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俺の閣下  作者: テディ
本編
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第93話 舞台裏

 ヴェルデは自分の主人に突然起こった幸運のため

オーリーと同じく残業となった。


心配ないとは思うが……。

聖動物に導かれたとはいえ、リリーの詳細を集めれるだけ集めていた。

国王への報告もあるのだ。その作業を省くわけにはいかなかった。


ツァイトは、おもしろそうに側にいて、書類の確認を手伝っていた。

こちらは本題の状況報告や、確認作業だ。

ツァイトでもできる事柄だった。


リリー・ラ・エラルノ。公爵家の娘で、兄が3人、末っ子長女であった。

リリーは二つ名があった。本人は知らないらしいが、

閣下の良心と呼ばれ、マナー、倫理観、作法、語学、

どれもが秀でていると評判が良い

知的で、冷静な女性。

それがリリーの一般的な印象のようだ。



しかも驚くことに、友人達と商会を起こす準備をしていた。

これはまだ内密に進んでいるらしかった。


ーー面白い……。

ヴェルデは、ただの立派な令嬢というだけではないリリーに

感心していた。


「ヴェルデ、どうだい?」

「ああ、なかなか興味深い御令嬢だよ」


そう言って報告書を1枚、ツァイトに渡した。


ツァイトは、静かにそれを読み終わると顔をあげた。

「決まりだね。殿下に頑張っていただかないと」


そういったツァイトに、ヴェルデは笑い出した。

「そうだな」



 その頃、サロンではリリーの困惑が続いていた。

自分はソフィアの案件には何の関係もないのに

晩餐を一緒にとソフィアに言われ、同席する羽目になった。

端の席だろうと予想していたのに、ソフィアの隣に席があり、

ヘイネシア王国の王子と重鎮と話すことになり、

さらにサロンで待っているように言われたのだ。


……もう、ソフィってば……自分は下がっちゃうなんて……。

1国の王子相手に、私だけでどうするのよ……。

だから仕事の報告は、明日でもいいって言ったのに……。


目の前に王子がいなければ、大きなため息をつくところだ。


クアドロの優しい声がする。

「リリー殿、どうか顔をあげてください。

夜の(とばり)が降りたのに、申し訳ない。

私が貴方とお話したかったので、ソフィア殿は気を利かせてくれたのです」


ーーソフィが気を利かす?!……そんなこと出来たかしら……?


内心の動揺を隠しながら、リリーは顔をあげた。

それでも視線を合わせるわけにはいかない。

許しが出るまでは、視線は伏せるのはマナーだ。


クアドロは、スッとリリーの視線に手を差し出した。

「どうか、こちらを見てください。私相手にマナーは不要です」


ーーいいえ、最も必要です…!!

心の中は、切れ味鋭いツッコミでいっぱいだった。

リリーはそう思ったものの王子から言われれば、しょうがない。


「殿下、お言葉に甘えまして失礼いたします」

エスコートの手を取り、スッと視線をクアドロの瞳に合わせる。


流れるような美しい所作だった。


クアドロは微笑みながら、ソファにリリーを座らせ、

自分もその隣へ腰掛けた。


いつの間にか、ハーブティのセットがおいてある。

ジョシュアが指示したのだろう。

夜なので、刺激物を避けるあたりがジョシュアらしかった。


「殿下、もしよろしかったらお茶をお入れします。

私が入れてもよろしいでしょうか?

ああ、毒味が必要ですね。それも私がいたします」


クアドロは、驚いた顔をした。

「いいえ、毒味など必要ありません。先ほど私の係のものが確認済みなのです。

だから安心して、貴方に入れていただきたい」

「かしこまりました。差し出がましい申し出をお許しください」


そう言われた瞬間、クアドロは我慢できずにリリーの手を握った。


「差し出がましいなんて……!!どうか信じてください。

そのようなことは思っていません」


リリーは、とても驚いた。

クアドロは、夜会の際に何度か見かけたことがあった。

リリーの中の彼の印象は、紳士的で優しい、どこか孤独をにじませる人。


だから、いきなり手を取られたことに驚いたのだ。


「……あ……あの……殿下……。お手を……」

クアドロに見つめられ、リリーは何故か赤くなった。

恥じらうように顔をそらす仕草は、クアドロを煽るだけだが

もちろん、そんなことには気がつかなかった。


ーー意識してはいけない。これはたぶん親切になさっているだけ……。


リリーは、理性を捻り出そうと頑張っていた。


クアドロは、優しく囁いた。


「驚かせて申し訳ない。でもどうか私を見てください」


変わらず手は握られたままだ。


困惑したままのリリーは、思わず顔をあげた。

視線のすぐ前に、クアドロの瞳がある。


はしばみ色の瞳……。

何と表現すれば良いのだろう……。

黄色のような……、でも緑色が揺れる……、

中心は薄い茶色……。


リリーはクアドロの瞳が近すぎることを

忘れていた。


「殿下……?」


クアドロは苦笑した。

「自分に余裕がなさすぎて、嫌われてしまいそうだ。

でも、もう押さえられない……。私の運命」



……今、運命って聞こえた気が……?

そういえば……、ソフィも殿下に向かって

貴方の運命がって言ってた気が……。


「私の運命……、どうか私の側にいて下さい。

私の生涯全てを貴方を捧げます。……リリー殿、お願いだ。

私の側に貴方が居て欲しいのです」


……!!!……気のせいじゃなかったわ!!!

待って……待って!!さっきご挨拶したばかりよね?!


「でっ……殿下?」

「分かっています。性急すぎる……。

でも、もう押さえられないのです。

どうか、こんな私を許してください。

もう以前の私には、戻れない。

…愛してしまったのです。私の運命」


クアドロは手を握りながら、リリーの腰を片手で引き寄せた。


リリーは初めての経験に、思わずピョンと飛び跳ねた。


クアドロが耳元で囁いた。

「リリー殿、……どうか私の側に……。

ああ、でも貴方を大切にしたい……。

明日、早急にお父上に婚姻の申し込みをしたと

お伝えに伺っても……?」


リリーは、さらに混乱していた。

それはそうだ。さっき挨拶したばかりの

他国の王子に求婚されているのだ。

混乱しない方が、どうかしている。


クアドロはリリーと視線を合わせた。

「私の運命……。貴方には、ご迷惑ですか……?」


口とは裏腹に、クアドロはリリーを逃す気など

これっぽっちもなかった。


リリーは、かろうじて答えた。

「……殿下……、あの……そのっ……。

急なお話しでしたので、戸惑ってしまって……。

父に話していただくのは、構わないのですが……」


クアドロ、その一言のチャンスを逃さなかった。

「良かった!!では明日、お宅にお伺いしますね!!」


あまりの即答に、リリーは続きをいえなくなってしまった。



クアドロは、いつもの彼としては考えられない行為に出た。

リリーを抱きしめたのだ。

なんなら、このまま国に連れ帰りたいが

さすがにマズイだろう。


それに、真っ赤になっているリリーの顔を

誰にも見せたくない。


混乱しているリリーを、腕の中に閉じ込めて

最速で婚姻を進める段取りをはじき出していた。

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