第49話 友人
オーリーは近衛隊の部屋に顔を出し、総隊長に報告をすませ
下宿に戻った。
別に片付ける手間がかかるわけもない。遠征への荷物は
ごく限られたものだけにするよう経験上知っているからだ。
1週間、緊張してばかりいたわけではない。
確かに、いつもよりも張り詰めるものはある。
でも護衛は、その中で冷静さと平常心を持てるからこそ
務めることが出来るのだ。
それでもオーリーは、頭を切り替えるため
シャワーを浴びた。
生活魔具や生活魔法は便利だ。少しの魔力で快適な生活をおくれる。
湯を貼るのもすぐに出来る。下宿では1部屋に1つ浴室がついていた。
この下宿は、ある程度出世しないと入れない。
設備のよさだけでなく、王宮から近いので、
必然的に仕事の多い者が優先されるからだ。
だいたいジョシュの魔力が、高すぎんだよな……。
オーリーは遠征中を思い出していた。
遠征中のジョシュアの入浴のための魔法は、呆れるほど
便利だった。
ジョシュアは人数分の入浴のためのお湯を、蛇口から出るように
魔力を注ぎ、誰でも何時でも、入浴できるようにしてしまったのだ。
もちろんシャワーだけでも、同じようになっていた。
料理もだ。まるでおとぎ話の絵本のようだった。
大きなタオルで、頭をガシガシ拭きながらシャワー室を出る。
オーリーは小さな頃から体格に恵まれていた。
何時でも同じ歳の同級生より、頭2つ分は背も高く、筋肉もつきやすかった。
力も強く、武器の扱いも、補助の魔法も上手だったが、最も秀でていたのは
戦略を立てる力と、先を見通す力だった。
くり色の短い髪、大きな丸い目は大地のような茶色で、
どちらかと言うと愛嬌のある顔が、体格の威圧感を消していた。
手は剣だこが無数にあり、自身の誇りになっていた。
近衛や騎士は、髪型の制限があるわけではない。
長髪を束ねるものも、肩までにしているものもいたが、
オーリーは乾かすのが面倒だと、短髪にしていた。
オーリーの実家は、代々騎士になる者が多い。
先祖が武功を立て続けたので、伯爵家としての側面もある。
だから力強い割に、振る舞いは柔らかであった。
さて、行くか。
オーリーは真っ白いシャツに、黒のスラックスを履き、
何かあった時の為に騎馬できるよう、ロングブーツを身に付けた。
女性が騒ぎそうなくらい、なかなかの男前に出来上がった。
ルークに言われた通り、オーリーはモリンの家へ出向くのだ。
そこで、ソフィアとジョシュア以外のメンバーが集まることになっている。
マイアが大喜びしそうだな……。
そう思って苦笑しながら、下宿を後にした。
一方、モリンの家では、リリー、マイア、カイが
もう準備万端、待機していた。
モリンの家は男爵家で、皆の家よりはずっと堅苦しくなかった。
とはいえモリンの父はなかなかの商才を持ち、下手な公爵家よりは
ずっと豊そうに見える。でも、それをひけらかすほど
浅はかではなかった。
モリンは、おっとりと皆にお茶を入れてきた。
モリンの兄が、モリン可愛さに隣国の珍しいものを集めるのだ。
「お兄様が見つけた、珍しいお茶なの。
お湯を入れると、ポットの中で花が開くの」
モリンはそう言って、テーブルに透明のガラスでできたポットを置く。
何分待っただろうか?ポットの中では、こんもりと丸い花が
乾燥前の姿を表していた。
カイが驚いていた。
「すごい……花が咲いたよ、モリン」
マイアもリリーも、感心していた。
「本当、花の色も残っているわ」
「香りは、いい香りなのね。普通のお茶の香りと一緒だわ」
その様子に、モリンは嬉しそうだった。
「さあ、飲んでみて。私は好きなのだけど……。
お兄様が、皆の正直な感想を聞きたいのですって。
販売できるか知りたいらしいの」
さすがモリンの兄……。抜け目はない。
皆は、そっとカップに口を寄せた。
「あぁ、柔らかいのね」
リリーは驚く。マイアも不思議そうにしていた。
「そうね、見たこともない様なお茶だから、
つい変わった味を予想してしまうけど、味は柔らかだわ」
カイは、ニコニコと満面の笑みで答えた。
「モリン、これは男性から女性へのプレゼント用に販売すればいいよ。
ロマンティックだもの。でも味がいいから、繰り返し求める顧客は
できると思うよ。まずは、このお茶の良さを知ってもらわないとね」
そう言うカイに、女性陣は皆笑い出した。
カイが少しふくれる。
「僕、変なこと言った?」
リリーは優しく微笑んだ。
「いいえ、カイ。モリンの役に立つ様な、具体的な意見だったわ」
「でも、皆で笑った」
ふてくされるカイに、リリーは続けた。
「カイ、あなたが立派な成人した男性だと、私たちよく分かっているわ。
でもね、少しだけ許して頂戴。あなたの可愛らしい幼い日を知っているのよ?
私たちが、カイが立派な男性になったと喜ぶのを許して頂戴ね」
カイは、まだふてくされていた。
「……わかった、リリー……」
ふくれているカイにモリンが言った。
「カイ、ありがとう。お兄様に必ずあなたの意見を話すわ。
お兄様、とても喜ぶと思うの」
そう言われてカイは、しょうがないかというような顔をした。
「うん、モリン。ぜひ伝えてみて」
そんな話で盛り上がっていると、オーリーが到着したと
知らせがきた。
マイアがいつものように快活に言った。
「オーリーが来たのね!あぁ、ようやく何があったか聞けて、
私達もスッキリするのよ!」
手をパンッと叩いて喜ぶマイアに、皆が笑い出した。
オーリーが、全部喋ってやるぞとばかりに部屋に入ってきた。
「マイア、ルークが来てからだ」
「オーリー! えぇ?? ルークが来てからなの?!」
「そうだ、今回1番気苦労があったのはルークだからな」
そう言われてふくれるマイアに、皆が笑い出したのだった。




