第88話 進歩
ソフィアが控えの間に移ると
ルークは顔を上げた。
「クアドロ殿下、テオドア殿下、
お待ちになる間、応接室に移動なさってはいかがでしょうか」
そう尋ねると、クアドロは穏やかに答えた。
「もしテオドア殿が良ければ、
このまま訓練場で待ちたいと思います。いかがですか?」
テオドアは変わらずニコニコとしていた。
「ええ、クアドロ殿下。僕もこちらで姉上を待ちたいです。
姉上は、ダメージがあるようには見えませんでした。
すぐにお戻りになる気がするのです」
「ではこちらへ……」
ルークは簡易の椅子とテーブルを設置させ、
2人とツァイト、ヴェルデに勧めた。
少し待っていると、テオドアの予想通りに
ソフィアは戻ってきた。すんなり戻ってきたわりに、
渋い顔をしている。
テオドア達は立ち上がった。
そしてテオドアは首を傾げた。
「姉上?いかがでしたか?……何か問題でも?」
「私に問題はない。さっきのようにできれば
2回は余裕で発動できそうだ。ただな……」
「ただ……?どうなさったのですか、姉上?」
「私に回復の魔法をかけてくれた医療団員が
倒れた。魔力切れになったようだ」
……!!
皆、それを聞いて呆気にとられていた。
ツァイトがようやく口を開いた。
「確か、薬湯を持っていらっしゃった気が……」
「そうなんだ。足りなかったらしい。
彼も私のために全力を注いでくれて、
ありがたいのだが……。工夫が必要だな」
テオドアも考え込んでいた。
「姉上、魔力の弱い者に、医療団の魔力の強い者をと
話しましたが、それでは上手くいかなそうですね」
「そうだな。人数を絞ると、こういう問題も起きるな。
まあ、早めに分かって良かったと思うしかあるまい。
ジョシュ、あとで見舞いに行く。覚えておいてくれ」
「かしこまりました、閣下」
ヴェルデも、考え込んでいた。
「殿下、我らも自国で訓練を続けてツァイトが
万全をきせる者を早く人選しなければなりません」
「そうだな。帰国後すぐにやるとしよう」
クアドロもうなずいていた。
「医療団の責任者は何と言っているのですか?」
ルークはソフィアに尋ねた。
「それがな、私とジョシュの補佐は過去最高に
魔力を使う難しい案件だそうだ。
カラカラと笑っておったぞ」
「まあ……、確かに……」
「今、薬湯の上等なヤツを取りにいかせている。
薬科が大騒ぎにならんよう口止めはさせた」
「まったく、事が事とはいえ……。
どんどん話が大きくなる」
ルークは、珍しくため息をついた。
ヴェルデもルークと同様の表情をしていた。
「まあ、深刻になっても仕方あるまい。
まだことは起きてはおらぬ。充分に対策が練れることは
こちらにとって幸運なのだ」
そのソフィアの言葉に、クアドロも同意していた。
「その通りですね。訓練が終了したら、他の国様子も
ご相談しておきたいのです。ソフィア殿、ルーク殿、
よろしいですか?」
「もちろんだ、クアドロ殿」
そんな話をしていたら、魔法医療団が戻ってきた。
責任者はアヴニール・ル・オーベン。
昨日、正式に任命を受けた。
35歳で先日、2人目の可愛い娘が生まれたばかりだ。
アヴニールが、ソフィアの前で首を垂れた。
「閣下、失礼いたしました」
「いや、かまわん。彼は大丈夫なのか?」
「手の空いているものが回復の魔法をかけましたので
問題ありません。副閣下の訓練は私が参加してもいいでしょうか?」
「そうだな、よろしく頼む。ジョシュは2回発動したいと言っているのだ。
対策はできているのか?」
「1回目は問題ありません。2回目は最高級の薬湯を用意しました。
訓練で使用してしまってよろしいのですか?」
「魔具を使え。ランクをあげよ。準備はしているのであろう?」
「念のため……」
「それで効き目が薄ければ、薬湯を使え。
訓練なのだ。安全を優先させる」
「承知しました」
アヴニールはジョシュアを振り返った。
「副閣下、準備ができております。
お待たせいたしました」
「よろしく頼みます。合図を決めましょう。
発動した瞬間、反対の手で握り拳を作ります。
それが合図です」
「承知しました」
「では、ジョシュ。やるぞ。
覚えておけ、いいか、私がやりたいのに変わりはないんだからな?」
ソフィアは、気が進まなそうに声をかけた。
ジョシュアは、いつものように微笑んだ。
「閣下、私が後悔したくないのです。
どうぞ私の我が儘だと思って、お許しください」
愛おしそうに自分をみるジョシュアに、ソフィアはたじろいだ。
「お前、……そんな顔をすれば、いつでも許すわけじゃないんだぞ……。
覚えておけ!」
そんなソフィアを見て、クアドロはうらやましそうに
クスクス笑っているのだった。




