第61話 禁忌
ルークはソフィア達に、これまで
国として掴んでいる情報を報告した。
「まず、ガザンだが聖動物と接触できるのは
第一王子のノア・テイラー・ガサン殿下だけらしい。
第二王子もできるらしいが、
年齢を理由に実現できていないようだ。
ソフィ、会ったことは?」
その問いに、ソフィアは苦々しい表情になった。
良い思いがないのは、見るからに明らかだった。
「第一王子はある。どの国からも一定の距離を置かれている人物だ」
「なぜ?」
「まず、武力に自信があるらしくてな。狩の自慢が多いのだ。
昔ならいざ知らず、今は積極的に貴族の嗜みとして
狩を行う国はない。やはり、性格が荒い印象があるのだ」
オーリーは首を振っていた。
「それは嫌がられるだろうな。野外ではなく夜会で話すのだろう?」
「ああ、ご婦人の前でもお構いなしでな。なぜあれを側近が
注意しないのか、疑問でしかない」
ジョシュアはつぶやいた。
「注意すると、自分が危険になるのだろう。
一度、注意した側近を叱りつけていたところを見た。
それ以来、その側近の姿は見ていない」
ルークは、うなずいた。
「そうなんだね。それで合点が言ったよ。
この方の評判が、すこぶる悪い。
第二王子は、賢者と呼ばれるほど優秀だそうだが、
年が15歳も離れていて、諫めることができないらしいんだ」
ソフィアは、まだ嫌そうな顔をして話していた
「そりゃ、国が割れるな」
「そうだね。だからガザンは、不安定な状態らしい。
第一王子が焦って、聖動物を利用しようとしていると言うのが
我が国の見方なんだ。ソフィは意見に相違があるかい?」
「いや、ない」
「我が国として、利用されることも、その案に乗ることも
一切しない方針だ」
「当然だな」
ジョシュアは、皆が持つ当然の疑問をルークに尋ねた。
「ルーク、そこまでは分かった。
でも、どうやって聖動物を利用するんだ?」
ルークは、ため息をついた。
「そこだよ、ジョシュ……」
「まずそうなのか?」
「ある意味では、とてもマズイ」
オーリーがせっついた。
「なんだよ、ルーク」
「禁止されている、操りの魔法に手を出したのではと
思っているんだ。陛下にも、宰相閣下にも伝えてある」
テオドアは、あっけに取られてつぶやいた。
「操り魔法ができてしまったら、大変じゃないですか」
「ええ、大変です。殿下、かなり大変でしょう」
操りの魔法とは、古代に隣国間での取り決めで
禁止した魔法だ。これが戦争を激化し、長引かせた要因として
国民の健康も守るため、一切禁止したのだ。
各国に、王族達が集まり、その目の前で書物を
焼き払ったほど厳しく取り締まった。
操りの魔法が使えるものは、国で厳しく管理され
誰にも漏らさないことを条件に、自由を与えられていた。
もちろん規則を破るものはいるので、その度に取り締まり
100年かかって根絶させた魔法だ。
操りの魔法には、いくつか種類があるが
基本的に、人を操作する。意に沿わなくとも
体だけ乗っ取れる。
そして記憶を書き換える、危険な魔法だった。
国宝級の魔力がない限り、使えるようにならないが、
その力を得るものは、途方もない権力を得ることになる。
諸刃の剣だったのだ。
ルークは、厳しい表情で尋ねた。
「ソフィ、操りの魔法を防ぐ方法はあるのかい?」
ソフィアは、あっさりと答えた。
「ある。でも誰もやったことがないし、
そもそも操りの魔法をかけられる者がいないから、
それが成功するかどうかが分からん」
それでもルークはホッとした顔をした。
防ぐ手立てが、何もないよりはマシだ。
「ソフィ、それを練習することは?」
「もちろんできるぞ。ただ、ジョシュと代わる代わる
練習する必要がある。膨大な魔力が必要なのだ。
テオドアも、一緒にやってみるか?父上の許可が出ればだが……」
「はい!!姉上、やらせてください。留守の間、
皆を守れるかもしれません。万が一、僕の魔力がなくても
母上もいるので大丈夫かと思います」
「ルーク、父上に許可を取ってくれ。
ただな……」
「ただ?」
「人には使わんと思うぞ」
「それは何故?」
「掘り起こしてはいけない魔法だ。
自国が攻め込まれる理由になる。
確かに、ガザンの王子は浅はかだ。でも狩の時のように、
自分の弱みは晒すことの無い、厄介な御仁だ」
「では、どうすると思うんだい?」
「ようやく分かった。ルーク、お前はもう分かっているのだろう?
聖動物にかける気だろう。
それならバレないと、目測を付けたのだ」
ジョシュアは絶句した。
「ソフィ、それは……」
ソフィアは、最後まで聞かずにうなずいた。
「そうだな、愚か者のすることだ。皆も聖動物を見たであろう?
あれを思いのままに操れると思うか?いっとき成功したように思えても、
絶対に聖動物は、それをした人物を許さない。
国が滅びるであろうな。それがガザンだけであれば、
国民が気の毒だ。国民だけでも救う方法を考えればよかろう。
でもな、聖動物が全人間を敵だと認識したらどうなる?
我らも滅ぶことになる。なるほど……だから連携を組めと
青龍はやってきたのだ」
ソフィアはジョシュアを見た。そしてテオドアを見る。
「ジョシュ、テオドア。操りを解く魔法の練習をするぞ。
どの道、人であろうと、聖動物であろうと解いてやらねばならん」
ジョシュアは、いつものように静かに答えた。
「お前の望み通りに……」




