。園田くんにチョコ持ってきたのに〜……」

 ワイワイと自分のことのように騒ぐクラスメイトたち。

 そんな彼らを見て、律希は思わずクスクス笑い出した。

「あ! なーに笑ってんだよ! 高みの見物かぁ!?」

「違う違う……。他人の事なのに自分のことのように騒ぐから、面白くて……、……っふふ……」

 律希は口元に手を当てて笑う。

 そして思い出したかのように、一人の男子生徒が「あっ!」と声を上げた。

「そういえば冬休み明けもさ……」









 * * *









 ――冬休み明け。律希の教室にて。

 朝練終わりの遥人が欠伸をしながら教室に入ると、クラスメイトが焦った様子で遥人に話し掛けた。

「お、おい遥人! あれってどういうこと!?」

「はぁ? ……んだよあれって……、……って、リツ!?!?」

「あ、遥人。おはよう」

 目を見開いて驚く遥人の視線の先には、女装ではなく普通の男の格好をした律希が座っていた。

 クラスメイトたちも動揺しているのか、話し掛けるタイミングを伺っているようだった。


 遥人はツカツカと律希の席まで行き、律希の前の席に座った。

「どういうことだよ! いきなりその格好で来て!」

「あぁ、うん。なんかもう女装する必要ないかなって思って」

 そんな律希を見て、遥人は目を見開く。そして心配そうに律希を見た。

「……お前は、いいのか?」

 遥人の言葉に、律希は小さく頷く。

「うん。だって、本当のおれでいる意味が出来たから」

「……っ、そうか……。……リツが決めたことなら、俺はいい」

 遥人は安心したように肩をすくめて、自分の席に座る。

 

 その瞬間に、クラスメイト達が律希の席に集まる。

 それに加えて、他のクラスの生徒達も凄い勢いで教室に入ってきた。

「ちょいちょい! 文化祭の時も思ったけど、やっぱりかっこよすぎね!?」

「園田くん! 連絡先、交換しない!?」

「なんで同じクラスじゃなかったんだろう!?」

「ちょっと! なんで別のクラスからも来てる訳!?」

 律希は苦笑いを浮かべて、彼らを見つめる。

「あ、あの……。もう少しで予鈴なるよ?」

 律希がそう言った途端に、予鈴が鳴り、生徒達がわらわらと律希から離れた。

 その時の律希の表情は、困惑したような表情を浮かべていた。









 * * *









 ――現在。


「……ってな感じで、もみくちゃにされてたよなぁ。今もだけど」

 それを聞いて、律希は苦笑いを浮かべる。

「そうだったね……」

 律希はなんとか話題を逸らせられないかと思案するが、なかなか抜けれそうにもない。

 一人の男子生徒が目を輝かせて、律希に詰め寄る。

「なぁ、園田! マジで彼女いるの!? どっち!?」

「――っ、そ、それは……」

 律希が口をモゴモゴさせて言い淀む。

 そしてチラリとクラスメイト達を見ると、期待の眼差しを向けられていることに気づいた。

 

 律希は大きく息を吐く。

 やや頬を染めながら、彼らから目を逸らして呟いた。

「……、…………いる…………。……彼女……」



 その瞬間、沈黙が流れる。



 しばらくした後、クラスメイト達の色んな叫び声が響き渡った。

「えぇぇええぇ!!?? マジ、マジ!? 誰誰誰!!」

「言わない!」

「ねぇねぇ、園田くん! 歳いくつ!? 同じ学校!?」

「だから言わないって!!」

 クラスメイト達の怒涛の質問攻めに、 律希は顔を真っ赤にして、首を横に何度も振る。

 


 中には絶望している生徒もちまちま。

「嘘だろぉ〜……。密かに彼女いない同盟組もうと思ってたのに……」

「園田くんに彼女いるなんて……。完全に作り損だよ〜……」

「……告白する前に玉砕した……」



 そんなクラスメイト達の様子に、律希は思わず頭を抱えた。



 ――……こんなことなら女装しとけばよかった……!



 その時、教室内のカオスな空気を一刀両断する声が響く。

「……同じ学校。リツの彼女」

 全員が声のする方を向くと、眉を顰めた遥人が立っていた。

 突然のことに律希以外の生徒はポカーンとしたまま、遥人を見つめる。

 律希はというと、口をわなわなと震わせていた。

「は、はは、遥人……。なんで……それを……」

「ある程度言わないと、こいつら静かになんねーぞ」

 そう言いながら、教室に入ってくる遥人。

「あと、リツのことをつけ回しかねないからな」

 遥人の言葉に、男子生徒達がビクッと肩を震わせて、遥人から目を逸らした。

 そして遥人は、ギロリとクラスメイト達を睨む。

「…………リツの嫌がることしてみろ。俺がお前ら全員喋れねぇように、舌引っこ抜いてやるからな」

 クラスメイト達は、怯えたように顔を真っ青にさせて身震いする。

「だから千蔭はいちいち物騒なんだって! 怖い!!」

「しかも本気でやりかねないのが、尚怖い」

 

 そんな様子を見ていた律希は、苦笑いを浮かべてクラスメイト達に言う。

「……そういう訳だから、あんまり詮索しないでくれると嬉しいな。あと……」

 視線を下にして僅かに頬を染めながら、律希は言葉を続けた。

「……付き合ったばかりで、まだ少し恥ずかしいから……。そっとしてくれると……」

 そう言う律希を見た女子生徒達が、苦しそうに胸を押さえてその場に座り込んだ。

「ぐっ……! 園田くんの照れ顔、神……!!」

「それが見れただけで満足です……!!」

「リツはどんなリツでも最高だろうが」

「お前が混じるとややこしいから引っ込んでて」

 女子生徒の野次に割り込む遥人の口を、男子生徒が押さえる。

 押さえられてる遥人は、釈然としない表情をしている。


 その時のクラスメイト全員の心情として一致していたのは……。



「園田律希の恋を守らねば……!」



 だったそうな……。


 


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