表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみの知らないぼくのこと  作者: さか
気づき始めるそれぞれの想い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/30

第二十六話



 ――劇の控え室にて。

 オーロラ姫の衣装を纏った凪は、自身の姿を鏡で見る。

 男装していた時のウィッグは外し、普段よりも華奢な身体がハッキリと分かるようになっている。

「……これで女じゃないっていうのは無理がある……よね?」

 凪は、はぁとため息をつく。

 

 そこに、外から海都が声をかけた。

「凪〜? 準備出来たか?」

「あ、うん。大丈夫」

 凪の言葉を聞いて、海都はカーテンを開けて中に入る。

「おせぇよ。時間かかりす……ぎ……」

 中に入った海都は、目を見開いて凪の姿を見た。

 あまりにも固まったまま何も言わずに立ち尽くしている海都に、凪はおずおずと声をかける。

「あ、あの……。何か言ってくれない? もしかして似合ってない……?」

 そこで海都はハッとして、首を横に振る。そして、気恥ずかしそうに頬を染めて顔を逸らした。

「違う! ……似合ってるよ。誰よりも」

 そう言って、海都はそのまま凪に歩み寄る。

 海都との物理的距離が近くなり、凪は若干後ずさった。

「……な、何言って……」

「相変わらずすぐ照れんだから。そんなんで本番いけるのかよ」

 海都は、少し頬を染めながらもニヤニヤした表情を浮かべている。

 凪は海都を見上げて、ムッとした表情をして睨んだ。

「海都なんかに心配されるほど、落ちぶれてないんだけど」

「いつもよりも強気じゃん」

「当たり前でしょ。演劇のことで心配されたくないもん」

 凪は拗ねたように頬を膨らませる。

 そんな凪を見て、海都は吹き出して笑い出した。

「……ふ、あはは!! そっかそっか。お前が演劇を嫌いになってなくてよかったよ」

 そう言って海都は微笑んだ後、凪の頭を優しくポンポンと撫でた。

「じゃ、先行ってるからな。早く来いよ」

 海都はカーテンを開けて出ていった。

 その場に残された凪は、海都に撫でられた頭に自身の手を添えた。

「…………うん。すぐ行く」

 誰もいない空間に、凪はポツリとそう呟いた。







 凪から別れて舞台袖まで歩く海都の歩行スピードは、いつもよりも速足だった。

 その表情は、眉を顰めて不機嫌そうなものだった。



 ――……想像以上に、やばいな。凪のあの姿を他の奴にも見られるかと思うと気が気じゃねぇ……。



 海都はゆっくりと止まって、大きく息を吐いてその場にしゃがみ込む。

「……俺、ちゃんと演じきれんのかな……」

 海都の頭の中には、凪への想いばかりが溢れていた。

 


 そんな時に海都の頭をよぎるのは、ラストシーンである、オーロラ姫をキスで目覚めさせるシーン。

 そのシーンはキスはせずに、顔を近づけてキスに見せかける演出でいく予定。

「……本当に、魔が差したらどうすんだよ、俺……」

 海都は唸り声を上げながら、両手で顔を覆った。

 その現場を目の当たりにしたクラスメイトが、ギョッとして肩を震わせた。

「……っ、うわ!! ビックリした!! 海都、こんなとこで何してんだよ!?」

 その声に、海都はゆっくりと顔を上げる。

「あれ、お前こそ何してんの? お前って兵隊役だろ? 衣装は?」

「俺はお前みたいにしっかりした衣装じゃねーからギリギリでもいいんだよ」

「は――……。脇役はいいなぁ」

 海都はニヤリと笑って、膝に肘を置いて頬杖をついてクラスメイトを見上げる。

「ふざけんな。脇役がいるから主役が輝くんだろ」

「へぇ〜? じゃあ俺を輝かせてくれるってこと?」

「こんな性格の王子とか終わってんだろ」

 そこで海都は軽く笑って、その場に立ち上がった。

「舞台の上では本当の性格なんてどうでもいいだろ? 俺は元々こういう性格なんだよ」

 そう言って、海都は片手をヒラヒラとさせて歩き出した。

「あ、おい! 先行くなよ!」

 クラスメイトも海都の後ろについて歩き出す。









 * * *









 ――観客席にて。

 律希は執事服のままでは目立つため、いつも通りの制服に着替えて体育館に入った。

「思ったよりも人いるんだな。分かりやすい演目だからか」

 律希の隣には着替えた遥人もいる。

 律希は空いている席がないか、辺りをキョロキョロと見渡した。

「単純に櫻庭くんの人気のおかげもあるんじゃない? 二年生の女子の間でも有名でしょ」

 律希の言葉に、遥人は思いきり顔を引き攣らせた。

「……嘘だろ? あいつが? そいつらの頭、大丈夫か?」

「言い方。顔()()はいいからじゃない?」

「お前も言い方ひでーだろ。……あ、あそこ空いてんぞ」

 遥人は指して言った。

 

 二人は、遥人が見つけた空いている席に座る。

 ちょうどその時、開演のブザーが鳴って幕が開いた。









 * * *









 幕が開いた時、舞台が真っ暗の中、ナレーションの声が体育館に響き渡った。

 

『……ある王国で、お姫様が生まれました。王様は国中の民を城に招いて、お姫様の誕生パーティーを行いました。パーティーに呼ばれた魔法使いたちは次々とお姫様に贈り物を捧げました』


 パッと舞台の照明が付き、舞台の中央には魔法使いが十二人、揺籠を取り囲むように膝立ちをしていた。

 魔法使いたちは、順番にお姫様への贈り物を授けた。

 

『そして十二人目の魔法使いが贈り物をしようとしたその時……』


 スポットライトが舞台の端を照らし、そこには恐ろしい雰囲気を纏った魔法使いが立っていた。

 その魔法使いからの贈り物は、十五歳の誕生日で亡くなるというものだった。

 それを危惧した十二人目の魔法使いは、"お姫様は死なずに百年眠り続け、王子様のキスで目覚め、幸せに暮らす"という贈り物を授けた。




 そこで一度舞台が暗くなり、幕が閉まる。

 そして、次に開いた時にはお姫様が十五歳の誕生日のシーンへと移った。


 パッと明かりが付くと、舞台の中央に王様とお妃様が椅子に座っていた。

「おいで、オーロラ姫よ」

「はい。お父様」

 王様の言葉に返事をした凪は、ゆっくりと舞台中央まで歩く。



 



 凪が出てきた時、体育館がザワザワと騒ぎ始めた。

「……あんな可愛い子いたか?」

「いや、いなかった。しかもなんか……」

「昔にテレビで見たことあるような……」



 観客席で見ていた律希も、目を見開いて凪の演技に魅入っていた。

「…………すごいな、蓮實くん」

「……?」

 首を傾げる遥人に、律希は「どうしたの?」と顔を覗き込む。

 遥人は、そこでハッとして律希の方を向いた。

「――っ、あぁ、悪い。昔テレビで見たドラマの役者にそっくりだなと思って」

「……何のドラマ?」

「作品名は思い出せないんだけどさ。役者の名前は確か、蓬野凪(ふつがのなぎ)

 律希は遥人の言葉を聞いて、もう一度舞台に目を向ける。

 律希の視界に映る凪は、普段とはまるで別人で、雰囲気もオーロラ姫そのもの。

「……蓬野凪……」

 律希はその名前をボソリと呟いて、凪の姿をジッと見つめた。




 


 場面はオーロラ姫の十五歳の誕生日パーティ。

 パーティー会場とは少し離れた場所で、凪は一つの糸車を見つけた。

「……まぁ、これは何かしら?」

 凪は興味深そうに糸車の針を触り、苦しそうな表情を浮かべてその場に倒れ込んだ。

 

『オーロラ姫は糸車の針を触ってしまい、百年の眠りについてしまいました。そして百年の時が経ちました』


 そこで舞台装置が動き、城の外観へと変わる。

 また一つのスポットライトが舞台を照らすと、そこには王子の衣装を纏った海都が立っていた。



 


 

 海都が現れた瞬間、体育館内が黄色い声で包まれる。

「きゃあ――! 櫻庭くーん!!」

「カッコよすぎる!」


 そんな声を聞いていた遥人は、ケッと悪態をつく。

「……ほら、櫻庭くんの人気すごいでしょ?」

「あんな奴のどこがいいんだが」

 律希の言葉に肩をすくませる遥人。


 




 海都は腰に携えた剣を抜き、背景の城を剣で指し示した。

「あそこ美しい姫が眠っているのか」

 

 海都の行方を阻むイバラ。

 やっとの思いでイバラを掻い潜り、凪が眠る場所に辿り着いた海都。

 そこには彫刻像のように固まったまま目を瞑る凪が横たえていた。


 海都は凪の近くに歩み寄った。

「なんて美しい人だろうか。今すぐ助けて差し上げます」

 海都は台詞を言った後、目を瞑り横たえる凪に視線を移す。

 その姿に、一瞬身体を強張らせる。



 ――……振り、だけ……。分かってるだろ。本当にする訳じゃ……。



 海都は大きく息を吐き、顔を凪に近づける。

 徐々に近づく距離、徐々に感じるお互いの吐息に、海都は目を回しそうになった。



 ――……止まれ。この一線は、越えちゃダメだろ……。



 そこで海都は、自分の言った言葉をふと思い出す。



 


  ――……。



『……本気でする気はねぇけどさ。当日になって魔が差すかも……、……なんてな』


 

 ……――。

 




 海都はゴクリと息を飲む。

 そして、下唇をキュッと結び、自身のマントでお互いの姿を隠した。

 客席からは、二人の姿は影で見える形となった。



 



「え、何この演出。めっちゃお洒落じゃない?」

「ね! 本当にドキドキするんだけど……!」


 観客はこの演出に何も疑わなかった。

 海都が単独で行ったこの演出によって、多少離れていても口付けをしているように見える。

 しかし、海都の意図はそれではなかった。


 



 

 海都と凪の顔の距離は、僅か数センチ。あと少しでも近づけばゼロセンチになる距離。

 そんな距離で凪を見つめていた海都は、眉を顰めた。


「………………悪りぃ。魔が差した」


 海都は凪の近くで、そう呟いた。

「……?」

 台本にない台詞が聞こえて、凪が薄く目を開けると、目の前に海都の顔があった。

 その直後、海都は凪の口の端にキスをする。



 ――その瞬間、時が止まった。

 


 凪はゆっくりと目を開ける。そして、驚きを隠しつつも僅かに頬を赤く染める。

 口の端に手を当てて、目を丸くする。

「………………な、何で……?」

「終わったら話聞く」

 そう言って、海都はマントを離して凪の身体をゆっくり抱き起こした。




 その瞬間、会場が黄色い声で包まれた。

「あれって本当にキスしたの!?」

「流石にしてねーだろ。演出だって」

「だとしても、あの距離で平静保ててるのやばくない!?」




 そんな反応とは対照的に、海都の表情は後悔に満ちたものだった。

 その表情を見た凪は瞳を震わせるが、すぐに演技に没入する。

「…………貴方、だったんですね……」

 そこで海都はハッとして、凪の方を見て痛々しく微笑んだ。

「……そうです。貴方のことを助けに参りました」

「ありがとうございます」

 お互いの手を取り合って、二人は見つめ合った。


『こうして眠りから覚めたオーロラ姫は、王子様と幸せに暮らしました』

 そこで幕が閉まり、体育館は観客からの拍手に包まれた。





 

 幕が閉まった後、海都は凪の腕を掴んで舞台袖に移動する。

 そしてそのまま誰もいない場所で、震える手で凪のことを抱き締めた。

「…………悪い。キモかったよな」

 その海都の声も、僅かに震えていた。

 凪はそのことに気づき、目を見開く。

「――っ、海都……」

「俺、先着替えてくる」

 凪の言葉を聞く前に、海都は着替えのスペースに入っていった。

 その場に残された凪は、両手を胸の前に握り締めた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ