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俺の閣下  作者: テディ
本編
53/186

第52話 雷

 ジョシュアが王宮を下り下宿についた途端、

山のような手紙が自分の前に降ってきた。


……ジュードだ……。まずい、もう連絡が行ったのか?


手紙を書き集め、自室の机の上に広げる。


要は、

ーー兄様、大変です!!母上が……!!

早く説明に帰っていらしてください!!!!!ーー


と、言う内容だった。


報告はするつもりでいたが、何も帰還した日でなくとも……。

今から行けば、晩餐に間に合うな。手持ち無沙汰で説明するより

間が持つだろう。


荷物を置いたジョシュアは、大きなため息をついて

転移魔法を使った。

着いたところは屋敷のエントランスの脇、

大きな木の下だった。


玄関で声を掛ける。


「ジョシュアだ。今帰った」


中からドカドカと物凄い音が聞こえてきた。

ガッと扉が開くと、ジュードが汗だくで顔を出していた。


「兄様……!!遅いですよ!!!」

「……悪かった……。でもな、俺も今日帰還したばかりで……」

「ダメです。母上には通用しないって分かっているでしょう?

おまけにヴィクトー兄様が夜会を欠席しましたからね!!」


ジョシュアは、思っていたより早く正確に実家に

話が伝わったのを確信した。


ジョシュアの実家、エヴァンス家は5人兄弟で賑やかだ。


ジョシュア・ル・エヴァンス。


グリフィス王国では、男の子は名と家名の間に ル、

女の子は ラ、が入ることになっている。

他国のように、家名を二つ持ったり、名を二つ持つことはない。

これは、身分に関係なく国民全員の共通点だった。


長兄から、ヴィクトー、次がジョシュア、紅一点の妹 ミラ、

三男クレモン、そして末っ子のジュード。


ヴィクトーは、ソフィア達より1学年下になる。

物静かで、ルークと良く話し込んでいた。

総務省にと言われていたのだが、伯爵領の事も覚えなくてはいけないので

辞退し、事務方に徹している。最近、父について領地や社交界に

出入りするようになったばかりだ。


その兄が、社交を断ってまで家にいる……。


なんで家は、こんなに情報が早いんだ!!

半ば八つ当たり気味に、そう思いサロンに顔を出した。


「母上、帰還しました」


ジョシュアの母は、母性溢れるタイプで、子供、動物、弱き者、

全てに愛情を注ぐ、優しい人だった。

半面、その分心配症でもあり家を出たジョシュアを特に心配しているのだ。


「ジョシュ……!!」


母にとっては、まだまだ子供らしい。

すっかりたくましくなったジョシュアを、細い腕で抱きしめた。


とても照れ臭い……。


甘やかされることに慣れないジョシュアは、何となくムズムズするのだ。

自分が愛情をもつ人を甘やかしたいと言うのは、母から受け継いだ自覚がある。


優しく母を抱きしめ、ソファに座らせる。


隣に、しかめっ面した兄も居た……。


「あなた、報告することがあるでしょう?!」

母は、ジョシュアの顔を見てホッとしたのか、

心配した反動で、お小言が始まった。


「無事、遠征から帰還しました」

「ジョシュ!!それは知っているわ!

他にもあるでしょう?」


チラッと兄を見ると、無言でジョシュアの顔を見ていた。


……いったい誰が情報を仕入れているんだ……?


婚約の件に間違いないと、ジョシュアは観念して報告した。

「ソフィに求婚の返事をもらいました。

陛下のお許しもいただいて、婚約することになりました」


母は、やっぱりっといった顔をしていた。

ジョシュアは、淡々と言い訳をしていた。


「遠征中に返事をもらったので、今日、陛下にお話ししたのです。

陛下からお許しを頂いたとはいえ、なぜこんなに早くお耳に届いたのですか?」


そう尋ねたジョシュアに、ヴィクトーが片眉をあげた。

「ジョシュ、王宮から使者が来た。

明日、国内外に公示するが、それでも良いかとの連絡だった。

とはいえ、王宮で父上が陛下にお返事をしていたので、

形式上、使者を出したと言うことだろう」


そう言うと、ヴィクトーはすらりと長い足で立ち上がり、

サロンのドアを開け放った。


ドタドタと、下の三兄弟が雪崩れ込んでくる。

「うわっ!!」

「ワッ……、アイタタタ……」

「きゃあ!!」


ヴィクトーは、大きなため息をついて腕を組み

仁王立ちになった。


「あ……あのっ……、兄様!!僕たち、心配で……!!」

兄の威厳に、逃げ腰になりながらもクレモンがミラをかばっていた。


「ミラ、君まで居るなんて。我が兄弟は、盗み聞きするほど

行儀が悪くなったのか?ミラ、王宮に行儀見習いに行くか?」


ミラはピョンッと跳ねた。ジョシュアと同じ黒髪がフワッと揺れる。

「お兄様!!いやよ、王宮には行かせないで!!

だって……、おもし……いえっ、心配だったんだもの!!」

「……。お前、おもしろそうって言おうとしただろう……。

いいか、今晩父上に話しておくから、

明日の朝、1番に父上のところへ行きなさい」


ミラは、しゅんとして素直に返事した。

「はい、お兄様」


そんなやりとりを見ていたジョシュアは呆然としていた。

今回は陛下が、素早く動いている。

願ったり叶ったりだが、それにしても早くないか……??


そんなジョシュアを思いを見透かしたかのように

ヴィクトーは振り返ってジョシュアに教えた。


「ジョシュ、陛下はソフィの結婚が決まるのでご機嫌だそうだ。

ソフィとジョシュの立場を明確にする事もあるが、

お前の気が変わって、ソフィと結婚しないと言われると

大問題だから、とっとと結婚まで持っていくと大笑いされていたそうだ」


ジョシュアは、それを聞いて眉間に手を当て首を振っていた。


……ありがたい事だが……仕事が増えそうな気がする……。


そんなジョシュアにヴィクトーは、今日初めて微笑んだ。

「ジョシュ、婚約おめでとう。仕事が増えるが、

ソフィを相手に望んだのだ。諦めろ」


にこやかに話す兄に、自分の魔王と呼ばれる原点は

この兄から受け継いだのかも……と思うのだった。

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