第46話 ねぎらい
ルークは執務室で、次々と案件を片付けている最中だった。
総務省にいる限り、仕事に終わりはない。
報告は山のように、陳情も山のように、省庁間の調整も
ひっきりなしに入ってくる。
外交は王族を通して行われるので、さらに手配が必要だ。
たくさんの近侍に囲まれて、その勤務状態がより良くなるようにするのも
上官としての役目だ。
そしてルークの上役の意向を、的確に伝えると言う役目もある。
激務だった。
ルークは穏やかで静かな空間を好む。
滅多に感情を表に出すことはないし、口調があらくなることもない。
部下にとっては理想の上司だった。
ただ、それにあぐらをかいていると仕事をサボるものは容赦無く、
他の部署に降格になっている。言い訳は通用しなかった。
ルークが総務省に入ったのは、是非にと望まれたからだ。
突出して魔力が高いわけでも、戦闘能力が高いわけでもない。
でも、全ての能力が高かった。
全項目を首席か次席でクリアした総合力を高く評価された。
ソフィアと、オーリー、リリー、マイア、モリンが
居なければ全てで首席だっただろう。
当然モテた。長身だが細身で、ソフィアのような美しく長い金髪。
視力はそれほど良くないので、普段は眼鏡をかけている。
実家には山のように女性のミリューが送られてくる。
ミリューは魔具の一つで、鏡のようになっており
本人の姿そのままにメッセージを送ることができるのだ。
でもルークは、厄介なことに自分に興味のない女性が好きなのだ。
だから、今まで一度も告白したことがない。
良いなと思っても、踏み切るところまで行かなかった。
ルークが女性陣と大切な友人になれたのは
彼女達が自分を特別扱いしなかったからだ。
ルークには新鮮だった。称賛も媚びることも期待も
彼女達の瞳にはなかった。それが、とても自分の心を癒したのだ。
尊敬できる友達……、それはルークの恋心にはつながらなかった。
モリンが笑って言った事がある。
自分もまだ恋はした事がない。でも恋はやってくるのでもなく、
自分で掴むのでもなく、落ちてしまうそうよ。
穏やかに笑うモリンは、大人びて見えた。
結局、いつの世も女性には敵わない気がする。
帰還したソフィアとジョシュア……。
出かける前よりも、さらに信頼し合うように見えたな……。
少しジョシュアが、うらやましい気もする。
さて、そろそろ説明にやってくる頃だ……。
ルークが、そう思った時、いつもの執務室にはない音が
大きく響いていた。
「ルーク、来たぞ。説明するからな!!
お前、仕事はひと段落できるのか?」
ドアの外から、ソフィアの元気な声が聞こえてくる。
……ジョシュが、結界をすぐに張るわけだ……。
ルークは苦笑いしながら、部下にお茶の準備を頼み、
全員席を外すように言った。
ガッと勢いよく扉が開き、いつものソフィアがいた。
後ろには、もちろんジョシュアとオーリーがいる。
「そろそろくると思っていたよ。まあ座って」
ルークは笑いながら言った。
ソフィアの前に、紅茶と小さなケーキが出ている。
ソフィアは、目をキラキラさせてルークに聞いた。
「ルーク、食べても良いか?!」
「良いよ、ソフィ。頑張ってきたからね」
ルークはゆっくりと微笑んだ。
小さなケーキを一口で食べたソフィアは、ニマニマしている。
そしてキラキラした目でジョシュアを見た。
ジョシュアは笑いながら、自分のケーキをソフィアの前においた。
「ジョシュ、美味しいぞ!!半分こしよう、半分こ!!」
それはソフィアの好きな苦めのショコラケーキだったのだ。
ジョシュアはソフィアが食べれば良いと言ったのだが、
ソフィアは譲らなかった。
「ジョシュ、これを食べないなんてダメだ。
でも私も食べたいから、半分こにするぞ」
そう言って、ジョシュアに切り分けてもらった半分を
また一口で食べる。
「あぁーー、頑張ってきて良かった……」
ソフィアは口の中のショコラを存分に味わっていた。
その様子を見ていたルークーとオーリーは、
肘掛にのせた片手で頬杖をし、微笑みながら2人を見ていた。
なんとまあ、ジョシュアの幸せそうな……。
ソフィアが幸せそうなのは、いつものことだ。
嬉しい時は嬉しい。楽しい時は楽しい。素直なのだ。
ルークはクスクスと笑いながら、オーリーに聞いた。
「僕も同じくソフィを甘やかすのに、この差はなんだろうね?」
「本当だな、俺もけっこうソフィに甘いと思うぜ?」
オーリーもクスクス笑っている。
「お前、誰かいないのか?」
「いないね、知っているだろう?僕の好みは難しいんだ」
「……お前も手がかかりそうだな……」
「君は?誰かいないのかい?」
「……そうだな、……見つけたかもしれん」
ルークが驚いてオーリーを見ると、オーリーはニヤリと笑った。
「まだ何も初まっちゃいねぇよ。でも、たぶん……本物だと思う」
「そうか……、良かったなと言うべきか?それとも頑張れと?」
「もちろん、良かったなだ」
ルークは笑い出した。
「いつの間に……、姫直属の近衛隊長にそんなヒマがあったようには
見えなかったが……?」
「ルーク、探したんじゃねぇ、居たんだよ」
「……そうか、……それは本物だ……」
ルークは優しく笑った。
「良かったな、オーリー」
「おう。ジョシュが片付いたら次はお前だからな」
「えぇ?僕もジョシュみたいな立ち位置なのかい?」
「そうだ、覚えとけ。お前もずいぶんと厄介そうだからな」
2人が、こんなやりとりをしている中、
ソフィアはケーキとお茶に、
ジョシュアはソフィアの世話に夢中だ。
ジョシュアは、友人の前でだけソフィアに没頭するクセがあった。
安心して世話を焼けるのだろう。
オーリーは、いつものしっかり副閣下はどこにいっちまったんだ?
と、眺めている。
色気全開、能力も充分発揮するジョシュアでも、
安心し切っているジョシュアは、2人から見ると
幼く見えた。
やっぱり、ジョシュアも可愛らしく見える2人なのだった。




