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きみの知らないぼくのこと  作者: さか
気づき始めるそれぞれの想い

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第十四話



 ――屋上にて。

 律希が先に屋上にあるベンチに座っていると、屋上の入口からドタバタと凄い勢いで足音が近づいてくる。

 律希が扉の方を見ると、バンッ!と勢いよく扉が開いた。

「……ははっ、そんな急いで来なくてもいいのに」

 そこには肩で大きく息をしている凪が立っていた。

 凪は頬を紅潮させ、嬉しそうな表情を浮かべている。

「だ、だって……。急いで行かないと時間が無くなっちゃうと思って……」

 そう言って、凪は扉を閉めて律希の近くに来る。


 凪がどこに座ろうかと決めかねていると、律希は自身の隣を手で叩いた。

「何してるの? 一緒に食べるんでしょ?」

「うっ……、そうですけど……。と、隣に座っても……?」

「いいって言ってるじゃん」

 律希はクスクス笑いながら、凪が座りやすいように少し横にズレた。

 凪はゆっくりと律希の隣に腰掛けた。

「一緒にご飯はもはや付き合ってますよね。好きです、本当に付き合いましょ」

「うーん、マイナス五点」

「え」

「告白が軽すぎるし、一緒にご飯ぐらいで付き合ってはないでしょ。軽率すぎるのでマイナス五点」

「辛口すぎません?」

 凪は頬を膨らませて、律希の顔を覗き込んだ。

 そんな凪の顔をジーッと見ていた律希は、優しく微笑んだ。

「……辛口だよ。だって()()を惚れさせてくれるんでしょ?」

「そ、……そういう……ことになりますね……」

「なら辛口になるよ。だって人と関わるのが嫌だったおれをその気にさせるなら」

 そう言いながらも、律希はニヤニヤしながら凪を見ていた。



 ――……もうとっくに……、なんてね……。



 凪は律希の一挙一動に反応して、顔を赤くしたり動揺したりと忙しなく表情を変えている。

「…………頑張ります。律希さんから"付き合ってください"って言ってもらえるように」

「うん。頑張ってね」

 そう言って、律希は凪の頭を優しくポンポンと撫で始める。

「すぐそういうことをする! 甘やかすの禁止!」

 凪は律希の手を掴んで自身の頭から離す。

 その隙を律希は見逃すはずもなく、掴まれた凪の手を逆に自身の手中に収めた。そして、してやったりといった顔でニヤリと笑う律希。

「はい、捕まえた。これじゃおれが卒業までに惚れさすのは無理かな」

「こ……っ、の、人たらし……!」

「酷いなー」

 微塵もそんなことを思っていない律希は、「ははは〜」と軽く笑いながら弁当箱の蓋を開ける。

「早く食べよ。時間がなくなるよ」

「……誰のせいだと……」

 凪は悔しそうに口をムッとさせ、弁当箱の蓋を開けて両手を合わせる。

 律希も同じように手を合わせてから、二人は弁当を食べ始めた。







 談笑しながら食べ進め、律希が先に食べ終えた。

 律希は弁当箱の蓋を閉めて、隣の凪をチラリと見る。

 その時の凪は、最後の卵焼きを食べようとしているところだった。

 その様子をジーッと見つめる律希の視線に気づいた凪は、卵焼きを食べた後、ジトッとした目で律希を見る。

「…………何ですか」

「……あ、ごめん。やっぱり女の子なんだなって思っただけ」

「え、この期に及んで男だと思ってました?」

「違う違う。改めて感じたんだよ」

 律希の言葉を聞いても、腑に落ちない凪は首を傾げた。

 そんな凪に、律希はニヤニヤしながら凪の顔を覗き込んで言った。

「口が小さいなーと思って」

「――っ!? な、なに、なに言って……!」

 凪が頬を赤くしながら口をパクパクさせる。そして、プイッとそっぽを向いた。

「律希さんって意地悪です」

「……意地悪だと、嫌いになる?」

 そう言って、律希は落ち込んだそぶりではなく、確信犯のようにニヤリとした表情をしていた。

 凪はグッと息を呑み、チラリと律希の方を向く。

「………………なりません。そんな律希さんも、好きです」

「知ってる。でも付き合えない」

「振るぐらいなら言わせないでください」

 凪は身体を律希の方に向けて、頬を膨らませた。

 

 お互いに顔を見合って、そのやり取りがおかしかったのか、思わず吹き出した。



 ――……キーンコーンカーンコーン……。



 そこで、昼休みの終わりを告げる予鈴がなった。

 楽しい時間はあっという間。二人は一気に現実に引き戻された。

「予鈴だ。そろそろ帰らないとね」

 律希が弁当箱を持って立ち上がる。その時に制服に付いていた埃を軽く払った。

 そして凪の方を振り返って言う。

「久しぶりに遥人以外の人と食べたけど、蓮實さんだったからかな。楽しかったよ」

 律希の言葉に凪は少し目を見開き、優しく微笑んだ。

「……それならよかったです。また、誘ってもいいですか?」

「いいよ。遥人いたらごめんね」

「それはちょっと……」

 凪はあからさまに嫌そうに、唇を尖らせた。

 そんな凪を見た律希は、「あははっ!」と笑う。

「遥人、可哀想〜」

「あの人の異様なセコム具合のせいです」

「それはそうだね。……じゃあ、またね。蓮實さん」

 律希は微笑みながら、凪に手を振る。

「はい! ありがとうございました!」

 凪はそれはとても嬉しそうににこやかに、律希に手を振り返した。

 律希はそのまま踵を返して、屋上から出ていった。





 凪は大きく息を吐いて、その場にしゃがむ。そして両手で顔を覆った。

「き、緊張した――……」



 ――……"またね"って言ってた。()()、誘っていいんだ……。



 凪は緩み切った頬を引っ張って平常心を取り戻し、いつも通りのクールな男子生徒を演じ始める。

 それでも少し上がった口角は戻らないようだった。









 * * *









 ――放課後。凪、海都の教室にて。

 凪が帰る支度をしていた時、前の席にいた海都が振り返って両手を顔の前で合わした。

 そして、申し訳なさそうに眉毛を下げる。

「ごめん! 今日ちょっと部活の集まりがあって……。先帰っとくか?」

「いやいいよ。少しだろ? 待っとくよ」

「そうか? 終わったら連絡するな」

 海都はそう言って、ニコッと笑って教室から出ていった。

 いつもと少し雰囲気の違う海都に、違和感を覚えた凪は首を傾げる。

「……? 何か、変?」

 凪はそこから特に気に留めることもなく、自席で読書をして待つことにした。







 教室から出た海都は部室ではなく、二年生の教室に向かって歩いていた。

 その表情は、凪には見せることない険しいもので、普段の海都とは違う雰囲気である。

 海都はグッと下唇を噛む。



 ――……確認しないと。どういうつもりで律希センパイは凪と関係を持っているのか……。



「……返答次第では、凪に嫌われようとも関係を絶ってもらわねぇとな」

 そして律希の教室の前に辿り着いた海都だったが、律希だけを呼び出すにはどうしようかと考える。

「…………ま、千蔭さんだし。楽勝でいけんだろ」

 海都は躊躇なく、ガラリと教室の扉を開ける。






 いきなり扉が開き、そこに下級生が立っていることにクラスメイトたちはどよめき出す。

「え、なにあの子」

「あの上履きの色って一年だろ」

「でもさ、超カッコよくない?」

 そんなクラスメイトたちの雑音が聞こえてくるが、海都は知らん振りをする。

 そして彼の視線は、律希にのみ注がれた。

 


 突然の来訪者で律希も目を丸くして、海都の方を見ていたためか、お互いに目が合う。

 律希は少し肩をビクリとさせた。



 ――……おれに用事……か? ……いや当たり前か。幼馴染の蓮實さんといきなり連絡取ってるからか……。



 律希は席から立ち上がって海都に近づいた。

 律希自身が近づいてくるとは予想していなかったのか、海都は目を見開いて驚いた表情を見せる。

「……まさか、貴方から来てくれるとは思いませんでした」

「なんとなくだよ。わたしに用事があるのかなって思ったから。……違う?」

「合ってます。今からお時間いただいても?」

「大丈夫だよ。……君とも話さないといけないだろうなって思ってたから」

 そう言って、律希が海都と教室から出ようとした瞬間、律希の腕を遥人が掴んだ。

 律希が振り返ると、遥人はあからさまに不機嫌に眉を顰めていた。

「…………行くなよ。お前がこれ以上関わる必要ねーだろ」

 そう言う遥人の腕を、律希はサッと振り解く。そして、遥人の肩に優しく手を置いた。

「大丈夫。これはわたしの意思だから。……行こう、櫻庭くん」

 そう言って、律希は海都の横を通って教室から出ていった。

 後を追うように海都も行こうとした時、遥人が海都に「おい」と声を掛けた。

「何ですか? 今から大事な話をしなきゃなんですけど」

「……リツに余計なこと言ったら許さねーぞ」

「ほんっと、愛が重いですね。そのうち嫌われますよ」

「重々自覚してるよ、そんなこと」

 そう言葉にする遥人は、少し苦しそうな表情を浮かべていた。

 海都からしたら、普段は自信満々で毒舌で、バッサリと言い切る人なのだ。そんな普段の姿とはまるで違う遥人に、海都は少し戸惑いを感じた。

「……大丈夫です。律希センパイを傷つけることはしませんから」

「当たり前だ。そんなことしたら俺が許さねぇ」

「はいはい。じゃ、律希センパイ借りまーす」

 海都はヒラヒラと遥人に手を振る。そして、律希の後ろをついて歩いていった。



 そんな二人を見送る遥人は、拳を強く握り締めていた。


 


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