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きみの知らないぼくのこと  作者: さか
出会い、そしてほんの少しの近づき

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11/21

第十一話



 ――現在、空き教室にて。

 

「……と、こんな感じで今のおれって訳。いきなり言われてもって感じだよね」

「…………いえ。話してくれて、ありがとうございます」

 凪は律希の目を見つめる。

その律希の表情は、昔を思い出して少し心を傷めているように見えた。


律希の感情を読み取ったのか、凪も同じように悲しそうな表情を浮かべる。

 そんな凪の頭を、律希はポンポンと優しく撫でた。

「蓮實さんがそんな顔しなくていいんだよ。両親のことは嫌いだけど、弟に恨みを抱いたことはないから」

「……そうだとしても……」

 そう言って、凪が目を伏せて眉毛を八の字にさせた。

 律希は凪の頬を軽くつねる。

「いててててて……!」

「蓮實さんが気にしなくていいの。おれが話したくて話したんだから」

 律希は話しながら、窓際まで歩く。律希が窓を開けると、夕方の涼しい風が教室に入ってくる。

 それと同時に、律希の髪の毛が夕陽で光り、風で靡く。

 そして、律希は凪の方を振り返った。

「……聞いてくれてありがとう。なんとなく蓮實さんきは知っといて欲しかったから」

 そう言って微笑む律希に、凪の胸は大きく高鳴った。



 ――……この人、私が好きなこと忘れてない……?



 凪はゴクリと生唾を飲み、意を決して律希に近づく。そして、力強い目で見上げた。

「りっ、律希さん! 好きです! 付き合ってください!!」

 律希は瞬きをした後、ニッコリと微笑む。

「ごめん、無理」

「この流れで!?」

 凪は心底驚いた表情を見せた。

 そんな凪を見て、律希はくつくつと喉で笑う。

「おれのこと、ちゃんと知らないのに付き合えないでしょ。……おれも君のことよく知らないし」

 そう言って、律希は凪から顔を逸らす。

 その仕草から、もしかしたら勝機があるのではと思った凪は目を輝かせた。

「じゃ、じゃあ! これからいっぱい会いに行きます! 私のことをもっと知ってもらうために!!」

 そう言う凪を見て、律希は肩をすくませた。

「……好きにしたら? ただ、遥人が止めるだろうね」

「うっ……、そうだった。律希さんにはセコムが……」

 凪は悔しそうに握り拳を作る。

 すると律希はポケットから携帯を取り出して、凪に画面を見せた。

「連絡先、交換しとく? 会いたい時に連絡してくれたら、時間作ってあげるよ」

「え、いいんですか……!?」

 凪は目を見開いて、驚いた表情を見せる。

 あまりにも大きなリアクションの凪に、律希は少し気恥ずかしそうにする。

「……蓮實さんが来れなかったら、お互い何も知れないし……」

 律希は口をムッとさせ、頬を指でかく。

 


 律希の連絡先を登録させた凪は、おずおずと律希を見上げる。

「……早速連絡しても……?」

 そんな凪の様子に、律希は少し目を見開き、フッと微笑んだ。

「……いいよ」

 律希がそう言うと、凪は分かりやすく頬を紅潮させて嬉しそうにする。そして、律希の連絡先が入った携帯を大事そうに握り締めた。

 そんな凪を見て、律希は小さい声で呟く。

「……君は、やっぱり面白いね」

「何か言いましたか?」

 律希は小さく首を振る。

「……ううん、何も。帰ろうか。……迷惑じゃなければ送ってくよ」

 律希の言葉に、凪は一瞬固まる。

「……………………え!? お、送る!?」

「あ、もちろんウィッグ付けるよ」

 そう言って、律希は慣れた手つきでウィッグを被る。

 余裕そうな律希とは裏腹に、凪は明らかな動揺を見せた。両手をパタパタとさせたり、首を横に振ったりと挙動不審だった。

「む、無理です……! いきなり二人で帰るなんて……! 付き合ってないのに!」

「知り合いなら普通じゃない? この時間だと部活も終わってないし、櫻庭くんも遥人もいないよ」

「ま、待ちます! 海都のこと待ちますから!」

 そう言って、凪は律希から距離を取る。

 凪の挙動に律希は眉を下げて、分かりやすく落ち込んだ表情を見せた。

「…………おれのこと、好きなのに? 他の男と帰るんだ?」

「どの口が言ってんですか。この人たらし……!」

「で、帰るの? 櫻庭くんと」

 律希は凪に詰め寄る。

 グッと言葉を詰まらせた凪は、観念したかのように大きくため息をついた。

「……後で後悔しても知りませんからね」

「しないよ」

 律希は荷物を持って空き教室の扉を開ける。そして、凪の方を振り返って笑う。

「君のことは知りたいって思えたから」

 そんな律希に、凪は顔を赤くしてそっぽを向く。

「……無意識でそれって、やばいですよ……」

「身近にやばい人いるから標準値がバグってるのかもね」

 そう言って、律希はケラケラと他人事のように笑っている。

「こんな時に遥人さんの弊害が……!」

「遥人の話はおしまーい。早く帰ろ」

 律希は颯爽と空き教室から出ていく。その後ろを凪も慌てて追いつく。





 凪は隣に並んでいいのか戸惑い、律希の斜め後ろをひょこひょこと歩いていた。

 すると、律希が振り返って口をムッとさせる。

「…………何それ」

「え、一緒に歩いてるだけですが……?」

「これのどこが一緒だよ。隣を歩かなきゃ意味ないでしょ」

 そう言って、律希は凪の隣に合わせてペースを落とした。

 物理的な距離が近づいたことで、凪は「ひょえっ……!」などと、変な声を上げた。

 そんな凪を見て、思わず吹き出す律希。

「……ぷっ、あはは……! やっぱり蓮實さんって面白いね。……昔も今も」

 律希は微笑んで、凪の頭に自身の手を乗せた。

 突然の出来事に凪は、口をポカンと開けたまま惚けている。

「……ふふ。演じてる時よりも、今の君の方が好きだよ。人間味があって」

 律希はクスクス笑いながら、昇降口まで向かった。


 凪は律希の言葉、行動全てを脳内で処理し切ると、身体中の熱が沸騰しそうなぐらい、顔を真っ赤にさせた。

「……――っ!! ばっ、……馬鹿っ!!!」

 廊下には凪の叫び声が響き渡った。









 * * *









 ――グラウンドにて。

 遥人は水分補給のため、ベンチに置いてあるスクイズボトルを手に取り、ゴクゴクと飲む。

 飲み終わった後に大きく息を吐いて、ベンチにスクイズボトルを置く。



 そこでふと、グラウンド外の正面玄関のメインストリートに目線が向く。

 そこには並んで仲睦まじそうに歩く、律希と凪の姿があった。

 遥人は目を見開いて、唇を震わせる。

「――っ、……な、……なん……で……」



 ――……あれほどあいつに気をつけろって言ったのに……。……また、リツのお人好しか……?



 遥人がボーッとしているのを、後ろから見ていた海都が首を傾げる。

「……何してんだ、あの人」

 海都は遥人の視線の先を見ると、律希と凪が並んで歩いているのがあった。

 チラリと遥人に視線を移して、肩をすくませた。

「…………どいつもこいつも、愛が重い奴ばっか。ま、俺もか……」

 海都は遥人に近づいて、遥人の背中を叩く。

「なーにしてるんですか? サボり?」

「あ゙ぁ゙? お前じゃないんだから、んな訳ねぇだろ」

「相変わらず律希さん以外には口悪すぎ。……で、本当に何してるんですか」

 海都はそう言いながら、遥人と同じ場所に目線を向ける。

()()、見ちゃったんだ。良かったじゃないですか。律希さんにもあんた以外に仲良くできる人が出来て」

 海都の言葉に、遥人は勢いよく海都の方に向く。その時の遥人の表情は、誰が見ても不機嫌だった。

 遥人の様子に、海都は目を丸くして驚く。

「俺をそんな目で見ても、事実は変わんないですよ。……凪が近づくの、そんなに嫌ですか」

「嫌とかじゃねーよ。……裏切られて、またリツが死んだ魚みてーな目になるのが嫌なだけだ」

 そう言って、遥人はフイッとそっぽを向く。

「凪は、そんなことしませんよ。……あいつだって……」

「……だって、って何だよ」

「いや何も。俺の独り言でーす」

 海都は頭の後ろで手を組んで、遥人に背を向けて歩き出した。

「ちょ、海都……! なんなんだよ、あいつ」

 遥人は訳が分からず、その場に立ち尽くす。そしてチラリと視線を、メインストリートに向けた。

 そこにはもう二人の姿はなかった。

「……リツ……」

 遥人は不安気にその方向だけを見続けていた。


 


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