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きみの知らないぼくのこと  作者: さか
気づき始めるそれぞれの想い

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17/24

第十七話



 ――凪、海都の教室にて。

 律希との話を終えて教室に戻った海都は、扉を開けて教室に入る。中には凪ただ一人だけが、教卓にもたれていた。

 扉の音に反応した凪が、海都の方を見る。

「……あ、終わった?」

 何でもない顔で笑う凪。

「――っ!」

 そんな凪を見た海都は、先ほどの律希とのやり取りが記憶によぎった。





 

 ――……。


 

『言わなくていい。無理して言う必要はないよ。……自分の言葉は時に自分を刺すことになるから』


 

 ……――。


 



 

 海都は俯き、強く拳を握った。



 ――……俺は……、これからも凪への気持ちを抑えて……、いくのか……?



 何も言わずに立ち尽くしている海都に違和感を覚えた凪は、キョトンとしている。

「……? 海都?」

 凪は海都の名前を呼び、海都の顔を覗き込む。その時の凪の表情は、心配そうに海都を見つめていた。

 海都はいきなり視界に映った凪に驚き、頬を赤くさせて身をのけぞった。

「――っ、……な、凪……」

「え、うん。何? てか、本当にどうした?」

 何も知らない凪は、動揺の色を見せて海都を見ている。

「もしかして、熱とか?」

 そう言って、凪は海都の額に手を伸ばして触れる。

 物理的に距離が近くなったことに、海都の鼓動が速くなり、耳まで赤く染まっていく。



 ――……俺は……、俺が凪のことを……、幸せに……。



 その場に沈黙が流れて、お互いの息づかいだけが聞こえる。そして、それを掻き消すかのように、外の風が木々を揺らす音が教室内に響き渡った。

 凪は海都の額から手を離して、安心したように微笑む。

「……熱はないんだな。それなら良かったよ」

「だから、大丈夫って言っただろ」

 海都は自身の想いを隠すように、無理に笑顔を作った。

 そんな海都の変化に気づいた凪は、息を呑み、目を見開く。そして、徐に海都の頭を撫で始めた。

 突然、頭を撫でられた海都は口をポカーンと開けたまま凪を見つめた。

「………………なんで?」

「なんとなく。オレの前でもそんな顔するんだな〜と思って」

 そんなことを言いながら、頭を撫でる凪は小さい子どもをあやすように優しい眼差しをしていた。

「……オレの前でも無理する必要ねーから。いつも海都がオレにしてくれてる、だろ?」

 そう言って、凪は何気なくニッコリと笑った。

「――っ!」



 ――……あぁ、お前は本当に……。

 


 海都は何かを決心したように、自身の頭にある凪の手を掴む。

「………………ごめん」

 海都は凪に聞こえないぐらいの声で、謝罪の言葉を呟いた。そして、そのまま自身の口元にまで持っていき、凪の手のひらに口付けをした。

「…………へ?」

 凪は何が起きたか分からず、フリーズする。

 そんな凪を見据えるように、海都はジッと凪の目を見つめた。

 海都の視線が普段よりも熱が帯びていることになんとなく気づいた凪は、頬を染めて目を見開く。

「な、……か、海都……?」

 海都は無言のまま、掴んでいた凪の手を引っ張り、凪の身体を引き寄せる。そのまま凪の身体を抱き締めて、耳元で呟いた。


「………………好きだ」


「…………え? 今……、え……?」

 海都は凪の身体を自身の身体から離して、眉毛を下げて微笑む。

「……悪ぃ。こんなこと、一生言うつもりなんてなかった。お前が律希センパイのことを好きなのを知ってても、止められなかった」

「…………えと、海都……?」

 海都は愛おしそうに凪を見つめる。そのまま凪の頬を撫でて、そのまま髪の毛を撫でた。

「……お前が律希センパイを好きなように、俺もお前のことが好きなんだ」



 ざぁ、と外で風が吹く音が聞こえる。

 開いた窓から風が入ってきて、二人の頬を優しく撫でる。



 凪はしっかりと海都を見つめ、言葉を探すように口を震わせている。そして、ゆっくりと口を開いた。

「…………ごめん。私は、律希さんが……」

「分かってるよ。だからこれは俺の自己満。……言っただろ。"一生言うつもりなんてなかった"って……」

 そう言って、海都は凪の髪の毛から自身の手を離して、強く拳を握った。

「……俺の気持ちを伝えたら絶対に困らせることも、そうやって自分のことのように悲しむことも、知ってた。……ずっと、見てきたから」

 海都の表情は、自分の気持ちと凪の気持ちに板挟みゆえに苦しそうな笑顔を浮かべていた。

 凪はそんな海都になんと言えばいいのか分からず、目を泳がせる。

「……か、海都……。その……」

「いいよ、無理すんなって。俺が最初から負けてるのは分かってたよ。……分かってる上で、俺がお前を幸せにしたいって思ってた」

 海都はジッと凪を見据える。

「でも、お前が想ってるのは俺じゃない。……それでも、止められなかった。…………だから、ごめん……」

 そう言って、海都は悲しそうに微笑んだ。そして、凪の横を通り過ぎて荷物を持った。

「今日は一緒に帰れないだろ? 先帰ってるな。……気をつけて帰れよ」

 海都は凪の頭を優しくポンと撫でて、教室から出て扉を閉める。







 廊下に出た海都は、少し歩を進めた先の壁にもたれながらズルズルと下にしゃがんだ。

 そして、俯いたまま大きなため息をついた。

「……はぁ――……。言っちまった……。何で言ったんだよ、俺。……めちゃくちゃ困ってたじゃん……」

 海都は両手で顔を覆って、「あぁあぁぁ〜……」と唸り声を上げる。


 そこでふと、凪との会話を思い出す。

「……何が"一生言うつもりなかった"だよ……。言っちまったら何の意味もねぇだろ……」

 海都は己の想いを告白した後悔に苛まれ、ズキズキと頭が痛む。


 海都は小さくため息をつきながら立ち上がる。

 そして、ポケットの中から携帯を取り出して写真フォルダを開く。

「……ははっ、……俺ってば重いなぁ、本当に……」

 凪との写真や、昔の凪の写真など、海都の携帯には凪の写真がたくさん保存されている。

 しかもそれは、誰にも見られないようにロックがかけられており、凪本人も知らない。


 その中にある、凪と初めて撮った写真を見返す。

 その時の海都は凪のことを見下しており、表情が険しく太々しいものだった。

「……凪は、こんな俺でも仲良くしようとしてくれてた。それに比べて俺は……」



 ――……自分の気持ちを押し付けて、凪を困らせて……。



 海都は携帯を額に当てて、大きなため息をつく。

「……俺、最低だな……」

 自嘲するように笑みを浮かべて、海都は携帯をしまった。

 そして、そのまま歩き始める。


 


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