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俺の閣下  作者: テディ
本編
78/186

第77話 とっておき

 朝に話していた通り、午前中の執務と部下の訓練を終えたソフィアは

ジョシュアに、王宮の庭に行きたいと話し出した。


「ソフィ?部屋ではいけないのか?俺たちの訓練の確認はどうするんだ?」

「テオドアの日程は押さえられたのか?」

「ああ、週末の初日なら大丈夫だそうだ。魔力のことを考えて

なるべく初日にして欲しいとのご希望だ。問題ないだろう?」

「ああ、それで良い。週末まではジョシュアと話す時間を取る」

「……分かった。俺もソフィに話があったから、

それはありがたいんだが……」

「温室に行こう。あそこなら人払いしても大丈夫だろう」

「ああ……、それは問題ないが……」


不思議がるジョシュアを連れて、ソフィアは温室へむかった。

ここは、普段は庭師か薬師しかこない。

入り口も1カ所しかないので、警備の問題はないが……。


ソフィアは、侍女にお茶の準備を頼んでいたようで、

温室の中にある、テーブルの上に準備されていた。


人払いもすると、ソフィアはジョシュアに笑った。

「さ、できた。ジョシュ、座ろうか」


そう言うとソファに座り、自分の隣をポンポンと手でたたいた。

どうやらここへ座れと言うことらしい。

ジョシュアが、しょうがないと苦笑いしながら座ると、

ニコニコし出した。


「ジョシュ、私に色々と教えて欲しいのだ」

「教える?何を?」


面食らったジョシュアに、ソフィアは続けた。

「お前のこと」

「俺のこと?」

「そうだ。昨日、寝る前に考えたのだ。

そういえば、私はお前のことを何も知らんと思ってな。

お前、普段サインしているペンは、どんなものを使ってるんだ?」

「ぺっっ……ペン??……俺が使うのは、これだが……」


ジョシュアは胸元から、ペンを取り出した。

それは魔具になっていた。細身のフォルムで、漆器のような黒のペン。

特注なようで、ジョシュアの金色の紋が入っていた。


「ちょっと、サインがしやすいように作ってもらったんだ」

「そうか……、ジョシュ、お前はこう言った文具に凝るほうか?」

「どうなんだろうな……。俺は、数を持つのは好きではない。

だから、気に入ったものが1つあれば良いんだ。

そういった意味では凝るほうなのかもな」

「そうなのか。私は、リリー達が贈ってくれたものを使っているから、

特注など考えたこともなかった」


それを聞いていたジョシュアは、ジッとソフィアを見ていた。

「ジョシュ、お前、時計は?時計は持っているのか?」

「時計?……持っているぞ、ほら」


ソフィアはその時計を見て、おや?といった顔をした。

そして嬉しそうにほころんだ。

「お前、まだ使っていてくれたのか……」


それは、ジョシュアがソフィア付きの近侍と魔法省の副大臣になった時

ソフィアが贈ったものだった。

魔法も何もかけられていない、昔ながらの時計。

だから自分でネジを巻かなければならない。

銀色の丸い懐中時計で飾りが掘ってあり、やはりジョシュアの紋を使っていた。

この国では持ち歩くには懐中時計を持つ。

渡すときにソフィアは言ったのだ。


ーージョシュは魔力が膨大だからな、これで魔法以外にも

大切なものがあることを思い出せ。私も父上にそう言ってもらったんだーー


ソフィアは、ジョシュアがその時計をまだ使っていることが嬉しかった。

「ジョシュ、大切にしてくれてありがとう」

そう言って柔らかくジョシュアを見た。


ジョシュアは、また愛おしさがこみ上げてきた。

面白いことにソフィアは、どんなに破天荒でも

人の気持ちを無下にすることは、絶対になかった。


ジョシュアは、再び胸のポケットに手を入れると、

小さな箱を取り出した。

それはバーガンディ色したビロードでできており、

何か特別な感じのする箱だった。


そして、ソフィアの前にひざまずくと、その箱を開けて見せた。


ソフィアは、驚いたようにジョシュアと箱を交互に見ていた。


中には、黒ダイヤで作られた婚約指輪が入っていた。

その周りを黒曜石のような魔石で作られたブレスレットが囲んでいた。


「ジョシュ?これは……?」

「お前への婚約指輪だ。俺の瞳と同じ色のものを

持っていて欲しいんだ。

ブレスレットはオブジエンヌの魔石で作ってもらった」


ソフィアは、予想通りに魔石に目を輝かせていた。

オブジエンヌは、とても貴重な魔石だ。

魔力を注ぐと、防御の力を増幅させる特徴がある。

万が一の時に、無意識に発動できるようになっていた。


「ソフィ、やっと渡せる……。愛してる。お前だけだ。

お前だけ。つけてくれるな?指輪も」


それにハッとしたソフィアは、ジョシュアを見た。

「指輪……、ああ!!婚約指輪だな!!」

思い出したように話すソフィアに、ジョシュアは笑い出した。

「お前、指輪が肝心なんだぞ?分かってるんだよな?」

「う……うん。母上が大切にしている。夜会の時には

婚約指輪もつけるのだと言っていた。

ちなみに夜会はできる限り出るようにと父上に怒られた」


ジョシュアは、やれやれと、まだ笑っていた。

「な?言った通りだろ?」


そう言って、指輪を取り出しソフィアの指にはめてやった。

ソフィアは、手を空にむけてニコニコとしていた。


そして、無邪気に言った。

「ジョシュ、ありがとう。嬉しい。

なんだか不思議な気分だ。ジョシュアのものになったみたいで嬉しい」


それを聞いたジョシュアは、思わずグッと詰まった。

口に手を当て頬を赤らめて、少し横を向いている。


「ジョシュ?」


ここでジョシュアはもう1つ、今日中に片付けたいことを

やってしまうことにした。

2度といたたまれない思いをすることのないように……。


ジョシュアは、テーブルに箱を置き、ソフィアを横抱きに座った。

ソフィアは、もうそれに慣れてしまったのでニコニコと

まだ指輪を眺めている。


ーージョシュと同じ色だ……。


ジョシュアは、そんなソフィアの顎に手をかけた。


「ソフィ、これは恋人や夫婦だけがすることだ。

皆には内緒にしないといけないことだからな」


そう言うと、ソフィアの顔を自分に向け唇にキスを落とした。


ソフィアの唇に、柔らかい感触が走った。

小鳥のついばみのようなキスは、少しずつ長くなっていく。


「ソフィ、キスをする時は鼻で息をするんだぞ」


ジョシュアはそう言うと、ソフィアの唇をペロッとなめた。


ソフィアは、しばらくの間は何が起こったのかよく分からなかった。

キスはいつもされていた。頬、額、こめかみ、首筋……。

でも唇でする恋人のキスは、そういえばなかった。


ジョシュアは、笑っていた。

「婚約指輪を渡すまで、恋人のキスは取っておいたんだ。

嫌じゃなかったか?」



目を丸くしたソフィアは、そっと自分の唇を指先でなでた。

……柔らかくて、良い匂いがした……。

「いやじゃない……。……いやじゃなかった……」


ジョシュアは、嬉しそうだった。

「そうか、良かった」


ソフィアは、ジョシュアを見ていた。

……気持ちよかった……。良い匂い……。


そう思ったソフィアはジョシュアの胸にもたれかかった。

「ジョシュ、もう1度。恋人のキスも、気持ちいい」


そのソフィアの返答に、ジョシュアはウッと詰まった。

ジョシュアは自分でも、婚姻の儀が済むまでは キスまでと決めていた。

しかし……。


……これは、何度もリリー達を思い出す必要がっっっ……!!

……いいや、俺は約束の守れる男だっ……!!


「ジョシュ……?」

ソフィアは、ホワンとした表情でジョシュアを見上げる。


「ソフィ、約束だぞ?これは夫婦しかしないから、

やってもいいのは俺だけだ。他の誰にもさせるな。

そして秘め事だから皆にも内緒だ。約束できるか?」

ソフィアは顔をあげた。

「秘め事……?? うん、約束する」


ソフィアの誓いで、ジョシュアは遠慮なく

恋人のキスを堪能することにしたのだった。

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