第95話 競争
ルークも自室から下がり、ソフィアは
力一杯伸びをして、体をほぐした。
「ジョシュ、さすがに疲れたな。リリーは驚いただろうな」
ジョシュアは、ソフィアを引き寄せた。
やはり自分の膝の上にのせて、ソフィアを腕の中に納めてしまう。
「そりゃあ驚くだろう。他国の王子に、いきなり気に入ったと言われるんだ。
お前だったら、慌てないのか?」
ソフィアは笑い出した。
「慌てると言うか……、以前の私なら、まだそんなヤツがいたのかと
笑いだすかもな。さもなくば、ルークに2度とそいつには会わんと言う」
「そりゃあ手厳しいな」
ジョシュアは、微笑みながらソフィアの髪を撫でていた。
「クアドロ殿も、結局私と同じだったのだ」
「同じ?」
ソフィアは、撫でられる気持ち良さに
ゆらゆらしながら話していた。
「ああ、同じだ。私はな、お前が運命と分かった瞬間に
自分の生涯隣にいる相手に悩まなくて良くなった。
これがな……、自分でも驚くほど爽快なのだ」
ジョシュアは、ソフィアの独特の表現を黙って聞いていた。
「クアドロ殿も、密かに悩んでいたはずだ。
年齢が年齢だからと、部下に言われただけで
私に求婚するところだったんだぞ?
ただ友人として、付き合えそうだと思っていたとしてもだ」
ジョシュアは、しかめっ面をした。
「俺が間に合って、本当に良かった」
「私もだ。自分の運命を間違わずにいられたことに感謝している」
ソフィアは、朗らかに笑っていた。
「王族は、この制度が続く限り世継ぎ問題は避けられん。
私は、別に優秀なものを養子にして、望むなら王になればいいと思うが、
先祖が自由な方法をとっていないことを考えると
自由すぎるのも問題なのだろう。……つくづく面倒だな。
でもその立場に生まれた以上、目指さなければいかんものはある。
それは、王族でも、貴族でも、商人でも、職人でも、農家のものでも、
皆、同じであろう?別に親と違う道を選んだとしても
結局は、やらねばならんことは全員にあるんだ」
今日のソフィアは、珍しく多弁だった。
「クアドロ殿も同じはずだ。誰よりも自分の婚姻を大切に考え
誰よりも慎重に、誰よりも楽しみに婚姻を考えていたはずだ。
彼は孤独だったと思う」
ジョシュアは優しく答えた。
「そうだな」
「だから、リリーも早く自分の運命を受け入れられると良いと思う。
それにな、ジョシュ」
ソフィアは急におかしそうに話し出した。
「何だ?」
「長年に渡って孤独を感じていた人物が、運命を見つけたのだぞ?
私達とどっちが早いか競争だ」
「……競争って……お前……。当然俺たちの方が
早く婚姻するぞ。何が何でもだ。
俺達の方が先に分かったんだからな?」
そう言ってジョシュアは、楽しそうに口づけを落とした。
ソフィアは、口づけの授業はいつまで続くのかな?と思っていた。
だって、キスには色々な種類があるのだ。
ジョシュアに教えてもらうまで、そんなに種類があることも
まるで知らなかった。
場所や、時間の余裕、気分によってジョシュアは様々は口づけを
教えてくれた。大抵は体の力が抜けて、ぼぉっとすることが分かった。
ジョシュアは、そんなソフィアに笑って言うのだ。
「ソフィ、内緒だからな?」
その言葉を聞くと、ソフィアは
なるほど、これは夫婦の秘め事なんだなと思うのだった。




