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きみの知らないぼくのこと  作者: さか
気づき始めるそれぞれの想い

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24/29

第二十四話



 ――数日後。凪、海都のクラスにて。

 演劇の練習は凪のおかげで順調に進んでいる。

 凪自身も久しぶりの演技で、表情には出ていないものの、楽しんでいるようだった。



 今日は採寸の日。

 凪にとっては一大イベントだった。

「…………最悪だ」

 凪はグッと握り拳を作って、顔を真っ青にさせていた。

 すると、海都が凪の近くにやってきて、凪の頭に肘を置く。

「な――にそんな死にそうな顔してんの?」

「……うるさい。今からオレはどっちで採寸にいけばいいか悩んでんだよ」

「……、あー……そういう……」

 海都は凪の細い首元へと視線を向けた。

 華奢な肩、そして男子生徒ならあるはずの喉仏がないことを見て、海都は改めて凪は女であることを実感した。

 そこでハッとして、邪念を払うように海都は首を横に振った。



 ――……いやいやいやキモすぎる。馬鹿だろ、俺。そんなことを考えるとか……。



 海都は大きくため息をついて、腰に手を当てた。

「……採寸ぐらい、女子にやってもらえばいいだろ?」

「女だってバレた時、耐えられる気がしねーんだよ。……それに……」

 そう言って、凪は視線を下に下げて、悲しそうに眉毛を下げる。



 ――……もう、私を否定されたくない……。



 そんな凪の様子を見て、海都は凪の頭を優しくポンポンと叩いた。

「あんまり考えすぎんなよ。目の前で起きてることだけに目を向けたほうがいい」

「分かってるよ。分かってるけど……」

 凪の煮え切らない様子に、海都は大きくため息をつく。

 そして、海都が口を開いた瞬間――。

「じゃあ次は蓮實くんだね! 隣の教室来て〜」

 とうとう凪の番になり、凪はギギギと首だけを教室の入口に向けた。

 そこには採寸をしてくれる一人の女子生徒が、にこやかに笑って立っている。

「あ、服の上からの採寸だよ? サイズとかプライバシーの関係で隣の教室でって宮先が言っててさー」

「そ、そう……なんだ……」

 凪は服の上という言葉に、安心したようにホッと一息つく。

 そして、彼女の後ろを着いていった。








 凪は隣の教室に入ると、その女子生徒と二人きりになる。



 ――……いざ、こうしてクラスメイトと二人きりになると緊張する……。



 凪は表情を強張らせて、彼女を見つめた。

「じゃ、サクッと終わらせますか〜」

 彼女はそう言って、凪に近づく。

 緊張した様子の凪を見た彼女は、目を丸くした後、吹き出して笑い出した。

「……ふっ、……あははは! そんな緊張しないでよ! 私が緊張しちゃうじゃん! 蓮實くんってクールだと思ってたけど、シャイなだけ?」

 笑う彼女を見て、凪は頬を赤く染めて、顔を逸らした。

「い、いいだろ別に。早く採寸してくれ」

「はいはい。分かりましたよ〜」

 彼女はクスクス笑いながら、採寸を始めた。



 採寸をしながら、彼女は少し首を傾げた。

「…………蓮實くんって、随分華奢だね?」

 その言葉に、凪は肩をビクリと震わせた。

 その時、彼女は口元を手で押さえて、目を見開いた。

「あ、気にしてたらごめん! 無神経だった!」

「いや大丈夫。気にしてないから……」

 凪は小さく首を横に振る。

 凪の様子を見た彼女は、安心したように胸を撫で下ろした。

「よかったぁ〜……。思ったよりも細いから、女子用のサイズが頭によぎっちゃって……」

 そこで、凪はジッと彼女を見る。



 ――……バレてない。よかった……。



 凪は深いため息をついて何も打ち明けることはなかった。

 そしてそのまま、されるがままで採寸を終えた。







 凪が自身の教室に戻る。

 扉の音に反応した海都がパッと顔を上げて、凪の近くに歩み寄った。

「無事に終わったのか?」

「……なんとかね」

「その様子だとバレなかったみたいだな」

「冷や冷やしたけどな」

 そこで凪は視界の隅に、何やらキラキラ光る布が見えるのに気づく。

 

 ふと顔を上げると、海都の服装が制服ではなく、王子の衣装になっていた。

「……、――っ!? なっ、その格好……!」

「あ、やっと気づいたのか? 試着してたんだよ。サイズをしっかり詰めたいから〜って」

 海都は腰に手を当てて、王子様っぽい所作をする。

 そして、海都は凪の顔を掴んで上に向かせた。

「何? ドキッとした?」

 そう言って、海都は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

 凪は声にならない悲鳴を上げて、海都の頬を思いきり平手打ちした。

「――っ、ふっ……ざけんな! しないわ!!」

「いってぇ!!? 叩くことねぇだろ!」

「うるさい!! 馬鹿!!」

 凪は海都の方を見ずに、ツカツカと教室の中に入る。

 凪の頬は僅かに紅潮しており、その熱を抑えるように顔に手を当てる。



 ――……馬鹿馬鹿馬鹿……! 海都の馬鹿! 教室のど真ん中であんなこと……。



 そこでふと、凪はあることに気づいた。

「…………ラストのキスシーン、海都とするってこと……?」

 その瞬間、凪は海都にキスされそうになった時の記憶が蘇った。

 途端に身体中の水分が沸騰するかのように、体温が上がる感覚がした。



 ――……いやいや、演技。たかが演技……。海都だって本気でする訳……。する訳……。



 そこで凪はチラリと後ろを振り返る。

 後ろには、凪に叩かれた頬を痛そうに摩っている海都がいた。

 そんな海都と目が合い、凪は目を逸らすようにバッと正面を向く。



 ――……意識しちゃダメ。意識したら演技できなくなる……。



 凪は大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。



 




 そんな凪の様子を離れたところから見ていた海都は、眉を下げて微笑む。

「……隠す気あんのかよ、あいつ……。あんな表情してたら分かるだろーが」

 そんなことを呟きながら、海都は緩む口元を手で押さえる。



 ――……ま、俺の言動一つであんなに動揺してくれるならいいか……。



 そこで海都は台本のページをパラパラとめくり、最後のラストシーンのページを見る。

 海都が開いたページは、オーロラ姫と王子様のキスシーンだった。

 海都はほんの少し悲しそうに微笑んで、そのページの文字をなぞる。

「……本気でする気はねぇけどさ。当日になって魔が差すかも……、……なんてな」

 海都は頭の後ろで手を組む。

 そして、衣装から制服に着替えるため教室から出ていった。



 

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