第72話 手探り
ソフィアは、操りの魔法を解く方法を練習するため
試行錯誤を繰り返していた。
まずは文献だ。蔵書や禁固書から、参考になりそうなものを
かたっぱしから自分の部屋に運ばせ、確実だと思われる箇所を
模索していた。
婚約のための礼状は、全て終えたので午後の訓練のあとは
研究に没頭していった。
元のソフィアの出来上がりである。
ジョシュアは、脇で助言したり、自分の仕事を片付けたり
ソフィアの世話をやいたり、変わらず忙しそうであった。
ジョシュアが、ほんの少し書類に気を取られていると
ソフィアはいつの間にか、床に本を広げあちこちを見ながら考えていた。
ジョシュアは笑いながら椅子から立ち上がった。
「ソフィ、今日は何冊だ?」
「5冊まで絞り込んだ。」
ソフィアは、顎に手を当て考えこんでいた。
ジョシュアは、ソフィを抱き上げ椅子に下ろした。
執務用のデスクに、魔法で本を並べてやり、声を掛ける。
「こうすると見やすいだろう?お前の周りに円になるように置けば
動作が増える。そうすると疲れるだろう?
なるべく動かずに考えられる方が良いんじゃないか?」
ソフィアは、その言葉に ん??と言った顔をし、
なるほどと、うなずいた。
「そうだな、ジョシュ。それは効率的だ」
ジョシュアは笑いながら尋ねた。
「お前が探していた魔法は見つかったのか?」
「うん、たぶん十中八九の割合で、これに間違いない」
そう言ったソフィアは、一冊の魔法書を指差した。
「禁固書では無かったのか……」
ジョシュアは、そう言って驚いた。禁忌の魔法の封じ手なので
禁固書に書いてあるのかと思っていたのだ。
「そうなんだ。問題は、これをどうやって効いているのか
知れば良いかだ。大丈夫だ、術の発動は大量の魔力で成功かどうかわかる。
ただ、効き目が分からん」
「それはそうだな……。操りの魔法に近いものはあるのか?」
「あるが、全てが禁忌の魔法になっている。
人の思考や意思をねじ曲げる魔法は、全てが禁忌の魔法だからな。
唯一残っているのは……医療用の痺れの光だけだ。
……そうだな……!!ジョシュ!!良いことを聞いてくれた!!
そうか、痺れの光で多少代用が聞くかもしれん!!」
ソフィアは、飛び上がって喜び出した。
痺れの光とは、外科的な手術が必要な者に使う魔法だ。
感覚を麻痺させ、薬草の痺れ草と同じ働きをする。
治癒魔法では、補いきれない時に使うのだ。
自分の意思とは違う、体の状態にするので
操りの魔法の代用になるかも知れないと、ソフィアは考えたのだ。
ジョシュアは、優しく微笑んだ。
「良かったな、ソフィ。これで対策が練れる。
それで?お前が見つけた魔法は、なんと言うんだ?」
ソフィアは、静かにその名を教えた。
「解放の魔法。全ての魔法の効力を無くしてしまうんだ。
だから、かける範囲を間違うと危険になる。
人を助けようと思って、脇の結界まで解いたら
何にもならんだろ?」
ジョシュアは、魔王の笑みを見せた。
「本当だな……。まったく……ガザンの奴らめ……。
よりによって世界で屈指の魔術師達の手をわずらわせやがって……」
それを見たソフィアが、固まった。
ーーマズイ……。なんで急に……?
忙しいから、腹が立ってきたのか……??
困惑するソフィアを横に、ジョシュアは笑っているのに
やはり怒りを持っていた。
ソフィアから聞く限り、魔力の消耗がどれくらいになるのか
しっかり把握しておかなければならない。
どんなに魔力があっても、発動できるのは たぶん1回だけだ。
それを、業務をこなしながら訓練しなければならない。
当然、削られるのはプライベートな時間だ。
まだ婚約指輪も渡せていない。仕事三昧の毎日なのだ。
この件にかかりっきりなのは、目に見えている。
ジョシュアは、こうなったら待っていられるかと
常に婚約指輪を常備することを決心した。
ソフィアは、しどろもどろしながら続けた。
「ジョシュ?ほら、あれだ……。お前と私なら
すぐに解放の魔法をものにできるさ。な?」
ジョシュアは、ソフィアを再び抱き上げた。
今度はソファに座り、横抱きにする。
「ソフィ、そうだな。とっととものにするぞ。
だから、頼むからお前に触れさせてくれ」
ソフィアは、屈託なく嬉しそうに了承した。
ジョシュアの機嫌を直してやれるかも……!!
「そうだな、ジョシュ。とっととものにしよう。
いいぞいいぞ。お前、私に触れるだけで気分が良くなるのか?」
そう話すソフィアに、もう抱きしめてキスを落としながら
ジョシュアは笑った。
「ソフィ、お前がいいと言ったのだからな?覚えておけよ?」
「ん??だってお前がそうしたいんだろう?
だったらいいさ。私の婚約者だからな」
ジョシュアは、ソフィアを見てニヤリと笑った。
……ん???……。何やら、少し寒気がしたような……?
ソフィアは、ジョシュアの笑みを見て首を傾げるのだった。




