第42話 招待
毎日、朝と午後に林に足を伸ばすこと2日。
3人はグリフォンには会えずにいた。
ソフィアは呑気に、村の子供達に絵本を読んでやったり、
作物の様子を見に行ったりと、すっかりくつろいでいた。
が、その日は朝からソフィアの様子が違っていた。
まず、乗馬服を出すように言い、それに着替えた。
でも馬には乗らないと言う。
そして、午前中は林にいかなくとも良いと言い、ずっと魔法書を読んでいる。
昼を過ぎても、少し村の中をゆっくり散歩しただけで
小屋へ戻ってきた。
ジョシュアとオーリーは、理解していた。
ーー間違いない、たぶん今日だ。
こうなったら待つしかない。
午後の休憩にコーヒーを入れようと、ジョシュアが立ち上がった。
ソフィアは、ゆっくりと顔を上げジョシュアに言った。
「ジョシュ、コーヒーは侍女長に入れてもらえ。
私たちは出かけるぞ」
ソフィアは、侍女長に微笑みながら話した。
「すまないが、休憩の者にコーヒーを入れてやってくれ。
今日は少し遅くなる。帰りは、そうだな……夜の9時くらい。
心配しないようにな。何かあれば、ジョシュアが転移魔法で
この小屋に戻る。それがなければ心配せずとも大丈夫だ」
侍女長は、微笑み返した。
「かしこまりました、ソフィア様。気をつけて行ってらっしゃいませ」
そう言って、美しくお辞儀をした。
「うむ、気をつけて行ってくる」
ソフィアはそう言うと、小屋を出発した。
いつもの道を、普通の散歩のように歩く。
林の中でも、ソフィアの様子は一緒だった。
ちょうど夕暮れ時、植物の中で発光するものが
この地方にあるらしく、ソフィアは真剣に探していた。
「ジョシュ、かなり強烈に光るらしいのだ。
日も暮れてきたし、その辺で光っているものはないか?」
ソフィアが、ふと顔を上げるとジョシュアは一点を見つめていた。
「ソフィ、時間切れだ。迎えがきたらしい」
ソフィアはジョシュアが見ていた方へ視線を向ける。
大きな翼と力強い後ろ足をもったグリフォンが、
ソフィアを見ていた。
……ああ、迎えにきたか。あれは……群れの王の息子。
そう思ったソフィアは、自然に話しかけていた。
「出迎えてくれたのだな。ありがとう。
この2人は私の大切な友人なのだ。
ああ、まあ警護も兼ねている」
まるで独り言のようにソフィアは話し続けた。
「花はまだ見つかっていない。一度は見てみたいものだな。
お前の父は息災か?……あぁ、元気そうだな。良かったな」
ソフィアは道に戻り、歩き始めた。
「ジョシュ、オーリー、行くぞ。
お前達も来い。許しが出たようだ」
グリフォンは3人と一定の距離を保ちながら
前を歩き始めた。
「飛べば早いだろうに、悪いな」
ソフィアは、静かにフリフォンに話し続けていた。
「山の上まで行くのだな。何年ぶりかな、
いつもは林の中か山のふもとで会っていたからな」
山道に入ると、ソフィアはジョシュアにランタンを出すように行った。
3人とも、それを持ち静かに山を登っていく。
グリフォンは時々ソフィアを振り返って待ち、
また歩き出すことを繰り返していた。
1時間ほど歩くと、グリフォンは翼を広げた。
そして飛んでいってしまった。
ソフィアは、少し大きく息を吐いた。
「ソフィ、大丈夫か?」
ジョシュアは、ソフィの腕をとった。
「大丈夫だ。みろ、あそこにの曲がっている道のすぐ先が
グリフォンの寝床だ」
確かに道がカーブしている。
ソフィアを先頭に、その曲がり角を曲がると
そこは山頂とは思えないくらい、大きな広場になっていた。
ソフィアはつぶやいた。
「群れだ……、こんなに……」
そこにはグリフォンが50頭ほどいるだろうか。
ソフィアも初めてみる数だった。
雑然と居るように見えたグリフォンの群れの中に
一本の道ができた。
ソフィアは顔を上げ、微笑んだ。
「ジョシュ、オーリー、いくぞ」
ジョシュアとオーリーには、その一本道が
とても長く感じられた。
途中、ソフィアをつつく小さなクチバシがあった。
「何だ、お前か。友達は増えたのか?
そうか、良かったな。楽しいか?食べているのか?
良かったな。そうだな、お前が幼い羽で頑張ったからだ。
そうか、母親が褒めてくれたのか。それは嬉しいな」
ソフィアはすっかり赤ん坊グリフォンと仲良くなっていた。
赤ん坊グリフォンは、ジョシュアにも寄ってきた。
ジョシュアは、ソフィアの真似をして腕をあげた。
クチバシをスリスリと寄せ、ジョシュアにも甘えている。
ジョシュアは、真心で返そうと思った。
「そうか、お前は頑張ったのだな。良い子だ。
たくさん友達ができると良いな」
そう言うと、グリフォンは甘噛みして答えた。
そして……赤ん坊グリフォンはオーリーを見た。
しばらくジッと見ると、オーリーの胸にグリグリと
頭を摺り寄せた。
びっくりしているオーリーにソフィアが笑った。
「オーリー、お前が好きなんだそうだ。
頭を撫でてやると良い」
オーリーは、戸惑いながらも嬉しそうにグリフォンに手を
差し出した。
そして、優しく言った。
「グリフォン、お前に会えて良かった。
お前は俺にとって初めてのグリフォンだ。よろしくな」
そう言って、ガシガシと赤ん坊グリフォンの頭を撫でたのだ。
赤ん坊グリフォンは嬉しそうに高い声で鳴いた。
それは歓迎のセレモニーのようだった。
赤ん坊グリフォンの歓待を終え、そのまま道を進む3人の前に
一体の大きな……とても大きなグリフォンが現れた。
それを見たソフィアは、普段自分がされるように跪いた。
そして、最大の敬意を表した。
「グリフォンの王よ。ソフィア・ラ・グリフィス、
ここに参上した」
そう言って、礼をとった。
ジョシュアとオーリーも、ソフィアに倣らう。
それは、とても美しい対面の儀式となったのだった。




