第53話 父
母は、王族との結婚が現実味を帯びてきて、
色々な準備の心配をしていた。
その母の気持ちを心配いらないとなだめ、
帰宅した父も加わり久しぶりの家族全員での晩餐となった。
父はジョシュアの顔を見て、苦笑いし
それでも無事に任務を終えたことを喜んでくれた。
実家での食事は、やはり安心する。ジョシュアはミラに頼まれて
久しぶりに料理をした。
普通、伯爵家で料理人以外が料理をすることはない。
小さな頃、父と母の誕生日に自分で料理を作りたいと
ジョシュアが言ったことから、特別な時だけ作っていたのだ。
昔馴染みのシェフに、地方料理のやり方を教え、
味見をさせていった。
とても良い肉があったので、それをハーブで漬け常温に戻す。
今回は、低温でじっくり1時間ほど焼いた。
サラダは、貯蔵庫に入っていたチーズを旋風で細かくし、
トッピングに使う。
スープは、ジュードの好きなキノコのポタージュにした。
他には、クラッカーに、小魚や野菜のマリネを乗せ、
ハムは葉野菜でクルクルと巻き、甘い果実も
葉野菜で巻いた。
何種類かのチーズは、油のひいた鉄板に溶かし、
オーブンで焼く。パリパリになれば出来上がりだ。
スナックのようになる。
この料理を、家族はとても喜んだ。
特に、肉はしっとりと柔らかく、ソースに良く合う。
ヴィクトーが、笑って言った。
「お前の料理は、本当に美味しい。
魔法省じゃなくても良かったんじゃないか?」
「しょうがないだろ、他じゃソフィの側に入れなくなる」
ジュードは呆れながら、自分のために作ってくれたポタージュを飲んだ。
「兄様、……いや、分かるけど……開き直りすぎでは?」
「長年、我慢したからな。これからは、隠さんことにした」
ミリーは笑っていた。
「私、ソフィ姉様の近侍になると思ってたのよ。魔力も充分だし。
それにソフィ姉様と話が合うのは、絶対私の方なのに!」
ジョシュアは、笑って答えた。
「ミリー、だからだ。お前じゃ、ソフィと脱線して仕事が終わらんだろ」
「だって、楽しいことがいっぱいあるんですもの」
賑やかな晩餐を、1番喜んだのは母だった。
父は、食事が終わったらジョシュアに話があると言い、
サロンにくるように言った。
少し母のお茶に付き合い、父の元へ急いだ。
父はサロンで、好みの酒を飲みながら待っていた。
度数の強い酒を、ちびちびと飲むのが好きなのだ、
昔、そう言って笑ったことがある。
父の飲み方に似たのか、ジョシュアもその方が好きだった。
「父上、遅くなりました」
ジョシュアがそう言うと、父は微笑んだ。
「まあ、座りなさい。お前も同じもので良いか?」
「この後、下宿へ帰らなければなりません。一杯だけでも良いですか?」
「もちろんだ」
そう言われて、ジョシュアは自分のグラスを用意して
父の側に座った。
「ジョシュ、陛下は本当にお慶びになっている。
お前も初恋が実って良かったな」
「はい、そう思います」
「ジョシュ」
父は、そう呼びかけると
漆黒の瞳でジョシュアをジッと見た。
「はい、父上」
「お前は、いくつか心構えをせねばならん」
「はい」
「ソフィア様と結婚できると言うことは、
もしソフィア様が御子を出産されると、王位継承権が
発生するかも知れんと言うことだ」
「はい」
「今のところ、そんなことは心配しなくても良いだろう。
でも、この世に絶対はない。そのつもりでいるように」
「わかりました、父上」
普通ならば、ソフィアは臣籍降下をしてジョシュの元に
嫁ぐのが慣例なのだろう。
しかし、王族で1番グリフォンと意思の疎通ができ、
大臣にまでなっている。
王族の籍を抜けなくとも良いのではと言う声が
議会で上がる事も考えられるのだ。
その辺も、これから詰めなければならないだろう。
「幸い、お前はこの家を気にせずとも良い。
まあ、兄弟全員が継ぎたくないのであれば
私の代で終わらせれば良いのだからな」
穏やかに言う父に、ジョシュアは驚いた。
「父上、それはまた斬新なお考えで……」
そう言うと、父はおもしろそうに笑い出した。
「そうか?まあ、グリフィス王国が平和だから
言えるのかも知れぬ。もし私がそう申し出ても
陛下は、皆同じ国民と平等にあつかってくださるだろう」
「……それは、そう思いますが……」
「誰かに無理を強いるような称号は、もう時代遅れなのだ。
お前も、王族が いかに国民に報いるため努力しているか分かるだろう?
国民を苦しめるくらいなら、いつでも身分を捨てる覚悟で
ソフィア様をお迎えするように。ソフィア様はお前に正義があれば
きっとわかってくださるだろう。
私が言っておきたいのは、それだけだ」
ジョシュアは、父を見ていた。
父は、どちらかと言うと無口で、
静かに自分のやらなければならない事を優先させる
昔ながらの真面目な伯爵だった。
さして得意でもなさそうなのに、領民の為に
新しい技術や、役に立ちそうな仕事の話が聞けるかもと
社交界にも顔を出し、王宮の仕事もコツコツと積み上げる。
それが、ジョシュアの中の父だった。
その父が、王位継承と王族か貴族の身分を捨てるかも知れない可能性を
覚悟せよと話している。
「わかりました、父上」
父上の子で良かったな……。
ジョシュアは、しみじみとそう思うのであった。




