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きみの知らないぼくのこと  作者: さか
触れて、触れられて

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第三十九話



 ――冬休み明けの教室にて。

 登校してからいつも読書をしている凪だったが、今日は頬杖をついて、ボーッと外の景色を眺めていた。

 外を見ると、男女で仲良く登園する姿がチラホラ見える。

 その時に窓ガラスに映る自身の格好を見て、下唇を軽く噛んだ。

「……、……いつまで、オレは……」





 ――……。



『凪さんに、おれは救われています。これからも一緒にいたいと思っています』



 ……――。





 元旦での律希の言葉が、凪の頭の中によぎった。

 凪はグッと拳を強く握る。



 ――……律希さんも、遥人さんも、海都も。みんな前を向いて歩いてるのに、私だけ……。



 そんなことを考えている凪に、クラスメイトの女子生徒が話し掛ける。

「蓮實くん! この後の移動教室一緒に行こ!」

「橋本さん。……うん。行こっか」

 そう言って、凪が立ち上がると同時に、教室の外がザワザワと騒がしくなる。

 その大多数は、女子生徒たちの黄色い声だった。

 


 凪はパッと廊下の窓に目を向けると、 本来この階にいるはずのない人の後ろ姿が見えた。

「……な、なな、なんで……」

 凪が口をプルプル震わせると、橋本と呼ばれた女子生徒が頬を赤くして凪の肩を叩いた。

「ね、ねぇ! あれって蓮實くんが文化祭で一緒に回ってた先輩じゃない!?」

「……え、あ、うん……。そうだよ……」

「近くで見ると、超かっこいいじゃん! なんで一年の階にいるんだろうね……?」

「さ、さぁ……。なんでだろうね……」

 凪は冷や汗を流しながら、廊下にいる律希に目を向ける。

 よく見れば、律希は女装しておらず、普通の男子高校生の格好をしていた。



 ――……律希、さん……? なんで男の格好……。



 凪が目を丸くしてジッと見ていると、その視線に気づいた律希は凪の教室の扉から顔を覗かせた。

「あ、蓮實くん。いま大丈夫?」

「……え、あ、はい。大丈夫です……」

 いつもよりも覇気がない凪に首を傾げる律希。

 そして優しく微笑んで、律希は静かに手招きをする。

 凪は橋本に「先に行ってて」と言って、律希の近くに行く。


 律希は辺りをキョロキョロと見渡す。

「……少し、静かなところに行こっか」

 そう言って、二人は人気のないところまで向かった。









 * * *









 ――階段下にて。

 向かい合っている二人だったが、凪は律希と目を合わそうとはしなかった。

 どことなく元気のない凪に、律希は心配そうに眉を下げる。

「……、……大丈夫?」

 それだけを言った律希は、凪の頬に手を伸ばして優しく撫でる。

 凪は律希の手が頬に触れた時、ビクリと肩を震わせて律希を見上げた。

「……だって、いきなり男の人の格好、してるから……」

「蓮實さんからしたら、そうだよね。……結構前から、女装する理由は無くなったと思ってたんだ」

 そう言って、律希は悲しそうに微笑んだ。

「でも、怖かった。おれにとって、人なんて信用に値するものじゃない、関わるなんて馬鹿らしいって思ってたから」

 律希の凪の頬を撫でる手が下がり、凪の手に触れた。

「蓮實さんはずっとおれのことを覚えていてくれたのに、おれは違った。遥人以外の人と向き合おうとしなかった」

 律希は凪の手に自身の手を絡めて、お互いの体温を確認するようにギュッと握る。

「……でも最近は違う。おれのことを蔑ろにしないクラスメイトに出会えた。色んな人と関わることの良さを知った。それを教えてくれたのは……」

 律希は握っていた手をそのまま持ち上げて、自身の頬に重ねた。

「君だよ、蓮實さん。蓮實さんが何度もおれと関わろうとしてくれて、何度もおれのことを知ろうとしてくれたおかげで今のおれがいる」

「……、わ、私は……」

 凪は律希から目を逸らして、困ったように眉を下げる。

 そんな凪を見て、律希は凪の手を離して、自身の両手で優しく凪の頬を包んだ。

「……だから、君のことも教えて。一緒に背負っていきたい」

「――っ! ……き、聞いたら、幻滅しますよ……」

「しないよ。おれがどれだけ君のことを好きだと思ってるの?」

「学校でそういうこと言うのやめて下さい! 心臓に悪い……!」

 そう言って、凪はいつも通りの真っ赤な顔になった。

 律希は安心したように笑って、両手を離す。

「よかった。元気になったみたいで」

「……、ありがとうございます」

 


 凪は嬉しそうに笑った後、ふと、あることを思い出した。

「そういえばなんで私の教室に?」

「あぁ、そうそう。実はさ、サッカー部の冬の大会が今週の土日にあってね。うちのサッカー部が決勝まで進んだらしくて、それの応援に行かない?って思って」

 そう言って、律希はポケットからチケットを二枚取り出した。

「遥人がくれてさ、良かったら見に来て欲しいって。蓮實さんにも渡したいって言ったら、すごい渋い顔されたけど」

「……あの人から好かれるのは諦めました」

 凪は苦笑いを浮かべ、律希からチケットを一枚受け取った。

 そして、そのチケットを握り締めて律希を見上げる。

「……私の話、また聞いてくれますか?」

「もちろん。いつまででも待ってる」

 律希はフッと笑って、凪の額に手を伸ばして前髪を少し上げた。

 そのまま額に顔を近づけて、軽く口付けをする。

「元気になれるおまじない。じゃあ、また今週末にね」

 凪は何が起こったか分からず、額を抑えたまま口をポカーンと開けて律希を見つめた。

 律希はクスッと笑って、その場から離れた。

 

 ハッとした凪が顔を真っ赤にさせて叫んでいたのは言うまでもないだろう。


 


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