第64話 対面
長い一本の廊下をジョシュアが先頭で歩いていた。
後ろには王族と護衛が、ついて来ている。
しばらく歩くと一転、日の光が眩しいほどだった。
青龍は、最初会った時よりも身体を横たえ
リラックスしているようだった。
ジョシュアが、脇に控えるとソフィアが声をかけた。
「青龍殿、お待たせ致した。あなたの守護国から
クアドロ殿下がお越しになりました」
ソフィアがそう言うと、テオドアは青龍の前に進み出てひざまずいた。
「青龍よ、クアドロ・シス・ヘイネシアが参上仕った。
お待たせした。お話を伺おう」
クアドロは立ち上がり、さらに前に進み出た。
彼はソフィアと同じように、青龍を見上げ瞳を真っ直ぐに見ていた。
ジョシュアは、何となく苛立ちを覚えていた。
ソフィアの振る舞いに動じない他国の王子は限られる。
そのうちの1人が、クアドロだったのだ。
大丈夫、俺たちの婚約は正式に公示されているのだから……。
そう思っていたジョシュアをオーリーが静かに見ていた。
「あぁ、そうだったのですね?私にチャンスは?
……そうですか。やるだけやってみましょう……」
クアドロは、ソフィアと同じように独り言のように
青龍と会話していた。
ソフィアは、そんなクアドロを苦笑いして見つめていた。
またしばらくの間、クアドロは沈黙に沈んでいった。
クアドロの視線は、龍と地面を行ったり来たりし
時に眼を閉じ、しばし考えているようであった。
ソフィアとテオドアは、静かにその様子を見ていた。
おもむろにクアドロは顔をあげた。
そして国王の前に行き、ひざまづいた。
「グリフィス国王陛下、ヘイネシア王国を代表し
お礼申し上げます。青龍に庇護を与えていただき、
ありがとうございました。深く感謝申し上げます」
国王はうなずき、その礼を受けた。
「クアドロ殿、当たり前のことだ。
ただ感謝していただけて、私も満足だ。
青龍殿はご機嫌がよろしいようだな」
「はい、大変満足しているようです。陛下をはじめ
皆さんの決断が早かったことに特に満足しておりました」
「そうか、それは良かった。
さて、クアドロ殿、いかがいたそうか?」
クアドロは問われて、ゆっくりと話し出した。
「青龍は、よく話し合うようにと申しております。
今回はソフィア殿と、よく話すようにと。
急で申し訳ないが、会談させていただいても
よろしいでしょうか?」
「ソフィア、異存はないな?」
ソフィアは、待ってましたとばかりに ほころんだ。
「はい、父上。もちろんです」
誰の目から見ても、ソフィアはこの問題を楽しんでいるように見えた。
ルークが、しょうがないと言った顔をしている。
クアドロは青龍を振り返って見た。
やはりしばしの沈黙ののち、皆に伝える。
「青龍は、自分の地に帰ると申しております。
あぁ、ジョシュア殿。水が美味しかったと申しております。
ジョシュア殿の魔力は、美味しいそうです」
ジョシュアは、思わず微笑した。
「青龍殿、クアドロ殿下、お喜びいただけて
身に余る光栄に存じます」
そのお辞儀は、とてもゆったりとしていて美しかった。
クアドロは再び、青龍の前にひざまずいた。
「帰りの旅、無事の到着を心より祈っております」
全員が、青龍への敬意を現す中
青龍は、風をまとい空を登って行った。
まるで水の中を泳いでいるようだ。
ソフィアは、楽しそうに見送っていた。
「クアドロ殿、青龍殿にあえて幸運でした。
まして、空を昇るところを拝見できるなんて……。
我が国のグリフォンは力強さが目立ちますが、
青龍殿は、柔らかく見えますな」
クアドロは、ソフィアに微笑んだ。
「そうかもしれません。泳いでいるように見えるからでしょう。
私も、一度はグリフォン殿にお目にかかりたいものです」
ソフィアは、いかにも好奇心の塊のように話し出した。
「今回の事態は、少し特殊ですからな。
もしかすると全ての聖動物に会う許しが出るやもしれません」
「そうですね。それを楽しみに、職務に励むしかなさそうです」
ソフィアはルークとジョシュアを見た。
「部屋の準備はできているのか?」
ルークは、答えた。
「閣下、準備できております。すぐに移られますか?」
「そうだな。頼む」
ソフィアがそう答えると、父は今回はソフィアに任せていると
クアドロに説明した。クアドロが驚くと、ソフィアが笑って付け足した。
「ルークが、父上に本当に良いのか尋ねたようですが、
良いとおっしゃるのです。爺や達が、私達の手腕を見たいのでしょう。
爺やに、知恵だけ授かることにし、身軽に動くことにしました」
クアドロは、感心していた。
「それは普段からの信頼が厚い証拠ですね、ソフィア殿」
ソフィアは笑うと、皆を促した。
「さ、クアドロ殿。参りましょう。
皆、仕事だ。いくぞ」
ソフィアは、颯爽と先頭を歩き出したので
ジョシュアが慌てて追いかける。
「閣下、護衛のこともありますから先頭は
僭越ながら私で……」
「ん???そうだな、いつもの調子で忘れてた」
悪びれもせず言うソフィアに、ジョシュアは少し微笑んだ。
「では、参りましょう」
クアドロは、その優しい笑顔になったジョシュアを
おもしろそうに見ているのだった。




