第87話 驚愕
一夜明け、訓練場に集まったメンバーは、
すっかり疲労もとれたようだった。
特にジョシュアは昨日の事など、なかったかのように
いつも調子を取り戻していた。
クアドロが、ホッとしたようにジョシュアに声をかけた。
「ジョシュア殿、昨日はありがとう。
責任を背負っていただいて申し訳なかった」
ジョシュアは首を振っていた。
「いいえ、殿下。私の立場であれば、当然やらねばならぬ事。
身に余るお言葉に恐縮しております。
どうかお気になさらないようお願い申し上げます」
そう言ったジョシュアは、ツァイトに声をかけた。
「ツァイト殿、体調はいかがですか?
魔具だけの補助では、かなりの疲労が残られたでしょう」
「ジョシュア殿、私はすぐに医療団の方に見ていただいたので大丈夫でした。
こちらこそお気遣いいただいてありがとうございます」
そこへルークが今日の説明をし出した。
「本日は閣下が最初に訓練を行います。閣下が2回発動させるとの事でしたが、
それはジョシュアが代わりに行うことになりました」
知らなかったソフィアは、驚いて声をあげた。
「ルーク!!聞いていないぞ!!」
ルークは涼しい顔で、ソフィアを見た。
「閣下、昨晩ジョシュアと話し合いました。
今、あなたに無理をさせてはいけないとの意見で一致しました。
本番で存分に腕を奮っていただきたい」
ソフィアはジトっと睨みながらジョシュアをみる。
「ジョシュ、聞いていないぞ。責任者は私だ。
判断は私がする」
ジョシュアも、いつものように柔らかい表情で答えた。
「閣下、あなたは責任者なのです。
あなたは全ての現象をご覧になる必要がある。
私が成功すれば、あなたは易々とできるでしょう。
ですから今日は1回にしてください」
「ジョシュ……!!」
ジョシュアは微笑んだ。……後ろに何やら影がチラついて見えそうだ……。
「閣下、あなたは全てをご覧になる必要があるのです。
あなたが、この作戦の責任者なのですよ?」
一見、とても良い笑顔に見える……。……見えるだけだ……。
ーー……クッッッッッ……!!!
……この笑顔のジョシュじゃ、ひっくり返らない……。
ソフィアは、まるで何か大きなものを飲み込んだような顔をして
しぶしぶ同意した。
「分かった」
脇でクアドロが、堪えきれないようにクスクス笑っていた。
ソフィアは、苦々しい表情でクアドロに話した。
「クアドロ殿、大きな声を出して申し訳なかった」
「いいえ、ソフィア殿。気になさらずに。
珍しい事も拝見できましたし……。
ジョシュア殿は……噂の通り名のままで……」
クアドロはまだ笑っていた。
テオドアがニコニコと参加してきた。
「クアドロ殿下、僕も見たのは2回目です。
朝から良いものを見れたな〜〜。今日は幸運ですよ」
「本当ですね、テオドア殿」
ジョシュアは苦笑しながら、話を進めた。
「殿下方……、どうぞお戯れはその辺で……。
では閣下、ご準備はよろしいですか?」
ソフィアは、まだふてくされていた。
「ジョシュ、お前が2回発動させるのは分かった。
魔力はとっておけ。私は自分で仕掛けして、
自分で発動させる。魔具をこちらへ、医療団用意はいいか?」
医療団員は、準備よく自分のための薬湯を持っていた。
「はい、閣下。いつでも大丈夫です」
ソフィアは訓練場の中央を見た。
「では、いくぞ」
そう言って、昨日と同じように花をふわふわと浮かせ、
その花はポトリと地面に落ちた。
ソフィアは花に向かって歩き、ジョシュアやツァイトと違い
花から少し距離をとって歩みを止めた。
手をかざし、しばらくじっとしていると
花が突然、空中に戻った。医療団員が慌てて回復の魔法をソフィアにかける。
……結果、ソフィアはピンピンしていた。
本当に、あっという間の出来事だった。
団員を見て、アドバイスを始める始末だ。
「いいか、今回の任務は、常に無詠唱を想定してくれ。
私は今のタイミングで大丈夫だが、他の者は違う。
常に注意深く対象者を見ていてくれ。
必要であれば、お互いに合図を決めてもいい。
本番は対象物が分かりやすくは動かない。誰にも分からんのだ。
医療団、それで良いか?」
全員が、引き締まった顔になっていた。
「はい、閣下。こちらも訓練と対処を話し合います」
ツァイトが拍手をし出した。
あっという間に全員に広がり、まるで役者が絶賛されるかのようだ。
ソフィアは、照れて首を振っていた。
「やめてくれ、恥ずかしい。いいから、いいから。
次に行くぞ。ほら、ジョシュ。お前もするんだろう?」
ジョシュアは微笑んで答えた。
「はい、閣下。でもその前に診察をお受けください」
「いい、いい、いらん。大丈夫だ」
ソフィアは、まだ照れていた。
「いいえ、閣下。診察は受けていただきます。
侍医団、医療団、控えの間に。オーリー、頼むぞ」
オーリーは、大きくうなずいた。
「さ、閣下。こちらに」
ソフィアは、顔を真っ赤にしながら控えの間に移ることになったのだった。




