発現
ユキが瘴気の核を浄化できた。つまり、この世界の産まれなのに最上位の浄化能力を持っていたということになる。
「…なんで…?」
震える手を何度も握る。先ほど浄化したものは間違いなく瘴気の核だった。実際に対峙したのは2回だけだが、あの禍々しい魔力は間違いなく瘴気の核だ。アイラもカグヤも魔法に疎いと言ってもユキより対処した回数は多い。二人も確実に核であると認識している。
「…カグヤ、ユキ。今回ここにあったのは核になりかけだったもの、で話を合わせてくれ」
「姐さん?」
アイラの指示にカグヤが驚いて声を上げる。アイラは汗を拭うと言葉を続ける。
「ユキが最上位の浄化能力を持っていると公言してみろ、世界の常識がひっくり返るんだ。おまけに街にまだロリング家の使者がいるはずだ。王国に―王家に話が行ったらどうなると思う?」
「…そうか、王家に近いロリング家、もしくは王様がユキを欲しがる…それに真由の立場が危ないってことか…」
「そうだ。先に公国方面に出る手もあるが…今作ってもらってる神聖武器と防寒防具なしでこの先の公国に逃げるのはきつい。こっそり届けてもらうにしても、道中魔王が邪魔してくる可能性だって高いんだ。装備は常に手元にないとな」
アイラの冷静な判断にカグヤとユキは同意した。ふと魔力探知をすると真由がこちらに近づいてきているのがわかる。
「真由たちにもまだ言わない方が…良いよね?これまだ本当に聖女の能力なのかわからなくて」
「あぁ。気持ちの整理もあるからまだ言わなくていいぜ。…警護の面でクラノスには共有しておきたいな…」
「あのさ、誠司と旦那には言ってもいいかな?今誠司が帰還とか魔王のことで情報欲しがってて…俺からうまく話すからさ」
ユキとアイラは少し考えた。確かにユキのことをいつまでも秘密には出来ないだろう。これが何かの手がかりになる可能性もある。だがこれだと―
「…真由にだけ秘密になっちゃうんだね…」
「そう…だな…最近の真由、自分の存在意義というか色々気張り過ぎているような気がするし、今ここで言えないな…落ち着いたら一緒に話そう。何がってもアタシが責任とるから。カグヤも二人にそう話してくれ」
「わかった。ありがとう姐さん」
肩で息をするユキの背中を摩りながらアイラは頷いた。この数日で色々と状況が一気に動いている。この先どうなるのか、そして真由とユキ、二人をどう支えていくべきかアイラは静かに考えている。
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「三人とも!良かった!」
広間にクラノスを先頭にクラノス、真由、誠司が走ってきた。巨大な背中の後ろから仲間の生存を確認した真由が心の底から嬉しそうに飛び込んできた。
「心配かけたなぁ~そっちも大丈夫だったか?」
「うん!こっちは戦闘なくてひたすらユキの魔力辿って降りてきただけだよ!」
真由たちが走ってきた方向から鎧のかすれる音がする。連邦軍もきているのだろう。アイラは座り込んでいるユキに声を掛けた。
「立てるか?外に出よう」
「ごめんちょっと立てないかも…」
「顔色が悪いな、私の背に乗って。カグヤは大丈夫かい?」
「おう、俺は平気だぜ!誠司と真由警護するわ」
クラノスは頷くとユキを素早く背中に乗せる。温かい筋肉にユキは思わずウトウトしてしまいそうになる。
「疲れただろう?寝てていいからね」
「はぁい…ありがとうクラノス…温かい…」
やはり筋肉は発熱するのか…冬にいいな…とぼやく誠司に笑いながら行くよとクラノスは声を掛けた。連邦軍も上の広間で待機してくれている。一行はそれぞれの無事を喜びながら地上へと来た道を戻り始めた。
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その日の夜。報告と夕食を済ませた一行はホテルに戻り男女それぞれの部屋で休息をとっていた。
「ユキは魔力の使いすぎてもう寝ているそうだ。鉱山もひとまず瘴気の気配と魔物が落ち着いたそうだよ」
「よかった…ここにいる間は定期的に見に行こうか」
「そうだな、俺と姐さんで行くからお前は装備作っててくれよ…と言うことでちょっと大事な話がある」
報告書に目を通していたクラノスと誠司が声色を変えたカグヤを驚いてみる。カグヤは軽く息を吐くと口を開いた。
「…俺たち三人が下層に飛ばされた後、瘴気の核と戦闘になった」
「なんだって⁉」
クラノスが驚くのも無理は無い。核と戦闘になる、つまり聖女がいないと浄化ができないのだ。それなのにクラノスと誠司が来た時にはもう無かった。何より、聖女―真由は彼らと一緒にいたのだから。
「ユキが浄化した?」
「…あぁ。突然ユキが最上位の浄化能力を使って浄化したんだ…本人も動揺してる」
クラノスと誠司は驚いて声が出ていない。誰だってそうなる。カグヤは二人が落ち着くのを待った。
「この世界の産まれの人って最上位の浄化能力が無いんでしょ?だから並行世界から聖女の能力をもつ人を召喚して…いや、ユキは異世界人とのハーフだし何より聖女の直系だ…例外だってこと?」
「血統…それなら自然と説明がつくね。だが…本人はとにかくアルベルト殿やオーロラ様が気付いていなかったのが腑に落ちないな。フユミ様と親交があって最上位の浄化能力も身近に分かっていただろうに…」
うーんと首を捻る誠司とクラノスにカグヤも合わせて考え始めた。あれが本当に聖女の能力―最上位の浄化能力だとした場合、なぜ今まで誰も気付かなかったのか疑問に残るのだ。
「もしかしてさ、ユキ今まで強すぎる父親がすぐそばにいたから命の危機になることってなかったんじゃないのか?今回核から攻撃受けそうになってさ、その時に覚醒みたいな感じで発現したんだよ」
「それもあるな…いやそれが一番だよなぁ…。アルベルトさん達も気付かなかったのもわかるな…そもそも普通の浄化適正持ちと聖女の違いってなんだろう、魔力で判別なのか…」
この部屋にいる男性陣は全員魔法に疎い。ユキに聞けばわかるのだろうかと誠司はメモを取り始めた。
「…世界の根幹がひっくり返るな…直系に最上位の浄化能力が宿るのなら…今この世界で聖女の血筋なのはユキと…サクラ公国の公主か。でも公主のご先祖様の5代目聖女って確か浄化適正あんまり良くなかったって話だよね?」
「そうだぜ。そもそも公国の人間自体魔法適性からっきしだけどな。だから武力に走るんだよ」
ユキは両親どちらも優秀な魔法適性持ちだ。ユキ自身もその血を濃く継いでいるので納得できる面もある。
「歴代の聖女で家族を残したのは5代目と23代目だけ。5代目はあまり適性が無いとなれば今まで誰もわからなかったのも無理が無いね」
クラノスの言葉に誠司とカグヤは同意した。ここで一つ、誠司はすべてを納得したように天を仰いだ。
「誰も知らなかったとは言えこの世界の産まれに最上位の浄化能力が発現した。それだったらユキが水源地の核、ロンドリスで一人の時を狙われたのも納得できるよ。魔王がすべて仕組んでいて、おまけにユキが聖女の能力を持っていたと分かっていたんだ奴は。でもさ、それだったら」
誠司が言いにくそうに顔を正面に戻す。二人も薄々感じている。そう、誠司の考えが正しいのなら
「…世界を滅ぼそうとする魔王が真由を狙わない。じゃあ、世界にとって真由は聖女だと判別されていないってことにならない?」
「この前の襲撃の時、俺は何となく魔王は真由を狙っていると思ったけど…」
「真由と顔が似ている魔王…仮に真由の親戚だとしたら、親戚に会いに行ったノリだったのかも。そもそもどさくさに紛れてユキを狙うつもりだったのかもしれない。あの場で誰を一番優先して警護するかって聞かれたら真由だもんね」
一気に空気が重たくなる。今まで自分たちが信じていたものは何だったのだろうか。特に聖女信仰の国のクラノスは完全に手で顔を覆っていた。
「ここで前の仮説につながるんだけど…。聖女召喚システムについてね。女神様サイドと魔王サイドで召喚する人を選定しているのではって話。正直それが正しいと思う。」
「となると真由は完全に魔王サイドの召喚ってことか。ユキ、いやフユミ様は女神様の選定。魔王としては討伐された恨みとかで女神様の使者―フユミ様の血を引くユキを狙っているってことかな」
「うん。そして…クラノスにとってはつらい事だと思うんだけど…大丈夫?」
誠司に声を掛けられたクラノスはゆっくり息を吐いた。わざわざ聞くということはクラノスが忠誠を誓う国、王家に関わる話なのだろう。騎士は覚悟を決めると頷いた。
「ブルーボ王国王家、いやイノケンティス王は…魔王と繋がっている、もしくは魔王の手先だと思う。フユミ様が亡くなった10年前、魔王に接触して性格が激変したんじゃないかって」
「理由を聞いてもいいかい?」
「勿論。…瘴気が人に憑くと悪事を働くことがあるってスクトゥムさんから聞いた事がある。王様は10年前、いやもっと前…フユミ様が召喚された時、すでに瘴気に侵されていたんじゃないかな。王国の近くにある遺跡にずっと核があったし、人口が多いし陰謀が多い王城内に何かしら瘴気があっても可笑しくないと思う。」
確かにな、とカグヤは頷いた。王妃と王子が無事なのは奇跡なのだろう。誠司は続けた。
「で、魔王が討伐されて瘴気が落ち着いていたから治世が良かったけど、フユミ様が亡くなった10年前、何かしらのきっかけで魔王と繋がり、魔王サイドの聖女、真由の召喚をしたり瘴気が出てきた鉱山を買収しようとしたり…色々手を回しているのかなって」
「なんかすんげぇ納得…で、魔王の目的って何だと思う?」
お茶を飲みながらカグヤは心の底から納得したように頷いた。クラノスも静かに同意している。
「世界への復讐と支配かな、そのために瘴気を集めている。聖女として真由を召喚したのも…何かの目的があるんだろうな…顔が似ている面も含めて絶対何かあるんだよな…」
誠司は話しながらクラノスを見る。騎士は思いつめた顔をしているが、今までの疑惑がはっきりしたのだろう、少しすっきりとした表情に変わっていっている。
「誠司の仮説はほぼ正しいと言っていいだろう。色々と納得する節がありすぎる。救いなのは王妃と王子、それに我が家とエバンス家がご無事なことだな…。」
クラノスはお茶を一気に飲むとよし、と顔を叩いた。そこそこ大きい音に誠司とカグヤが驚く。
「このことは他言は一切しないと誓おう。勿論真由にもまだ秘密だろう?今後もっと情報が集まってから正直に伝えよう」
「うん、ありがとうクラノス」
「じゃあまとまったところでそろそろ寝ようぜ。今日は走って疲れたわ」
そうだねと誠司もメモを片付ける。ユキの件も驚いたが、今までの魔王や王の行動が繋がってきたような気がする。残る問題は真由と魔王の顔立ちが似ている理由が不明なこと、そして―
(このことを知ったとき、彼女はどれだけショックを受けるのか予想がつかない。落ち着いて、傷を最小限に留める話し方をしないとな)
誠司は窓の外を見る。魔晶石の街灯が薄暗い街を照らしている。この先の旅路もどうなるのだろう、少しだけ不安に思うのだった。




