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きみの知らないぼくのこと  作者: さか
気づき始めるそれぞれの想い

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22/29

第二十二話



 ――数日後の昼休みにて。

 凪と律希の二人は、定期的に屋上で昼食を共にするようになった。

 今日もまた、美しい青い空が二人を見守っている。

 

 しかし、凪は大きなため息をついて顔を両手で覆った。

 爽快な青い空とは打って変わって、凪の雰囲気は曇り空のようだった。

 律希は凪の様子を見て、手を丸くする。

「……どうしたの?」

 見かねた律希が凪の顔を覗き込む。

 すると、凪は両手で顔を覆ったままボソボソと呟き始めた。

「…………文化祭で、劇するんですけど」

「うん」

「……役で選ばれたんですけど」

「おぉ、そうなんだ」

「………………く、です」

「なんて?」

 凪の言葉を聞き取れなかった律希は、凪の方に耳を寄せる。

 凪は神妙な面持ちをして、パッと顔を上げた。

「……主役なんです」

「…………立候補、な訳ないよね」

「そんな訳ないじゃないですか! 私は裏方がよかったです!」

「くじ引き?」

「……そうですよ……。みんなやりたがらなくて、仕方なく……」

 そう言って、凪は役決めのことを話し始めた。









 * * *









 ――数日前のホームルームにて。

 凪たちのクラスは無事に第一候補の題材を獲得することができ、役決めの話し合いをしていた。

 凪は黒板に役の名前を書いていく。

「役決めなんだけど、希望はあるかー?」

 海都が聞くと、教室はシーンと静まり返った。

 そんな様子を見た海都は苦笑する。

「…………ま、そうだろうな。主役は置いといて、他の役はどうだ?」

「妖精の役ならやりたいかも! 可愛い衣装着れそうだし!」

「俺、家来とかならやれそう」

 主役以外の役だと、クラスメイトたちは明るい表情で話し始めた。

 凪は役の下に生徒の名前を書きながら、ボーッと黒板を見つめる。



 ――……私は、裏方でいいや。演技はしたくないし。演技して昔の私のこと、バレたくないし……。



 凪はギュッとチョークを強く握り締め、唇をキュッと結んだ。


 



 そして、トントン拍子で決まり、残るは主役のオーロラ姫と王子になった。

 海都は腕組みをして、黒板を見つめた。

「……うーん……。もはやくじ引きで決めるしかねーか? ……ってことで、先生! くじ引き貸してください!」

 海都がそう言うと、クラスメイトたちがザワザワとし始めた。

「マジかー! いやでもしょうがねぇか……」

「オーロラ姫とか絶対できる自信ない! お願いします……!」

 クラスメイトたちの強い視線が、くじ引きの箱に集まる。

 海都がくじ引きの箱の中に手を伸ばした時、凪がその手を止めた。

「先生が引いてください。こいつ、不正しますから」

 そんな凪の顔を覗き込むように、海都は凪のことをジッと見つめた。

「しねーって。そんなことを俺がするとでも?」

「……どの口が……」

 凪は眉を顰めて、海都を見る。

 

 見かねた担任が、ため息をついて二人の間に割って入った。

「へいへい。俺が引いたらいいんだろ。んじゃ、まずはオーロラ姫役な」

 そう言って、担任は容赦なく箱の中に手を入れた。ガサゴソとくじを漁り、一枚の紙を取り出した。

「……えーっと……。おめでとう、蓮實。お前がオーロラ姫だ」

 担任の言葉を聞いた凪は、口をポカーンと開けて目を丸くした。

「…………は?」

 凪が選ばれたことで、教室内にホッとした空気が流れた。

「よかったぁ! 免れた……!」

「蓮實か〜。意外だけど似合いそうじゃね?」

 クラスメイトたちは、安堵に満ちた表情をして話をする。

 


 凪はハッとして担任に近づき、担任の持っていた紙を奪い取った。

 そこにはちゃんと凪の出席番号が書かれていた。

「…………まさか……」

 凪は疑いの目で担任を見る。

 担任は肩をすくめて、大きくため息をついた。

「する訳ねーだろ」

「………………最悪だ……」

 凪は分かりやすく落ち込み、肩を落とした。そして、チラリと海都を見る。

 海都は嬉しそうにニヤニヤとしていた。

「よかったなぁ、凪。主役だぞ」

「よくねーよ馬鹿」

 凪は海都を睨むが、海都は何でもない顔でニヤニヤしたままだった。



 オーロラ姫は決まったが、王子役がまだ決まっていないため、担任はもう一枚紙を引こうとする。

「じゃ、次は王子役だな」

 その手を、海都は静かに止めた。

「先生、ちょっと待ってください」

 そして、海都は手を挙げた。

「じゃあ王子役は俺がしますよ。どうせみんなやりたくねーだろ?」

「櫻庭マジ!? 神じゃん!」

「櫻庭くんが王子役とか絶対カッコいいじゃん!」

 海都が名乗り出たことで、教室内が明るい空気に包まれた。

 そんな空気とは反して、凪は口をワナワナと震わせて海都を見ていた。

「か、海都、何して……」

 凪の表情を見た海都は、満面の笑みを浮かべる。

「よろしくな、なーぎ♡」

 そう言って、海都は凪にウィンクをする。

 その瞬間、凪はこの先の出来事を想像して大きくため息をつき、両手で顔を覆った。



 ――……最悪……。本当に最悪……。なんでこんなことに……。



 凪の苦悩とは裏腹に、海都は嬉しそうな表情を浮かべていた。









 * * *









 ――現在、屋上にて。

「……と、いう訳です」

「それはなんというか……、ご愁傷様としか言えないかも」

「なんでオーロラ姫役!? ピンポイント過ぎて怖いんですけど!」

 凪は頭を抱えて、「うわぁあぁ……」と唸っている。

 そんな凪の肩に、律希は優しく手を置いた。

「たかが学生の演劇だし、そんな気負わなくてもいいと思うけど……」

「……そうなんですけど。本当の私を見られるのが怖いんです……」

「……本当の、蓮實さん?」

 律希はキョトンとして首を傾げる。


 その時、ざぁと柔らかな風が吹き、二人の頬を優しく撫でた。

 凪は口を震わせて、ボソボソと呟き始める。

「……私は、()でいることが怖いんです。自分を否定されるのが嫌だから、男装してるし……」

 凪は自身の髪の毛を触る。

「本当は女だってバレた時、また否定されたら……って思うと……、……怖くて……」

「……蓮實さん……」

 律希は黙って凪の話を聞いていた。そして、優しく凪の頭を撫でる。

「大丈夫だよ。きっとそうならないよ。もし、そうなったとしても櫻庭くんがいるでしょ?」

「……ダメですよ。海都に頼るのは。だって……」

 言葉を濁している凪に、律希は肩をすくめて苦笑いを浮かべた。

「櫻庭くんが君のことを好きだから?」

「――っ!? 何でそれ……!」

 凪は驚いて目を見開き、律希に詰め寄る。

「櫻庭くんと話す機会があってね、その時に」

「そ、そうなんですか……」

 凪は反応に困っているのか、目を泳がせて少し頬を染めていた。

 凪の様子を見ていた律希は、目を細めて笑みを浮かべた。



 ――……本当に君は優しいな……。

 


 凪の頬に、律希は手を添える。

「いいじゃん、頼っても。好きな子に頼られて嫌な男なんて居ないと思うけど」

「……そんなの、利用してるみたいじゃないですか」

「利用しちゃいなよ。それぐらいの気持ちの方が、君にはちょうどいいよ」

 律希の言葉に、凪は目を丸くする。

 そして、ジッと律希を見つめ、意を決したようにゆっくりと口を開いた。

「…………頼っても、いいですか?」

「……? うん。いいと思うよ」

 律希は凪の言葉の意味が理解出来ず、キョトンとしたまま頷いた。

 凪は俯いて律希の言葉を復唱する。

「好きな子に頼られて嫌な男はいないって言いましたよね」

「うん。言ったね」

 凪は少しニヤリと笑った後、徐に律希の両頬を両手で包んだ。

 凪の行動に、律希は目を見開いて驚く。

「――っ、何して……」

「じゃあ、私は律希さんに頼ります。少なくとも私のことを嫌いではないと思うので」

 そう言って、凪は両手を律希の顔から離した。


 その瞬間、律希の頬が僅かに赤く染まる。そして、それを隠すように口元を手で覆った。

「……、君って本当に、ずるいな……」

 律希は目を泳がせて、動揺の色を示す。

 大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせた後、凪の額に軽くデコピンした。

「――いたっ! なんで!?」

 凪は訳が分からず、涙目で額を押さえた。

 凪の目の前には、挑発的な表情をして凪を見据える律希がいた。

「……いいよ、頼っても。君になら頼られてもいいかなって思えるから」

 凪はその言葉を聞いて、目を輝かせる。

「……っ、それって……!」

 凪は律希に近づいて、頬を紅潮させて言う。

「私のこと好きですよね!? 付き合ってください!」

「無理」

「だから何で!!??」

 凪は分かりやすく頬を膨らませて拗ねた表情を見せた。

 律希はクスクスと口元を押さえて笑う。

「……君は良くてもおれの答えがまだなの。だから……」

 そう言って、律希は凪の耳元で呟く。

「……待ってて」

「――っ!? ぴゃっ……!」

 凪は顔を真っ赤にして耳を押さえて、勢いよく後ずさった。

 そんな凪の様子を見て、律希はまた笑う。

「そんなのでオーロラ姫が務まるの?」

「そっ、それとこれとは別問題ですよ!」

 凪はプイッと律希から顔を逸らす。


 


 そこでふと、とある疑問が凪の頭に降ってきた。

「……、……そういえば、律希さんのクラスは何するんですか?」

 凪の質問に律希はピシッと身体を強張らせた。

 そして、あからさまに顔を逸らして「あ〜……」と言葉に詰まらせていた。

「……内緒」

 律希は困ったように眉毛を下げて、口元に人差し指を当てる。

 凪は食い下がり、律希に詰め寄る。

「ダメです! 教えてください!」

「当日の楽しみに取っといた方がいいと思うなー」

 律希は「あははー」とテキトーに笑って、屋上の入口に向かって歩き、扉を開けた。

 そして、振り返って凪に微笑む。

「……楽しみだね、文化祭」

「…………はい」

 凪も同じように微笑み、律希の近くに歩み寄った。


 二人が出ていった後、屋上には優しい風が吹いていた。



 

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