第60話 興味
青龍を前にしたソフィアは、ジョシュアに頼み事をした。
「ジョシュ、しばらくはお前の魔力頼みだ」
「承知しております、閣下」
「青龍殿が、水を御所望だ。大きな器に……、
そうだな飲みやすいように高台がついたものが良い。
それに水を入れてくれ」
「承知しました」
ジョシュアは、少し考え空間の中から
儀式用に使われる大きな杯を取り出した。
それは直径で2mほどある、とても大きなものだ。
それに並々と水を入れ、ソフィアに声をかけた。
「閣下、このくらいでいかがでしょうか?」
「うん、充分だ。青龍殿、まずはこちらにて
喉の渇きを癒されるようお勧めいたす。
少し休憩なされるが良い。いかがかな?」
ソフィアが優しく微笑むと、青龍が笑ったように見えた。
「青龍殿、あなたの守護国から返事がくるのは
午後になるでしょう。それまでごゆるりと……。
何かあればお呼びください」
そう言うソフィアを、青龍はジッと眺めた後、
水を飲み始めた。
ソフィアは合図した。
「父上、行きましょう。
皆、下がるぞ」
こうして、全員礼をとり、王宮へ戻ったのだった。
父は、そのまま執務室へ直行し、集めておいた側近に
指示を出しに行った。
テオドアは、ソフィアに部屋にくるように言われついて来た。
オーリーや、他の近衛、騎士たちも同様についてくるように言われる。
「オーリー、この者たちをしばらくの間、専属とする。
人数の補充は、状況によって考える。
警備や当番に調整が必要なはずだ。手配してきてくれ。
部屋付きの近衛は、ドアの前で待機だ。
テオドアの近衛も同様にする。良いな?」
オーリーは、すぐに手配に取り掛かった。
ソフィアは自分の執務室に全員を通し、
座るように言う。
騎士と近衛は、ブンブンと首を振り
オーリー隊長が戻るまでは、自分たちは護衛ですのでと言い、
部屋のそれぞれの位置にたった。
ソフィアは、笑いながら良いのだと言う。
「そんなに畏っていては、いつ終えられるかわからん任務で
持たないぞ?まあ、良いか。オーリーが戻ったら、
慣れるように言うだろう」
ジョシュアは、全員分のコーヒーを持ってきた。
侍女長も手伝っている。担当だった侍女は、
他の部屋を担当させたらしい。
そこへタイミング良く、オーリーがルークを伴って
戻ってきた。
ソフィアは、役者が揃ったぞ、と言い
全員に座るように勧めた。
ジョシュアが、魔法でどこからか調達したソファがあったので
全員座れてしまうのだ。
騎士と近衛は、視線でオーリーに助けを求めた。
オーリーは大きくため息をつき、しょうがないと話だす。
「大丈夫だ。閣下の言う通りにするように」
上官の許しをもらい、やっと人心地がついた。
ソフィアは、おもしろそうに眺めながら話をし出した。
「さて、やっと私のスタイルになったな。
テオドア、ここからは無礼講にする。良いな?」
「はい、姉上」
にこやかに話す兄弟に、ジョシュアはさすがに口を挟んだ。
「閣下、それではテオドア殿下が驚いてしまわれます」
「良いんだ、ジョシュ。この方式を見てテオドアが
自分のスタイルをどうするのか、考えるきっかけができれば良い」
そう言うソフィアに、ジョシュアは少し笑いテオドアへアドバイスした。
「テオドア殿下、1つだけ忠告させてください。
閣下の方式は、あまり真似されない方がよろしいかと……」
オーリーもルークも、強くうなづいていた……。
そんなジョシュアに、テオドアは元気に答えた。
「ジョシュア殿、よく分かりました。忠告ありがとう。
でも今は、せっかくの姉上のご好意なので
姉上の言ったようにして見せてください」
ジョシュア、オーリー、ルークは苦笑いし、顔を見合わせた。
「かしこまりました。殿下、耐えられないようなら
おっしゃってください」
「うん、分かりました」
ニコニコと答えるテオドアは、ちっとも分かっているように見えないが、
仕方がない。3人は、無礼講にすることにした。
手初めは、やはりジョシュアだった。
ソフィアがニコニコとカップに手を伸ばしていたのだが、
方向が違う。サッとカップを手に取り、ソフィアの手に持たせた。
「ソフィ、飲みたいならカップを見ろ」
テオドアが、ジョシュア殿はいつでも姉上から目を離さないんだな、
と変なことに感心していた。姉は、ん???と言った顔で
やっと自分の手元を見る。
「カップがあった」
そう言うと、美味しそうにコーヒーを飲み出した。
近衛たちを騎士たちは、遠征で多少の免疫ができていた。
上官がコーヒーを飲み出したので、自分たちも飲むことにした。
「ルーク、どこまで聞いた?」
「起きたことの全ては把握したよ、ソフィ」
そんな学生のような話し方に、テオドアは目を丸くして
おもしろそうに聞いていた。
「ソフィ、青龍とは会話できるのかい?」
「たぶん、大丈夫なんだろう。グリフォンの時と変わらない。
青龍に話す意思があれば、できると言ったところだな」
テオドアは、とても楽しんでいるようだ。
「姉上、僕もいくつか質問したいのですが良いですか?」
ソフィアは笑顔になって許可した。
「もちろんだ、テオドア」
「青龍殿は、なぜこの王国に来たのでしょう?
自国でも事は足りる気がするのですが……」
「連携させる必要があるのであろう。
ひとまず、我が国とヘイネシア王国が聖動物から
合格点をもらったと言う事だな」
「では、他の国からも使者が来る可能性があるのですね?」
「そういうことだ」
「姉上、隣国にいらっしゃるときに僕も同伴してはいけませんか?
父上にお願いしてみようと思うのです」
「テオドア、それは無理だ」
「なぜですか?」
「私たちは、2人兄弟だ。どちらかが必ず自国にいなければならん」
「王位継承の問題ですか?」
「それもあるが、片方が隣国で問題を抱えているとき
自国でもう片方が手助けする必要がある。分かるな?
そしてお前は学生だ。公式の場に出る事は、他国に
誤解を与える」
「誤解ですか?」
「学生のお前を公式な場に出さねばならぬほど、
我が国が焦っていると、取られる可能性もある」
「……そうなのですね」
残念そうなテオドアに、ソフィアは笑った。
「テオドア、学生時代は貴重だ。学生のうちしかできぬことを
楽しむのだ。私を見てみろ。卒業した途端に
仕事の山だ。今はまだ、見て、体験して、たくさん失敗しろ」
「失敗ですか?」
驚いて顔をあげたテオドアに、ソフィアは微笑んだ。
「そうだ。失敗して許されるのは学生までだ。
もちろん仕事をし始めてからでも人は失敗する。
それでこそ人だからな。ただ、違う点が1つある。
その失敗の責任を、自分で取らなければならないと言うことだ」
テオドアは、しばらく姉を見ていた。
そして、にっこりと微笑んだ。
「はい、姉上。そうします」
そんなテオドアに、ソフィアはもう1つアドバイスした。
「テオドア、お前は破天荒な友人を見つけることだ」
「破天荒?」
「私はな、自身が破天荒だったから良識と大胆さをもつ友人を得られた。
お前は、良くも悪くも優秀で良識を持っている。
だから、お前にない発想をもつ友人をたくさん作れ。
良識さは、ジュードが持っているから充分だ」
そんなソフィアのアドバイスに、ジョシュアは
ジュードが将来、その仲間をまとめなければならない気苦労を思って
密かに苦笑するのだった。




