第56話 鬱憤
ソフィアは、ジョシュアの手のひらの上で転がされながら
過去最高のスピードで仕事をしていた。
おかげでソフィアでなければ決断できない仕事が
スルスルと終了していく。
遠征中のものも、今日の物も、ほぼやり終えた。
そして……ソフィアの周りに不穏な空気があった……。
ジョシュアは微笑みながら考えていた。
……今日はここまでだな……。
ソフィアは机へ突っ伏しながら、数限りない不満を
ジョシュアに投げ続けた。
「ジョシュ、疲れた。眠い。腹が減った。目がチカチカする。
もう見たくない。書類は1枚も持ってくるなよ。
ジョシュ……聞いているのか?、疲れた!!」
「はい、閣下。さすが閣下です。
もう仕事は終了して良いですよ」
そう言うと、ソフィアはガバッと起きた。
「何?!本当か?!これで、今日の分は終わったのだな!!
あとは仕事はせんぞ!!」
ジョシュアは、ソフィアお気に入りのコーヒーと
ショコラを三粒ものせたトレイで、休憩を用意していたのだ。
「閣下、素晴らしい集中力でした。
近侍達が、遠征中に見つけておいてくれたショコラらしいですよ。
季節限定の味で、今しか食べられないそうです。
召し上がりますか?」
ソフィアは、急に目を輝かせ断言した。
「食べる!!!」
その一言を合図に、いつものように近侍達も加わり
楽しい休憩になった。
ソフィアは、明るくて和やかなこの時間が、とても好きだった、
「閣下、それは閣下のお気に入りのショコラティエで
新発売になっていたのです」
「だいぶ花が満開になってきたでしょう?
食用に開発された花を、砂糖漬けにして
ショコラの上に乗せてあるんですよ」
確かに小さなショコラの上に、紫や赤などの
色鮮やかな花びらや、小さな花そのままが乗っている。
「職人が、ショコラとの甘さのバランスに
とても苦労したと言ってましたよ」
それを聞きながら、ソフィアは1つショコラを
口に入れた。花の甘さと、ショコラの苦味が
ソフィアの好みにぴったりと合った。
「うまい……」
そう言ったソフィアに、近侍達は とても喜んだ。
「良かった!!閣下の気に入る味だと思ったんです」
「職人も、閣下とは知りませんが自分のショコラを
気に入ってくださる方がいて嬉しいと言ってましたよ」
「花を乗せるのが、皆に気に入ってもらえるなら、
来年は増産できるかもって言ってました」
「砂糖漬けにするから、日持ちするんですって」
ニコニコ話す近侍達に、ソフィアは微笑んだ。
「皆、ありがとうな」
そう言うと、近侍の中でも年長にあたる者が
柔らかく微笑んだ。
「閣下。まだ公示前ですので、悩んだのですが
やはり言わずにはおれません」
近侍達は、全員ソフィアの前にひざまづいた。
「魔法大臣閣下、ご婚約おめでとうございます」
部下からの暖かい王族への敬意に、ソフィアは驚いた。
「皆、ありがとう。素直に嬉しいと思っている。
さ、もう顔を上げてくれ。
お前達には、もっと近しい距離で居て欲しいのだ」
そう言ったソフィアの顔は、咲き誇る花のように美しかった。
近侍達は、嬉しそうに元の距離感に戻った。
「閣下、これから大変ですね」
「ん? やはり大変になるか?」
「ええ。副閣下が全てを手配してくださるでしょうけど、
閣下にしかできないこともあると思うんですよね」
「となると……、閣下はやはりお忙しくなると思いますよ?」
「う〜〜ん、ジョシュ。何とかならんのか?」
ジョシュアは笑い出した。
「こればかりは何とも……。できるかぎり善処します」
「お前、……それは、どうにもならん時の答弁と一緒だぞ」
ソフィアの答えに、皆で和やかに笑ったのだった。




