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俺の閣下  作者: テディ
本編
81/186

第80話 始動

 その日、魔法省の訓練場に集まったのは

グリフィス王国側は、ソフィア、テオドア、ジョシュア、ルーク、

そして警護のオーリーと選抜されていた騎士と近衛達。

ヘイネシア王国側は、クアドロ、ヴェルデ、ツァイト、

そしてツァイトに選抜された護衛の騎士と近衛達。

総勢26名だった。


ツァイトが、にこやかに話し出した。

「閣下が、魔力が高く表情にゆらぎのないものを

オーリー殿に選抜させたとお聞きしておりましたので

我が国もそれに習わせていただきました」

「そうか。褒められているようで嬉しい。ありがとう」

ソフィアも、にこやかに答えた。

「とんでもありません。殿下とも良いお話を伺えたと

話していたのです」


ルークが、空気を変えるかのように静かに話し出した。

「こちらは最初の訓練にジョシュアが挑みます。

ツァイト殿は、いかがいたしますか?

閣下がおっしゃるには、様子を見てからの参加で良いのではと

気にしていらっしゃるのです」


クアドロとツァイトは顔を居合わせた。

そして申し訳なさそうにクアドロが話し出したのだ。

「ソフィア殿、本当にご好意に甘えてしまっても良いのですか?

今日は我が国の参加はツァイトだけになってしまうのです。

申し訳ない、弟のロッソが龍の調査に出ておりまして

今日の訓練に間に合わなかったのです。

私が参加するつもりだったのですが、

爺やどもの説得に手間取ってしまって……」


それを聞いてソフィアは笑い出した。

「どの国も、爺や達は心配性ですな。

もちろん、ツァイト殿は好きなタイミングで参加なされば良い。

訓練のために、国の内政に影響があるのは好ましくありません。

それでもクアドロ殿は、さすがではありませんか。

こんなに早く国内の意見をまとめて訓練日にいらっしゃっている」


クアドロも笑った。

「お約束しましたでしょう?貴方達に、つまらない奴らだと思われるのは

心外ですので、早急に進めたのです」

「謙遜なさらずとも……。クアドロ殿と優秀な側近がいなければ

出来ぬこと。やはりさすがです。こちらも似たようなものですよ。

私が1番最初にやると言ったのに、そこかしこから反対されて……」


実際、ソフィアは1番最初の訓練は自分がすると、強く主張したのだ。

かなりの猛反対にあっていた。


そんな中、ジョシュアは穏やかに言ったのだ。

「大丈夫だ、お前が計画した訓練なんだろう?

だから問題ない。俺で大丈夫だ」


ジョシュアの信頼を受けて、ソフィアは何も言えなくなってしまった。

そして、ジョシュが信頼してくれるならと覚悟を決めたのだ。


そのジョシュアが、微笑みながら再び言った。

「閣下、貴方の立てた計画です。大丈夫、問題ありません」


それを聞いて、ソフィアは小さくため息をついた。

決心したかのように魔法について説明し出す。

「ツァイト殿、お互いの国の魔法書に相違はありますか?」

「いいえ、閣下。言い回しが違うだけで、本質は同じかと思います」

「では、お互いの見解に相違はありませんね?」

「はい、閣下。おっしゃる通りです」

「では、対象物について説明しましょう」


ソフィアは、魔法をかける対象物について話し出した。

「今回、最も迷ったのは魔法をかける対象物についてです。

痺れの光を代用することにしたので、動物や植物にかけることを

避けたかった。動物実験と同じになりますからな。

ですから、古代のリブラーブルを使用することにしました」


リブラーブルとは、古くから使われている郵便の魔法だ。

魔力を色々な形に変換させて、相手へ届け物をする。

鳥、動物、植物、なんでもありだ。共通しているのは

どんな形でも空を飛んで届けるという所だ。

今は盗まれたりすることがないよう、特定した相手でなければ

封印の魔法が発動し、中を確認することは出来ない。

しかし、古来は封印の魔法を合わせて使うことができなかったので

よく盗難が起きていたのだ。要するに、他の魔法に干渉されてしまう。

古来のリブラーブルは、痺れの光をかけると動かなくなることは

確認が取れていた。その特徴を利用することにしたのだ。


クアドロとツァイトは感心していた。


ソフィアは、いつものように軽やかに振る舞った。

「では、やるとするか」


でも、その表情は真剣そのものだった。


練習場の真ん中に向かい、少し指先を振る。

1輪の綺麗な花が、ふわふわと浮いていた。

ソフィアが再び指先を振ると、その花はポトリと

地面に落ちて動かなくなった。痺れの光にかかったのだ。


ジョシュアは、静かにその花に向かって歩いて行った。

そして立ったまま穏やかな表情で、地面の花に手をかざす。

とても小さな声で長い呪文を唱えた。なんと言っているかは分からない。


皆、固唾を呑んでジョシュアを見ていた。

誰も、空気すら動かせない。


その瞬間、花は空中にふわふわと浮き、

ジョシュアはガックリと地面に沈み込んだ。

両手と両膝で、自身を支えている。


ソフィアはそれを見た瞬間、全身に冷気が走った。

血が逆流するかのように、カッと暑くなり、

自分が獣であったら、全身の毛が逆立っているだろう。

次の瞬間には、凍り付くように寒気が走った。

「ジョシュ!!!!!」


「だから、1番最初は私が良いと言ったんだ!!!!!」

ソフィアは、真っ青になりながらジョシュアに駆け寄った。

ソフィアは、明らかに取り乱していた。

オーリーは瞬時に他の騎士と近衛に、テオドア周りに待機の命を出し、

ルークと走り出した。


「ジョシュ!!!!!」

ソフィアは、四つん這いになっているジョシュアの頬を

震える両手でソッと包み込んだ。

「ジョシュ!!大丈夫か?!ジョシュ?!呼吸しろ!!!

小さくゆっくりで良い!!ジョシュ!!そうだ、ゆっくりだ、

ゆっくりで良いぞ……!!!吸って……、吐いて……、

ゆっくりで良い、そうだ、そうだジョシュ……、ジョシュ!!!」


ジョシュアは、やっと話し始めた。

「……大丈夫……、大丈夫だ。少し休めば、話はできるようになる。

心配するな、ソフィ……」

ソフィアは、そのジョシュアの声でホッと全身の力を抜いた。


ジョシュアは、オーリの手を借りてヨロヨロと立ち上がった。

クアドロに、頭を下げ説明し出す。

「殿下……、お見苦しいところを……申し訳なく……。

大丈夫です……、ご説明いたします」


クアドロは、ジョシュアに近づき手を握った。

「ジョシュア殿……!!何を言っているのです、

貴方を尊敬しますよ!!」

クアドロは、真っ直ぐ力強くジョシュアを見た。


そして、ソフィアに微笑んだ。

「ソフィア殿、休憩しましょう。

ジョシュア殿にゆっくり休んでいただいてから進めても

遅くはありません。ツァイト、それで良いな?」


ツァイトは、優雅にお辞儀した。

「はい、殿下。仰せのままに。

ジョシュア殿、私も殿下と同じ想いです。

貴方に最大級の尊敬を」


そのツァイトのお辞儀は、ジョシュアと同じくらい優美だった。

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