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きみの知らないぼくのこと  作者: さか
出会いからほんの少しの近づき

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2/10

第二話


 

 ――二年生の廊下にて。

 次の日の昼休み、明らか変な挙動で、辺りをキョロキョロしている凪の姿があった。

 そんな後ろ姿を見た遥人は、嫌な予感がして彼の首根っこを掴んだ。

「――っ、ぐぇっ! 誰……って、昨日律希さんと一緒にいた人……」

 首根っこを掴まれた凪は、眉を寄せて苦しそうな表情を浮かべる。

 遥人はハァと大きな溜息をついた。

「……千蔭遥人(ちかげはると)。俺の名前」

「あぁ、だから律希さんはあなたのことを遥人って呼んでたんですね! じゃあオレも遥人さんって呼びますね!」

「呼ぶな、馴れ馴れしい。……で、こんな所で何してんだよ」

 遥人が凄い剣幕で凪に詰め寄る。

 凪は一歩も引かずに、うーんと考えた後、あっけらかんと笑った。

「律希さんのストーキング?」

「しばくぞ」

 一度凪の首根っこを離した遥人は、胸倉を掴んで冷たく言い放つ。

「リツに関わるなって言っただろ。これ以上あいつを困らすな」

「昨日言われたのは、律希さんのことを言いふらすな、ですよね?」

「ほぼ同義だよ。察せよ」

「いやいや、無理だって」

 遥人は更に大きな溜息をついて、凪の胸倉から手を離した。

 凪は制服を直しながら、口を尖らせる。

「オレが律希さんと仲良くするの嫌なんですか――。独占欲強すぎません?」

「独占欲とかじゃねーよ。……ただ、あいつは変に気を遣うから」

 遥人はそう言いながら、フイと視線を逸らした。

 その遥人の表情を見た凪は、目をパチパチさせる。そして、口を開きかけた時。

 


「遥人、そんなとこで何してるの?」

「……あ、リツ」

 二人が振り返ると、目を丸くしている律希が立っていた。

「君は昨日の……」

 律希はいると思っていなかった凪がいたことに驚き、少し距離を取る素振りを見せる。

 凪は目を輝かせて、律希の方を向いた。

「はぁ――、律希さんだ! 会えないかと思ってたのに、まさか会えるなんて! これは運命! 付き合ってください!」

「無理。帰って」

「三度目の正直ならず!」

 凪は分かりやすく肩を落として落ち込んだ。

 そんな凪を見た律希は溜息をついて、二人の横を通り過ぎて教室の中に入ろうとする。

「名前ぐらいは覚えとくかもって言ったけど。……これ以上、わたしに関わるのはやめた方がいいよ。君のためにならない」

 それだけを言い残して、律希はそのまま教室の中に入っていった。

 続いて遥人も中に入り、扉に手をかける。

「……だから言っただろ。リツに関わるなって。土足で踏み入って良い領域じゃねぇの。分かったらとっととリツのことは諦めろ」

「えっ、ちょ、遥人さ……」

 その瞬間、ピシャリと扉が閉まった。

 その場に取り残された凪は、ポケットの中のハンカチをギュッと握りしめる。そしてその場から立ち上がり、自身の教室に向かった。






 凪が自身の教室に入ると、後ろからいきなり肩を組まれた。

「おーっす! 律希センパイに振られた?」

「……うるさい、海都(かいと)

 海都と呼ばれた生徒は、ニヤニヤしながら凪に体重をかける。

 彼は櫻庭海都(さくらばかいと)

 凪の幼馴染で、小さい頃から一緒にいるためか、周りからは本当の兄弟のように扱われることが多い。



 凪は鬱陶しそうに海都の腕を振り払って、自身の席に座る。その前に海都が座った。

「お前さ、本当に冷てーな。そんなんだから振られるんじゃね?」

「お前にしかこの態度は取ってない」

「うっわ、二重人格だ」

「うっさい」

 凪は先ほどの態度と打って変わって、明らかに冷たい態度で海都に接する。

 そんな凪に対してお構いなしに、海都は凪に話し続けた。

「俺以外にはテキトーな貼り付けた笑顔振り撒いてるお前が、夢中になって追いかける律希センパイってどんなのかなーって気になるじゃん?」

「……惚れるなよ」

「人の物に手ぇ出すほど、節操ない訳じゃねえっつーの」

「オレの物でもないってば」

 ケラケラ笑っていた海都の表情が、自然と普通の顔に戻る。

「……あんな目してたお前がそうなるってことは、よっぽどすげー人なんだな。律希センパイ」

「…………当たり前だ」

 そう言って、凪はポケットのハンカチを取り出す。そして、それを大事そうに胸の前で両手で包み込む。


 ――……だって、あの人は恩人だから……。


 凪は少し昔を懐かしむような表情をする。

 そんな凪の様子を見て、海都は頬杖をついたまま残念そうな、悔しそうな目で微笑んだ。

「……俺じゃ、ダメだったんだな……」

「なんか言った?」

 凪の言葉に、海都は首を横に振る。

「いーや、何も。ただ、律希センパイはすげーんだなって思っただけ」

「何だそれ。何回同じこと言うんだよ」

「あははっ、ごめんごめん」

 海都は笑いながら、凪の頭を軽くポンポンと叩く。そしてそのまま席から立ち上がり、凪に手を振った。



 凪は叩かれた後に手を添えて、眉を顰める。

「…………なんだあいつ……」





 




 ――同時刻、律希の教室にて。

 律希が自分の席で読書をしていると、ヌッと黒い影が本にかかる。

 律希はふと見上げると、そこには何とも言えない表情をした遥人が腰に手を当てて立っていた。

「………………お前さぁ」

「お小言なら後で聞く。今いいところなんだから」

「はい、没収〜」

 そう言って、遥人は容赦なく律希の手から本を取り上げて栞をそのページに挟む。

 取り上げられた律希は少しムッとする。

「今言う必要あるの?」

「ある。なんなら今じゃないと効果は示さない」

「出たよ。よくわかんない遥人の持論」

「ちっげ――よ! お前の危機管理能力の無さが生んだ結果だろうが」

 遥人は律希の前の席に、ドガっと勢いよく座る。そして、律希を指差して言った。

「いいか。お前が思ってる以上に()()()に気をつけろよ」

()()()って……、蓮實くん?」

「名前で呼ぶなあんなやつ。……教室の前にいたのも、お前のストーキングとか言ってたんだぞ。やばい奴に決まってんだろ」

「それ、過去の遥人にブーメランだって気づいてる?」

 律希は呆れた表情で、遥人を見上げる。そんなことはお構いなしに、遥人は真顔のままだった。

「俺はいいんだよ。ちゃんとしたルートでお前と仲良くなってんだから」

「いやいや。割と強引だったくない?」

「知らねーな」

「記憶の捏造こわ〜」

 律希は聞く耳を持たない様子で、遥人から目線を外して肩をすくませる。

「……別に、遥人が心配することは起きないよ。だってわたしが信頼してるのは遥人だけだから」

「……それならいいけど。俺はもうお前の死にそうな顔は見たくないんだよ」

「大丈夫だってば〜。この格好のおかげで、必要以上に関わってくる人なんていないでしょ?」

 そう言って、律希は自分の髪の毛を一束手に取る。

 


 律希の鎖骨ぐらいまである髪の毛はウィッグで、本来はもっと短い。

 律希は好き好んでこの格好をしている訳ではなく、ただの人避けという目的でしている。



 律希の様子を見た遥人は、何とも言えない表情を浮かべる。

「……そうだな。そういう点においてはその格好は的確だろうな」

「なんか棘あるな〜。ま、いいけど。……馬鹿らしいって思ってるのは、わたしが一番……」



 その場に沈黙が流れて、遥人が律希に手を伸ばす。

「……リツ」

「大丈夫だって。きっと、元のわたしに戻れる」

「そうなっても。俺は……、お前のこと好きだからな」

「愛が重ーい」

 遥人の言葉に、律希はケラケラ笑う。そして少し俯いて呟いた。

「……でも、ありがと」

「…………いーよ。これが惚れた弱みってやつだろ」

「遥人って一途だよね」

 律希がそう言うと、遥人は思いっきり律希にデコピンする。

「……っ、いて!」

「そう思うなら、少しぐらい自覚しろよ」

「自覚してる上で、遥人のこと信頼してるよ」

 額をさすりながら微笑む律希。

 そんな律希の顔を見て、遥人は目を丸くする。そして大きなため息をつきながら肩を落とす。

「……お前には敵わねーよ」


 

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