第96話 騒乱
リリーの実家は、案の定大騒ぎになった。
迎えに来た兄とは別に、父や他の兄達は
クアドロの様子を確実に把握していった。
父とは別に、兄3人は頭を悩ませていた。
クアドロは品行方正で、隙はなかった。
さすがに難癖をつけて破談にはできない。
父は、そんな兄達に苦笑しながら、
帰宅したリリーを家族が集まる部屋に呼び、
まず本人の話を聞こうとおもった。
「お帰り、リリー」
リリーの家族は、割と物静かなタイプが多かった。
この父も兄達もそうだ。母も物静かだが、
口数が少ない割に、ズバッと切れ味鋭い時もある。
笑顔で確信をつかれる兄達は震え上がることもあった。
リリーは父の顔を見て、少しホッとしたような
表情になった。
リリーが、王宮で起きた出来事を説明し、
クアドロに求婚された事も伝えた。
少し顔を赤らめ、でもいつものように
振る舞おうとするリリーを、父は静かに見ていた。
「リリー、お前は嫌ではないのかい?」
「お父様、嫌も何も今日初めてお話ししたので
困惑と恥ずかしさしかなくて……」
父は、少し考え込んでいた。
リリーは、物分かりの良い子供だった。自分の役割を自覚し、周りの様子を見ながら動ける子供で、
自分の手に余る時は、即座に家族に助けを求められる。
危なっかしい所のない子供。
それがリリーだった、
ーー嫌がっていない。
それが父が見たリリーの様子だった。
リリーは、どうしてもダメなものは
理由を述べて物事の中断を求める。
めったにない事だが、言い出した時は一目で
説得は無理だと周りが分かるくらい
ハッキリしている性格だ。
父は、結論を出した。
「リリー、明日の朝、クアドロ殿下は
我が家へいらっしゃると、おっしゃっているんだね?」
「はい、お父様」
「分かった。もう寝なさい。明日、殿下を
お迎えしよう。ゆっくり休むように」
「はい。お休みなさいませ、お父様」
「リリー、物事が進んでも、どうしても無理だと思うなら私に話しなさい。必ず何とかする。
お休み、リリー」
リリーは自室に下がり、湯あみした後は
クタクタに疲れて眠ってしまったのだった。
翌朝、予定通りクアドロは優しい笑顔で
リリーの家を訪れた。
クアドロは、エラルノ公爵に
急に訪れる事になった事を詫びた。
もちろん、咎められるわけもなく
屋敷で1番良い応接室へ通され、
両親とリリーが歓待した。
クアドロは、ヴェルデを伴っていたので、
王族としての気品も威厳も充分だった。
クアドロは勧められた椅子に座り、
目の前のリリーに微笑んでいた。
ひと通り形式ばった話が終わると、
クアドロは、静かにエラルノ公爵を見つめた。
「エラルノ公爵、リリー殿からお聞きになったと
思いますが、昨晩、私から求婚しました」
公爵は、静かに聞いている。
「本日は、貴方の許しを得たいと来たのです。
そしてリリー殿の了承も得られれば、帰国してすぐに
国内外に婚約を発表したいと考えているのです」
公爵は、まず礼を述べた。
彼は席から立ち上がり、妻と娘もそれに倣う。
「クアドロ殿下、リリーの事を大切に想っていただき
光栄に存じます。まずは感謝させていただきたく
御礼申し上げます」
彼らは王族への礼をとった。
その様子だけで、この一家が貴族として
学ばなければならない事を、真面目に勤勉に
積み重ねてきた事が分かるものだった。
公爵は、正直に述べた。
「殿下、実はすぐの婚約発表のお考えに
驚いております」
クアドロは、同じように静かに答えた。
「それは仕方ない事。本心を言っていただけて、
こちらもホッとします。気になさらないように」
クアドロは、リリーに熱っぽい視線を送っていた。
「私がいま、リリー殿とご家族に誓えるのは
生涯彼女を大切にすると言う事。
そして彼女は私の運命であると言うことだけです。
リリー殿に、私の側にいて欲しい。
願いは、ただ一つ。それだけです」
その様子をジッと見ていた公爵は、
その日初めて微笑した。
「クアドロ殿下、ありがたき幸せ。
このお話し、殿下のお考えになるように
進めていただければ……。
リリー、良いな?」
リリーは、素直に答えた。
「はい、父上。殿下の思われるように……」
こうしてクアドロの運命は、アッと言う間に
婚約者となったのだった。




