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きみの知らないぼくのこと  作者: さか
気づき始めるそれぞれの想い

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25/29

第二十五話



 ――文化祭本番、一日目。

 凪のクラスは午後からの演目のため、午前中は時間があった。

 凪はどこで時間を潰そうか考えてた時、後ろから誰かが肩に抱きついてきた。

「――っ、誰……って、海都か……」

「失礼だな、その態度。せっかく俺がプレゼント持ってきてやったのに」

 そう言って、海都はポケットからニ枚の紙を取り出した。

 凪はキョトンとして首を傾げる。

「…………プレゼント?」

「そ。千蔭さんのクラスの整理券」

「……は? 整理券?」

 凪は訳が分からず、更に目を丸くして海都の持っている整理券を見つめた。

 海都はその紙をヒラヒラさせる。

「千蔭さんが言うには、集客数がとんでもないことになりそうだからって。あと、どうせお前ら来るだろ?……だってさ」

「……あの遥人さんが素直に整理券を渡した? 熱でもあるんじゃ……」

「俺も最初はそう言った。そしたら"ふざけんな。返せ"って言われた」

 そう言って、海都はケラケラ笑う。そして整理券の一枚を凪に手渡した。

「……ってことで、はい。これはお前の分」

「――っ、オレの……?」

「おう。千蔭さんが渡せってうるさくて。千蔭さんなりのお詫びのつもりなんじゃねーの」

 凪は海都から整理券を受け取り、それを見つめた。



 ――……遥人さん。私のこと、少しは認めてくれたのかな……。



 凪は整理券を丁寧にポケットにしまった。

 凪の様子を見た海都は、凪の手を取って歩き出した。

「……と、いうことで今から行こーぜ!」

「うわっ、ちょっと……!?」

 手を引っ張られた凪はよろけながらも、海都の歩幅に合わせて歩く。

 そしてさりげなく繋がれた手に気づき、凪は顔を赤くする。

「……っ、待てって! 手!!」

 凪の言葉に海都は振り返る。

 しかし、ニヤリと笑い、繋がれた手を凪に見せつけるように顔の前で掲げた。

「どうせ誰も見てねーよ。それともただの幼馴染と手を繋ぐのが、そんなに恥ずかしいかよ?」

「そ、そういう訳じゃ……」

 凪はグッと言葉を詰まらせると、海都はニッコリ笑ってそのまま歩き出した。

「じゃあいいだろ。すぐそこなんだから」

 そう言って、海都は強引に凪の手を引っ張る。その手は僅かに震えていた。

 凪がそのことに気づく。



 ――……辛い……よね。普通に考えて。私の我儘で幼馴染として関わってくれてるから……。



 凪は海都に握られた手を、ギュッと軽く握り返す。

 気づけば、海都の手の震えは止まっていた。









 * * *









 ――律希の教室の前にて。

 凪と海都は律希たちの教室にある看板を見て、言葉を失った。

「……………………マジ?」

「こ、コスプレ……、カフェ……?」

 二人が絶句したまま立ち尽くしていると、入口にいた受付の女子生徒が声をかける。

「あ、その上履きの色は一年生? 来てくれてありがとう! 整理券持ってる人?」

「……、あっ、持ってます。これ。……あと、こいつも持ってます」

 そう言って、海都は自分の整理券を出して凪のことを指差す。

 凪も海都に続いて整理券を女子生徒に渡す。

 


 女子生徒は整理券を見て、「受け付けました〜!」と言って、中に案内してくれた。

 その間、凪と海都はヒソヒソと小声で話す。

「…………千蔭さんがコスプレ? いやそれ以前に律希センパイもコスプレしてんの?」

「する訳ないでしょ。律希さんはきっと裏方で……」

 凪がそう言って、中に入った時――。





「……あ、蓮實くん。いらっしゃい」

 そこには女装ではなく普通の男の格好で、しかも執事服を着ている律希がいた。

 その瞬間、凪は言葉を失って口をポカーンと開けたままその場に立ち尽くした。

「…………………………?」

「え……っと……。律希センパイで合ってます?」

「合ってるよ。男性の衣装を着るなら、こっちじゃないとおかしいでしょ?」

 そう言って、律希は首を傾げる。



 凪はハッとして、勢いよく海都の後ろに身を隠した。



 ――……り、りり、律希さんの女装じゃない姿なんて聞いてない……! いきなりこれはキャパオーバーなんですけど……!?



 顔が林檎のように真っ赤な凪は、海都の後ろで頭を抱えていた。

 そんな凪の様子を伺うように、律希は凪の顔を覗き込む。

「大丈夫?」

「――っ、ひぇっ! いきなり目の前に来ないでください!」

 慌てふためく凪を見て、律希は口元を手で押さえてクスクス笑い出した。

「……っ、ふふ……。そんなに慌てなくても……」

「あ、慌てますよ! いつもと姿が違うんです!」

 凪がそう言うと、律希は「ふーん……」と言ってニヤリと口角を上げた。

「……じゃあまたこの格好になろうかな」

「やめてください。死人が出ます」

「出る訳なくない?」

 律希は凪の言葉に、思わず吹き出して笑う。


 


 そんなやり取りをしていると、二人の頭の上から海都が気まずそうに声を掛けた。

「……あの〜……。人を挟むんやめてもらってもいいですか?」

 その言葉に、凪と律希はハッとする。すぐに立ち上がってお互いに距離を取った。

「ごめんね。蓮實くんの反応が面白くて。席に案内するよ。こちらにどうぞ」

 そう言って、律希は二人を席に案内する。



 律希の後ろで凪が海都の袖を引く。

「あれって本当に律希さんで合ってる? オレの欲望が生み出した幻覚じゃねーよな?」

 海都は凪の方を振り向いて、肩をすくめた。

「お前それ正気?」

「だって! 女装してない律希さんとか、どう考えてもおかしいだろ!」

「あの人なりに、吹っ切れたんじゃねーの?」

 海都は律希に目線を向ける。

 凪も同じように律希の背中を見つめる。その背中は、女装していた時よりも肩幅が広く見えた。



 ――……私はまだ、変われてないのに……。律希さんは変わろうとしてるんだ……。



 凪は拳を強く握った。








 席を案内された二人は店内を見渡す。

 コスプレカフェというだけあって、色んな格好をしている生徒がいた。

「律希センパイが執事なら、千蔭さんは何だろうな。意外と可愛いやつ着てたら笑うな」

 そう言って、海都は口元に手を当ててクスクス笑う。

 その時、海都の後ろに近づく影が一つ。

 凪はその存在に気づき、目を泳がせて後ろを指差した。

「……あ、海都……。後ろ……」

「……? 何言って……」

 海都が振り向くより先に、海都の後頭部を誰かがメニューで思いきり叩いた。

「海都、てめぇ。出禁にすんぞ」

「…………あ、千蔭さんだぁ……」

 海都は後頭部を押さえながら、冷や汗を流す。

「お前が整理券寄越せって言うから渡したのに、何だその態度。しばかれてーのか?」

 遥人は冷たい眼差しで海都を見据える。

「い、嫌だなぁ。感謝してますよ、本当に」

「………………白々しいな」

 遥人はため息をついて、凪たちのテーブルにメニュー置いた。

 そこで遥人の格好を改めて見た海都は、段々とニヤニヤし出した。

「……ふっ、ふふ……。ち、千蔭さん……。……っ、その格好って……、自発的に……?」

「あ゙ぁ゙? んな訳ねぇだろ。クラスの奴に無理矢理だよ」

 遥人は不機嫌そうに眉を顰めて言った。



 遥人の格好は、和装の着物に猫耳という確実に本人が着なさそうな衣装であった。

 そのため、当の本人はかなり不機嫌そうに接客をしている。

 だが、クラスメイトの言う通り、面()()は良いため、集客率は高まっているようだ。



 遥人は腰に手を当てて、二人が注文するのを待っていた。

「決まったのか?」

「……あ、じゃあ俺はミルクティーで。凪は?」

「えっと、オレはレモンティーを」

「はいはい。大人しく待ってろよ」

 そう言って、遥人は裏方の方に入っていった。


 


 二人になった時、凪はとある疑問をぶつけた。

「……整理券、遥人さんからもらったんじゃねーのか?」

「――っ!! ……え……と……、それは……」

 海都は肩をビクリとさせた後、目線を泳がせてあからさまに動揺の色を見せる。

 凪は構わず追撃した。

「本当は遥人さんからもらったんじゃなくて、海都が根回ししてくれたってこと?」

 凪の言葉に、海都はグッと言葉を詰まらせる。

 そして、視線を下に向けて観念したように大きく息を吐いた。

「……そうだよ。……誰のためだと思う?」

 そう言って、海都は頬杖をついて目を細めて凪を見つめた。

 その時の海都の目には、まるで愛おしい人を見るような熱いものが込められていた。

 凪は声にならない悲鳴を上げて、そっぽを向く。

「――っ、そういうこと、言うなよって言っただろ」

「え――? 俺、変なこと言った?」

 海都はニヤニヤしながら凪を見る。

 逆に凪は頬を染めて、口をワナワナと震わせていた。



 そこに遥人が飲み物を持ってきたのだが、海都の頭に遥人の拳骨が落ちた。

「うるせーんだよ、お前ら。イチャつくなら他所でやれ」

「――っ、いった!! なんっ……で、俺だけ!?」

「顔見知り程度の蓮實に鉄拳なんて出来ねーよ」

 そう言って、遥人は机に飲み物を二つ置いた。その時にチラリと凪の方を見る。

 いきなり見られた凪は目を丸くした。

「……え、何ですか?」

「何もねぇよ。リツにとって悪い虫なら排除するべきだよなって考えてただけ」

「え、怖。遥人さんの認可降りなかったら、オレって排除されるんですか?」

「その可能性もあるな」

 遥人は小さく息を吐いて腰に手を当て、視線を少し横にずらした。

「…………まぁ、今は及第点ギリギリってとこだな」

「何でこの人、自分基準で採点してんの?」

 凪は信じられないという顔をして、遥人を指差す。

 目の前にいた海都は肩をすくめた。

「そういう人なのは分かってただろ? 諦めろ」

「海都は後で面貸せよ」

「うわぁ、パワハラだ――……」

 海都は苦笑いを浮かべて、大人しくミルクティーを飲み始めた。

 凪もレモンティーに手を伸ばす。そして、遥人を見上げてにっこりと笑った。

「少しは認めてくれたってことですよね! ありがとうございます!」

「……あんまり調子乗ってるとしばくからな」

 それだけ言って、遥人はその場を離れた。




 凪と海都は、そんな遥人の背中を見送る。

 そして、凪が海都にだけ聞こえるぐらいの声で話しかけた。

「……遥人さんって、雰囲気変わった?」

「さぁ? 俺に対してはいつにも増して当たり強かったけどな」

 海都は苦笑いをして、飲み物を一口飲む。



 ――……遥人さんも前を向いてるんだ……。



 凪はカップをグッと握りしめた。

 そんな凪を横目で見た海都はカップを傾けて、一気に飲み干した。

「ほら、そろそろ行くぞ。準備しなきゃいけねーだろ。あと俺が千蔭さんにしばかれる前に」

「海都の命が危ないからな」

「うるせ。死活問題だ」

 そう言って、二人は席から立ち上がり、出口に向かった。

 二人の後ろから律希が声を掛ける。

「……待って、蓮實くん……!」

 凪が律希の方に振り返る。

 その時に律希は、凪の腕を優しく掴んだ。

「――っ! な、何して……!」

「頑張ってね、劇。見に行くから」

 律希の真っ直ぐな言葉に、凪は目を見開く。そして、眉を下げて微笑んだ。

「……ありがとうございます。律希さんが見ててくれるなら、頑張れる気がします」

 凪は自身の腕を掴む律希の手に、自身の手を添えた。

 律希の体温を感じて、凪は少し心が落ち着いた。



 お互いに手を離して、距離を取った。

「……じゃ、準備してきます。行こ、海都」

 凪は海都に声を掛けて、教室から出た。

 しかし凪だけ顔をひょっこり出して、ニッコリと笑って言った。

「ぜ――ったい来てくださいね! 舞台の上で待ってますから!」

 それだけを言って、パタパタと駆けていく足音が廊下に響いた。



 律希は凪の腕を掴んでいた手を見つめ、軽く拳を握った。

「…………うん、待ってて」

 そのまま律希も、接客を続けた。



 

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