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きみの知らないぼくのこと  作者: さか
出会いからほんの少しの近づき

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1/9

第一話


 

 ――……人には、誰にも言えない秘密がある。


 それの重大さは感じ方によって様々で、それでも自分にとっては一番大事なこと。

 自分の身を守るために、自分の秘密を隠す。


 それが人間という生き物なのだ――。







 * * *






 ――夕方の教室にて。

 一人の生徒が、席に座って頬杖をついたまま、窓の外を眺めていた。

 視線の先には、楽しそうに部活動をする男子生徒たちの姿が映っている。その時、窓の外を見ていた生徒の瞳が揺れた。

「……いいなぁ……」

 その時、教室の扉が勢いよく開いた。そこには右耳にピアスをした男子生徒が立っていた。

「おーい、リツ。帰ろうぜ」

「……うん、帰ろっか」

 "リツ"と呼ばれた生徒は席から立ち上がり、鞄を持ってピアスをした男子生徒の近くに行った。



 二人は教室から出て廊下を歩き始める。

 リツの隣を歩いていた彼は少し怪訝そうな顔をして、リツの頬に手を差し伸べる。

 その瞬間、二人が同時に歩みを止めた。

「…………また、なんかあったのか?」

「何でもないよ。窓の外見てたら部活動してる人たちを見てさ、いいなぁって思っただけ」

「そっ……か。……今日は寄り道しよーぜ、リツ!」

 そう言って、彼は太陽のような明るい笑顔でリツに笑いかけた。

 彼の笑顔にリツは瞬きし、目をキョトンとする。そして、彼の方を見て微笑んだ。

「うん、いいよ」

「よっしゃ! 俺さ、今日発売の新作飲みたくてさ! ……って、リツは甘いもの苦手だったよな」

「大丈夫だよ。わたしも遥人の好きな物、飲んでみたいな」

 リツの言葉に、遥人と呼ばれた彼は眉間に皺を寄せた。

「……お前さ、俺のこと知ってるくせにさぁ。そういうこと言うの?」

「何が? わたし何か悪いことでも……」

 リツは不安そうな表情で、遥人の顔を覗き込んだ。

 遥人は少しムッとした表情で、リツの頬を片手で掴んだ。

「……お前は俺以外にそういうこと言うなよ。絶対に!」

ふぁ、ふぁかった(わ、わかった)……?」

「わかったならいいんだよ。ほら、行くぞ」

 そう言って、遥人はスタスタと先に歩き始めた。



「あ、待って! はる……」

 リツは急いで遥人を追いかけようとした時、目の前から来た生徒とぶつかってしまう。その勢いでお互い尻餅をついてしまった。


 リツは目の前の生徒に手を差し伸べる。

「――っ、いたた……。ごめんね、大丈夫?」

「いえ、こちらこそ……、……っ!?」

 目の前の生徒は、リツを見て固まってしまった。

 リツはどこか怪我をしたのかと不安に思って、その生徒の顔を覗き込む。

「大丈夫、ですか?」

「………………き、です」

「え? なんて……」

 目の前の生徒がボソッと小さい声で呟いたことを、リツは聞き取れず、耳を近づけた。

 その時に見知らぬ生徒はバッと顔を上げて、大声を出した。

 

「――っ、好きです! 付き合ってください!」


 その声が廊下に響き渡った。

 あまりに突然のことで、リツは目を丸くした。



 そんなリツの表情を見たその生徒は顔を真っ青にして、焦った様子で両手をアワアワさせる。

「すっ、すんません! 誰かもわからない奴に言われても困りますよね! オレ、一年の蓮實凪(はすみなぎ)って言います! お名前を聞いても!?」

「えっと……、わたしは園田律希(そのだりつき)。二年生……です」

 凪の勢いに負けて、律希はつい名乗ってしまう。

 律希の名前を聞いた凪は、更に目を輝かせて律希に詰め寄った。

「律希さんって言うんだ! 名は体を表すとはこのこと!」

「えぇ、なにこの人……」

 律希は今までにないほど、グイグイと来る凪に戸惑いながら身を退く。

 あまりにも近すぎる距離感に、律希は自然と身体が強張る。



「おーい、リツ。一体何して……」

 先に歩いていった遥人が引き返してきて、律希と凪が異様なまでの近い距離に驚く。

 律希は遥人の姿を見て、安心したように肩の力を緩めた。

「あっ、遥人……」

「――っ!」

 遥人はスタスタと早足で近づき、勢いよく二人を引き剥がした。

 そして律希の肩を両手でガッシリ掴む。

「お……っまえは、すぐ変な奴に絡まれやがって……! 気をつけろって今さっき言ったよな!?」

「ごめんごめん。彼とぶつかっちゃって。変な奴ではない…………、多分……」

「明らか変な奴だろ! 見ず知らずのお前にいきなりこの距離感!」

「そ、そうだね。次は気をつけるよ」

 そう言って、律希はスカートの埃を払って立ち上がった。そして凪に手を差し伸べる。

「えっと、蓮實くん。立てる?」

 凪は、律希と遥人を交互に見比べて悲しそうに眉毛を八の字にさせた。

「……律希さん、恋人いたんすね」

「え? いや、遥人はそういうんじゃ……」

 律希は頭にハテナを浮かべる。

 そんな律希の手を取って立ち上がった凪は、ビシッと遥人を指差して言った。

「オレ、諦め悪いんで! 律希さんのこと諦めるつもりないから!」

 凪は至って真面目な表情で言っているが、当の本人たちは目を丸くしたままだった。

 そして遥人は怪訝そうな顔をして言った。

「……何か勘違いしてないか? お前」

「……え、何を?」

 律希と遥人は目を合わせ、凪に聞こえないぐらいの声でヒソヒソと話す。

「……見せた方が早い?」

「いやいやいや、お前はそれでいいのかよ。せめてそこの空き教室入れよ」

「わたしは別に良いんだけど。その方がいっか」

 律希は決心したように、凪に向き直る。

「……蓮實くん。わたし、君が思っているような人じゃないよ。とりあえずそこの空き教室行こっか」

 そう言って、律希と遥人は空き教室に入っていく。それに凪もついていった。






 夕陽の光が教室に差し込み、部屋全体がオレンジ色に輝いていた。

 教室の扉を閉めた時、律希が凪の方を向く。

「……今から見ること、驚かないでね」

「……? オレ、律希さんがどんな人でも好きでいますよ! 惚れたら一直線なんで!」

「そういう問題じゃないんだけど……。まぁいいか」

 律希はそう言って、ネクタイを緩ませ、シャツのボタンを開け始めた。

 突然の脱衣に、凪は顔を赤くして慌てる。

「ちょっ! いくらオレでもいきなり……、……っ!?」

 律希の姿を見て驚愕する凪。



 それもそのはずで、開いたシャツの隙間から見える肌は女性のものではなく、男性特有のゴツゴツした肌。

 適度についた腹筋、引き締まった腰回り。よく見れば首元には喉仏が動いているのがわかる。

 言葉を失う凪を見て、律希は自重気味に微笑んだ。

「……おれ、実は男なんだ。君が思っていた人じゃなかったでしょ?」

 律希がそう言うと、凪はフラフラと一歩ずつ後ずさったが、勢いよく顔を上げて、嬉々とした表情で言う。

「そういうことならオレ、まだ勝機ありますよね!? 律希さんが男だろうが女だろうが関係ないです! オレは律希さんの顔に惚れたんで!」

「あ、そう……なんだ」

 律希は制服を直しながら、凪の言葉に驚いて目を丸くする。

 凪はそんな律希にお構いなしに、手を差し出した。

「……ってことで、オレにはあまり関係ない話なんで、付き合ってくれますか?」

 そう言って、凪は笑った。



 一瞬の間が空き、律希は真顔で手のひらを凪に見せるように拒否を示した。

「え、ごめん。普通に無理」

「辛辣っ!!」

 あまりにもズバッと切り捨てられた言葉に、凪は胸を押さえて悔しそうにする。

 感情がジェットコースターのように、あちこちにいく凪を見ていた律希は自然と頬が緩む。

「……面白いね、君」

「えっ、面白いって? それなら付き合っ……」

「無理」

「秒でフラれた!!」

 律希はクスクス笑いながら、凪に背中を向けた。そして振り向いて、口元に人差し指を当てた。

「わたしのことを秘密にしてくれるなら、名前ぐらいは覚えとくかもね。……じゃあね、蓮實くん」

 そう言って、律希は手を振りながら教室の扉を開けて出ていった。

 律希の後を追いかけるように遥人も教室の外に出ようとするが、険しい顔をして凪の方を振り返る。

「……お前、リツのことを言いふらしなんかしてみろ。俺が許さねぇからな」

 それだけを言って、遥人は律希についていった。






 正面玄関で靴を履き替える時、遥人はイライラしながら靴を勢いよく落とす。

 そんな遥人の様子を見た律希は「どうしたの?」と聞く。

「どうした……じゃねーよ! 変な奴に関わるなってあれほど言っただろ! しかもリツが男と知ってても……」

「それは遥人もじゃ……」

「俺はあんな軽薄じゃねーの。ちゃんとお前のこと大事に思ってんだから」

「なるほど」

 あまり危機感を感じていない律希に、苛立ちを覚えた遥人は大きくため息をつく。

「しかもいきなり女装のこと言うとか……。本当にお前って変なとこ思い切りいいよな」

「女装がバレることは重要じゃないよ。女装している理由がバレなければいいから」

 そう言いながら律希は、なんでもない顔で爪先を地面でトントンと叩く。

 遥人は怪訝そうな顔で律希を見つめ、その視線に気づいた律希は眉を下げて微笑む。

「……大丈夫だよ。遥人が思ってるほど、彼に関わるつもりないから。遥人も分かってるでしょ?」

「そりゃあ、そうだけど。……あいつは……、……いや、なんでもない」

 遥人は腑に落ちない表情を見せたが、すぐに切り替えてニッコリ笑った。

 そして律希の手を握る。

「ほら! 早く行かねーと時間なくなる!」

「うん、そうだね」

 二人はそのまま校門から出て行った。






 その様子を、廊下の窓から眺めていた凪。

「……いいなぁ。オレが先に出会ってたら、ああなれてたのかな……」

 凪は胸に手を置いて、速くなる拍動を感じた。

 律希のことを考えるたびに、速くなる鼓動に自然と頬が緩む。

「……やっと、会えた。諦めないで良かった」

 凪はポケットからハンカチを取り出して、それを大事そうに抱えた。


 

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