表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみの知らないぼくのこと  作者: さか
気づき始めるそれぞれの想い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/23

第十五話



 ――屋上にて。

 律希が躊躇なく、屋上への入口の扉を開けた。

 あまりにも躊躇がなかったため、海都は少し驚いた表情を見せる。

「……普段から使ってるんですか?」

「うん。だって開いてるからね。……それに……」

 律希は前を歩いて、屋上のベンチに腰掛けた。その時に風が優しく吹いて、律希の髪の毛を靡かせる。

「外にいる方が、わたしは好きだから」

「……まぁ、中よりは空気が通ってていいかもですね」

 そう言って、海都は後ろ手で屋上の扉を閉める。




 海都が律希の前に立ち、ジッと律希を見つめる。そして、ゆっくりと口を開いた。

「……話、いいですか」

「もちろん。何かな?」

「分かってますよね。……凪のことです」


 その瞬間、空気が一瞬ピリついた。


 律希も表情を変えずに微笑んだままだが、眉が少しピクリと動く。

 海都は目を離さず、律希をしっかりと見据えていた。

「極端に凪のことを避けていた貴方が、なぜ今更関係を築こうと思ったんですか?」

 海都の言葉を受け止めた律希は、ふぅと息を吐く。

「……蓮實さんなら、信じてもいいと思えたから。それだけじゃ、理由にならない?」

 そう言って首を傾げる律希。

 海都は眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな表情を見せた。

「…………なりません。俺が納得できる理由を聞かせてください」

「難しいな。逆に聞くけど、どうして蓮實さんのことをこんなに気にかけるの?」

「千蔭さんと似たようなもんですよ。……好きなんです、凪のこと」

 そう言い切る海都の表情は、真剣そのもので、いつものおちゃらけた雰囲気はなかった。

 海都の表情を見た律希は、目を丸くして驚いた表情を見せる。

「……そう。……、……好き……か……」

 小さく呟いた律希は、少しだけ視線を落とした。

 そして、()()という言葉を反芻するように、ゆっくりと息を吐く。



 律希がゆっくりと息を吐いたように、屋上にもゆっくりと風が吹く。

 律希は青い空を見上げて、微笑んだ。

「蓮實さんって、綺麗だよね」

 その言葉を聞いて、海都の表情が徐々に険しくなる。

「見た目の話ですか?」

「あ――、ごめん。言葉が足りなかった。……いや、否定はしないけど、もちろんそういうことじゃない。心の話」

 海都は黙ったまま、律希の話を聞く。

「……昔の蓮實さんを見た時、わたしと似てるなって思ったんだ。だから助けた。……この話は知ってる?」

「もちろん知ってますよ」

「……記憶には残ってたよ。ただ、男装してたし雰囲気も違ったから分からなかったけど……」

 律希は自身の髪の毛を触りながら、気まずそうに笑った。

「……蓮實さんに何があったのかは知らない。でも、きっと隠したいことがあるんだろうなってのは分かってた。実際、わたしも似たようなもんだし」

 そう言いながら、律希は髪の毛を一つにまとめてネクタイを緩めた。そこで顕になる首元には、女性にはない喉仏が動いていた。


 

 それを見た海都は、腑に落ちたように息を吐く。

「……貴方も、秘密があるんですね……」

「そうだよ。わたし……、……いや、おれも隠したいことがあるから隠してる。……だから認めるよ。蓮實さんのことを避けてた」

 律希は静かに認めた。その時、風が強く吹き、ガサガサと葉っぱが転がる音がする。

 海都は息を呑む。

「おれのことを知られたくないから、おれが人と関わりたくないから避けてた。……それに、おれは蓮實さんみたいに人を好きになれない」

「それなら尚更、思わせ振りな態度は良くないと思います。凪が傷つくのは見たくない」

 海都は真っ直ぐ律希を見つめる。

「……分かってる。でも……」

 律希は海都の方に顔を向け、優しく微笑む。

「蓮實さんとはキチンと向き合うべきだと思った。こんなおれにも真っ直ぐに気持ちを伝えてくれた。だから信じようって思えたんだよ。…………それでも、理由にならない?」

 律希が申し訳なさそうに眉毛を下げて、首を傾げた。


 一瞬、沈黙が流れる。


 その中で、海都が口を開いた。

「……貴方なりに、凪と関わろうとしているのは分かりました。でも……」

 そう言って、海都は律希に近づいて、律希の座っているベンチの背もたれに片手をかける。

「凪を傷つけたら許しませんから」

「胸に刻んでおく」

 海都はしばらく律希を見据えていたが、息を吐いて律希から離れる。そして、腰に手を当てた。

「……とりあえず、貴方の言葉を聞けてよかったです。遊び半分で関わってる訳じゃないって」

 海都の言葉を聞いて、律希は「えぇ〜」と言いながら苦笑した。

「遊び半分? そんな風に見えてた?」

「見えますよ。今まで避けてたのに、いきなり関わり出すから」

「まぁ、そうだよね」

 律希はネクタイを直し、一つにまとめていた髪の毛を下ろした。

「それに、凪は貴方のことを信じてるんです。……俺が疑わないと傷つくかもしれないでしょ」

 そう言って、海都は拳を強く握る。

 そんな海都の言動を見た律希は、少し目を伏せて微笑んだ。

「…………優しいね」

「優しいとかじゃないです」

 海都はキッパリと言い切る。

 しかし、律希は小さく首を振って否定を示す。

「……そういうところ。櫻庭くんが蓮實さんのために怒ったり泣いたり出来るから、蓮實さんは自分らしくいられるんだよ」

「そんなこと……」

「櫻庭くんは当たり前にやってることだと思うけど、意外といないんだよ。人のために動ける人って」

 そう言って、律希は胸の前で両手をギュッと強く握り締めた。

 


 その時に律希の手を撫でるように、屋上に優しい風が吹き抜ける。

 すると、律希がポツリと呟いた。

「……おれさ、人を好きになるってよく分からなくて。昔から人と深く関わってこなかったから、そういう感情を知らない」

 律希の突然の吐露に、海都は驚きながらも静かに耳を傾ける。

「だから蓮實さんを見てると、不思議に思えてくる。……どうしてそんなに真っ直ぐ人のことを好きになれるんだろうって……」

「凪だって、ずっとそうじゃないですよ。……きっと、貴方だから真っ直ぐに"好き"って言えるんだと思います」

「おれのこと買い被り過ぎじゃない?」

「俺もそう思います」

 海都がバッサリと言い切り、律希は「酷いなぁ」とケラケラと笑う。

 そして、律希はスッと表情を変えて海都の目を見つめた。

「……だから、今は蓮實さんの気持ちを受け止めてみようと思う。それが彼女に真摯に向き合う方法だと思ったから」

 そう言って、律希はベンチから立ち上がる。

 

 そんな律希の様子を見ていた海都は、ため息をついてジッと律希を見据えた。

「……分かりました。でも、一つだけ約束してください」

「何かな」

「凪の気持ちに無理に応えようとしないでください。凪が可哀想だから、凪に同情したからとかで、答えを出さないでください」

 海都の言葉に、律希は真剣な表情で頷く。

「もちろん。……彼女の気持ちを弄ぶようなことはしないよ。絶対に」

「…………それなら、いいです。……この話はこれで終わりですね。戻りましょうか」

 海都は踵を返して、屋上の入口に向かう。

 海都の背中を留めるように、律希が「ねぇ」と声をかける。

「何ですか?」

「……ありがとう。おれの話を聞いてくれて」

「――っ、何言ってるんですか。俺はただ、凪のために……」

 海都は予想していなかったお礼に目線が泳ぎ、しどろもどろになる。

 そんな海都を見た律希は、小さく笑った。

「好きな人のために、好きな人の想い人の話を聞こうとはしないよ。普通の人は」

「俺が普通じゃないって言ってます?」

「遥人もだけど、君も大概重いと思うけど」

「自覚ありますよ」

「遥人と同じ思考になるのはやめた方がいいよ、切実に」

「千蔭さんと一緒は嫌だなぁ」

 そんなことを話しながら、二人は屋上を後にした。


 屋上には夏の夕暮れの光が、温かく照らしていた。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ