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異世界伝承記  作者: メロンソーダ
連邦編
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大貴族

最上位の浄化能力―かつて神によって与えられ、そしてはく奪された聖なる能力。瘴気と共に存在するこの世界では必要不可欠な能力だ。瘴気の核は神に選ばれたものにしか対処出来ない。この世界の産まれでは二度と手に入らない能力だったはずなのに。


「どうして…」


人気のない鉱山へと続く山道でユキは頭を抱えていた。まだ日も登っていない時間帯に、目が覚めてしまったユキはこっそりホテルを抜け出して浄化魔法の確認に来ていた。


昨日、命の危機に反応したのかユキは最上位の浄化能力に目覚め瘴気の核を浄化した。核になりたての瘴気の塊ではあったが、それでも浄化できるのは本来平行世界より召喚された聖女だけである。


「…気のせいと思いたかったけど、何回魔法使っても真由とお母さんと同じ力になってる…」


同じ浄化魔法と言えど、聖女の力がある場合と普通とでは違うものがある。魔法に詳しくない者はわからないが、魔法使いのユキにははっきりと違いが判り、そして自分の浄化魔法が変化していることを確信している。


「ぶっちゃけよ、聖女の力と普通の浄化魔法、何が違うんだ?」


後ろで護衛している黒い影―カグヤが尋ねてくる。ユキはんーと言い伝え方を考慮し始めた。


「例えるなら水鉄砲かな。普通の人が水鉄砲使ってもあんまり威力ないでしょ?聖女の力になると水鉄砲の射程も威力も倍以上になるの。それが神聖力、聖女の力が上乗せされたって感じかな。まぁ魔法全体そうなるんだけどね」


「あー威力倍増したって感じか。それなら瘴気の核だって浄化できるよなぁ…」


カグヤが納得したように頷く。ユキは杖をもう一度見つめる。これは母がかつて愛用していた杖だ。もしかして聖女の力が残っているのではと一瞬思ったが、ユキ自身から発している力だ。


「…やっぱお母さんが聖女だったから、私もその素質を受け継いでいたのかな…神様の監視をすり抜けたとか」


「監視って、いやまぁわかるような気がするけどな。でもさ、もしもこの世界の産まれに最上位の浄化能力が戻ったとしたら、もう並行世界から召喚する必要なくなるんだな」


そうだねとユキは息を吐いた。この世界の問題が自分達ですべて解決できるのなら、もう母のように突然未来を奪われ、家族にも再会出来ないまま亡くなる悲劇をする犠牲者がいなくなる。とても喜ばしい事ではあるのだが―


「これじゃあ、真由がこっちに呼ばれた意味がなくなっちゃう…」


元の世界で家族に愛されず、日々生き延びることだけを必死に考えていた真由。そんな真由がこちらで必要とされ、愛される経験を経て彼女は次第に自己肯定感と存在意義を持ち始めた。そしてユキにとっては集落の中以外で出来た初めての友人だ。


「真由…」


友人にこの事実をどう伝えれば良いのか、答えが出ないまま日が昇っていくのを見つめることしかできなかった。

---------------------------------------------------------------------------

「鉱山から今日は瘴気が確認されていないと報告が入りました。ご尽力いただき誠にありがとうございます、聖女様」


「いえ、私は何も…。下層にいたのをユキが対処してくれたので…。ただ警戒だけは引き続きお願いします」


工房へ来た連邦軍の兵士に真由は頭を下げる。兵士は恐縮です!と首を横に慌てて振った。ただ今回は真由の言う通り、実際に対処したのはほぼユキだ。真由は下層に降りてる途中の瘴気を片っ端から浄化していただけだ。ユキ達からは下層には瘴気の核になりかけだったものがあったと報告を受けている。核になる前に対処できて良かったのだ。


(…本当にそうだったの?)


真由は何となく本当にそうだったのか、疑問に思ってしまった。ユキ達を疑いたくはないが、今まで瘴気の核を浄化してきた真由にはある違和感があるのだ。


(鉱山に入った時点で確かに核の気配は無かった。ただ鉱山から感じていた瘴気は普通の瘴気じゃなかった…鉱山を可笑しくできるだけの瘴気が、聖女の力なしで解決できたのかな)


ユキ達に本当のことを聞きたいが、真由はこういう時どう対応していいのか知らない。もしも相手を不快にさせて暴力を振るわれたらと思うと恐怖で足が震えるのだ。絶対に仲間達は暴力を振るってこない。頭ではわかっているが今までの人生において真由は殴られる経験の方が多い。数少ない友人たちは隠し事もしないさっぱりした性格の子が多かったのもある。


(…いや、ユキの方が浄化魔法を使ってきた年数が長い。それに聖女の娘だから誰よりも浄化能力が高いんだ。だから、あれは核じゃなくてなりかけの塊。絶対そうだよ)


大切な仲間を疑うようなことはしたくない。真由は己を納得させると兵士と別れスミス邸の客間へと足を進めた。


「ご機嫌麗しゅう聖女様」


「こんにちは。…失礼ですがあなたは?」


客間のドアの前に身なりが整ったちょび髭の男性が立っていた。周りには数名護衛らしき傭兵がいる。彼は真由に気付くとわざとらしく大げさな動作で礼をしてくる。真由も軽く会釈すると警戒して素性を尋ねる。


「これは失礼。私はジョセフ・フォン・ロリング。ロリング家当主でございます。このような異国の地で聖女様にお会いできるとは光栄です」


「ロリング家?まさかまだ鉱山の買収を企んでいるんですか?」


名前を聞いて驚いた真由はとっさに杖を取り出し握った。ロリング家、鉱山を買収しようと企んでいるブルーボ王家の親戚の貴族だ。ロリング家当主の背後から黒い影がこちらを伺っているのが見える。カグヤだ。彼もロリングの名を聞いて警戒しているのだろう。


「企むなんてそんな物騒なことを。私は息子をスミス族長の孫娘様と御縁を結びたいだけですよ」


「縁談なら王国内で済ませればいいのでは。確かご子息は王子と同い年でしたよね?まだ早すぎますし…わざわざ外国にまで足を伸ばすなんて、暇なんでしょうか?…あ、それとも親子そろって性格的にお嫁さんを貰えそうにないから今の年齢から婚活させているのですかね」


真由の畳みかけるような嫌味に目の前の紳士は顔を赤くし口の端がぴくぴくと動いている。カグヤが爆笑しそうに堪えているのも見える。よっぽど嫌味が効いているのか、貴族はこの!と声を荒げる。


「聖女だからと生意気な…!この小娘が!」


「無礼ですよロリング公爵」


そこに凛とした声が響く。振り返ると勲章を身に着けた誠司とクラノスが険しい顔をして立っていた。

いつも優雅な笑みを絶やさないクラノスの険しい顔に思わず真由は驚いてしまう。


「こ、これはガードナーの…久方ぶりですな」


「ご機嫌麗しゅう、ロリング公爵。して、もうこちらでのご用事は済んだはずでは?いい土産屋を紹介しましょう」


聞いたことない低い声色で話すクラノスにその場の全員が唾を飲み込んだ。誠司がそっと真由を背中に隠す。公爵の背後に隠れているカグヤも誠司とクラノスが来たので静かに身を引き始めた。


「ふ、ふん、そうですな。この町は薄暗くて嫌になる、そろそろ愛しの王都に帰るとしましょう」


「お見送りします」


鍛え上げられた大男の圧力に公爵も傭兵も膝がぷるぷる震えている。気持ちはわかると誠司は内心頷きながら公爵を見上げた。確かにイノケンティス王の顔立ちに似ている部分はある。あの雰囲気からも遠い親戚だ、と言われれば誰でも納得できる。


(これじゃあ王妃も王子も、他の公爵家も大変だろうなぁ)


最近王子からも返事が来ない。この公爵がまだ息子を異国の人と婚約させようと動いているので王子の生存は確実である。だが状況が分からない。マンモルのジュール学院長から王都や王国の情勢を聞こうとクラノスと話していた直後にこの騒ぎだ。


「…は、たかが騎士の真似小僧が私を見上げるなよ」


「はは、これは失礼。ロリング公爵がどのようなお方なのか拝見したかっただけですが、ガードナー家やエバンス家の方が優雅で美しいと考えていたところですよ」


背後で真由が吹き出す音が聞こえる。公爵はさらに顔を真っ赤にしながら何かをわめき散らかしているがクラノスに引きずられていった。傭兵達も気まずそうに頭を下げて去っていく。


「お前ら、嫌味言うのうまくなったな」


声が遠くなったところで客間からアイラが大爆笑しながら出てきた。ユキもぴったりくっついている。


「いやぁそれほどでも」


「真由の方が火力高かったよ、こ、婚活って概念、貴族相手に…ぷっ」


誠司がじわじわと笑いが込み上げてきたのか肩を震わせている。カグヤに至っては壁を叩いて爆笑しているほどだ。


「ドンおじさまに見せたかったなぁ、大爆笑して面白がってたのに」


「もうユキまで、それより直接あの公爵と会わなくて良かったよ」


彼女の母と王との確執を思い出し真由は安堵した。もしあのまま客間に入られたら美しいユキを連れていかれたかもしれない。それだけは避けたかった。


「アイラがいざとなったら抱えて窓から外に出て逃がしてくれたから大丈夫だよ」


「確かにそうだ」


友人の無事を安心しているとクラノスが戻ってきた。変わらず険しい顔をしていたが、談笑している仲間達を見つけると気が緩んだようにいつもの顔に戻った。


「みんな無事だね?よかったよ」


「止めてくれてありがとうクラノス、そっちは大丈夫だった?」


「あぁ問題なかったよ。玄関で族長と職人さんが圧を利かせていたからね。…それより」


その光景見たかったなと内心思う誠司はクラノスの話題の変え方にすぐ意識を変えた。きっと誠司が気になっていたことを聞いてくれたのだろう。


「やはり鉱山買収の件、イノケンティス王からの指示だったそうだ。公爵と王で利益を分け合うと」


「まじかよ」


ライバルと言っていいガードナー家の次男坊を前にして調子に乗ったのか、公爵はあっさりと口を割ったそうだ。予想通り、王の指示にロリング公爵が乗ったという。


「王からは鉱山で欲しい鉱石がある、それが採掘できる山を王国領にしたい。聖女が鉱山に着く前に婚約を結び買収しろと真由召喚後に言われたらしい。ずっと断っていたそうだが、家の領地拡大と税金免除、他にも色々立場を優遇するからと言われて乗ったそうだ」


「…召喚後にか、鉱山の異変は一年前、質のいい鉱石が取れなくなってきた。そして数カ月前から瘴気が出始めている。王の欲しい鉱石って何だったんだろうね」


「おそらく瘴気をため込んだ石ですな。どす黒い色をした石で魔力と瘴気が合わさっている危険な代物でした」


ここでドン族長が話に入ってきた。そんな石が?とクラノスが尋ねると頷いた。


「王国からその石を高値で買いたいと連絡があったこともあります。魔晶石よりも高い出力で魔法が打てますので、魔法使いが少ない王国で欲しがったのだろうと皆で話しておりました。ただ危険な代物ですので輸出禁止にしてエルフ族に浄化してもらって地に返していました」


「軍事展開用に欲しがったのか…もしかして今回下層で核になりかけた瘴気たちもその石だったのかな」


多分な、とアイラが納得する。ここまであっさり情報が得られるとは、ロリング公爵はよほど口が軽い貴族なのだろう。貴族としてはだめな部類であるが助かったと誠司は頷いている。


「ひとまずあいつが街を完全に出るまでユキは隠れていなさい。見回りも増やそう」


「ありがとうございます、おじ様」


ドンはにっこりと笑うと近くの連邦軍に指示を送った。ここまで圧を利かせれば居心地が悪くなった公爵はすぐ街を出ていくだろう。それまではユキはなるべく屋内で隠れて生活だ。


「まぁ公爵だってこれ以上ここで騒ぎ起こせないだろう、のんびり休んでようぜ」


「そうだね、久々にゆっくり魔法書読んでようかな」


それに浄化能力のことも確認したいしとユキは内心付け加えた。次の公国へはまた山道を進むことになる。おまけに季節は冬に進んでいる。用意も色々必要だろう。王の思惑がある程度わかったが、まだ気を抜いてはいけない。王がなぜこの指示を出したのか、背景を知る必要がある。


(この先不安だけど、今は装備ができるのを待つしかできない)


ユキはそっと真由の顔を見る。彼女は言いすぎたかなと誠司と笑いあっている。願わくばこのままいい関係のまま旅を終えたい。そうなれることを静かに願い続けるばかりだった。


もうすぐ冬になる。雪に閉ざされる公国では何が待っているのか、誰も予想がつかない。


ロリング公爵ぼろくそに言われてますが、本当に人格ぼろくそということで(笑)

ちなみにロリング家はエバンス家(フローレンスの家)とガードナー家と仲悪いです。

ガードナー家がロリング家から嫁を貰わない理由の一つだったりします。

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