第38話 腕前
ジョシュアは小屋に帰ると、全員分の昼食を用意した。
料理を手伝いに来てもらう者と相談して、夜の食事の準備だけ
してもらうことになっていたからだ。
本職の料理人のいないこの村では、いくら料理自慢の村人とはいえ
3食手伝ってもらうことは、負担になりすぎる。
下準備だけしてもらい、朝と昼は自分達で作ることにしてあった。
朝は、侍女長がパンを焼き、スープを温め、フルーツ出してくれたのだ。
焼き立てのパンは、ソフィアがとても喜んだ。
「侍女長、美味い!!はあ〜〜フワフワだぞ?!
スープにつけてもいいか?大丈夫だ、王宮に帰ったら
絶対にやらない!!いいか?!」
侍女長は、首を傾げてジョシュアを見た。
ジョシュアは、しょうがないなと笑い、答えた。
「ソフィ、いいか。ここでだけだぞ。
約束できるなら良いぞ」
「やった!!」
ソフィアは見ているものが微笑むくらい
幸せそうにスープにパンをひたし、堪能したのだ。
脇で、ジョシュアはこぼれそうになる口元を拭いたり、
フルーツを切ってやっている。
夜警していたもの達は、暖かい朝ご飯と、目の前の光景を
楽しみながら食事をしたのだ。
実に……何と言ったら良いか……
絶対に見ることのない光景だったのだ。
ジョシュアは、料理人達が下準備してくれた保冷庫の材料を見た。
サラダの葉と、他の野菜を出す。
朝に侍女長が作っておいてくれたパンは作業台にあった。
肉は……。ああ、これにするか。
昨日の余ったステーキを出してきた。
手軽に取れて、護衛の腹も満たすもの……。
ジョシュアは、料理に生活魔法を使う。
料理をしたくらいで、業務に必要な魔力に影響はしない。
そのくらい魔力は強かった。
やはりソフィアが台所の隅に椅子を置き、ニコニコと見ていた。
オーリーは、大きい体をドアの前に立たせ、勝手口を見ている。
「ソフィ、今日は外で食べるぞ」
「やった!!スープも持っていきたい!!あったかいのが食べたい!!」
「分かった。大丈夫だ。保温できるナビエを持ってきた」
ソフィアは、さらにニコニコとした。
お腹の音が聞こえてきそうだ。
ジョシュアが、指先を一振りすると、野菜は綺麗に洗われ
さらに大きな葉が何枚も、他の野菜は薄くスライスされ
綺麗に並べられた。緑、赤、黄色、色々な野菜だ。
次に指先が動くと、パンの一片がつむじ風になり皿の上に
粉々の山となった。
脇の皿には小麦粉がひかれ、その隣の皿には卵は割られ
渦になってかき混ぜられていた。
まな板にステーキが並べられ、上で、塩を胡椒が
フリフリされている。
オーリーは、何度見ても不思議だなと思っていた。
料理は、たいてい魔法を使わずに行うものがほとんどだ。
料理のために魔法の練習をするものは少ない。
たいてい火を起こしたり、氷を作ったり、その程度だ。
あとは片付け魔法。
オーリーも魔力は近衛の中でも高い方だが、
細やかな魔法は苦手だ。一度真似をしたことがあるが、
野菜を洗うのに大量の水を出して、こっぴどく叱られたことがある。
それ以来、挑戦したことはない。
ステーキは、ジョシュアによって常温にされ、
空中を飛びながら、小麦粉、卵液、パンの粉をまとい
いつの間にか用意された、油鍋へスルリと入っていった。
その間に、調理道具は一回洗われ、オケに入っている。
ジョシュアはまな板を乾かし、包丁がパンを薄くスライス
しだした。
「ジョシュ、楽しい!!楽しいぞ!!
お前の料理は、本当に面白い!!
今日のメニューは何だ?」
「フライステーキサンドだ。お前が最もこぼす料理だから
気をつけるんだぞ」
ジョシュアはそう言って笑った。
「だって、美味しいものほど、こぼしやすいんだ。
何でだろうな??」
そうこうしている内に、ステーキが良い色に揚げられて、
網を引いた皿の上に上がってきた。
パンはバターナイフによって、バターを塗られ
次々と積み上がっていく。
パン、野菜、ソース、ステーキ、ソース、パンの順に
空中をフワリと移動して、納まっていく。
フライステーキサンドの出来上がりだ。
ラップする油紙が、クルクルでできてサンドイッチをしっかり包む。
包丁が、ラップ紙ごと半分に切って、綺麗な断面が見えた。
「できたぞ。オーリー、侍女長殿を呼んでくれ」
「おう」
侍女長は、食卓の用意をしていた。
ジョシュアから聞いていたのか、籠を取り出し
サンドイッチとフルーツを詰めていく。
ジョシュアは、ナビエと呼ばれる魔道具を取り出した。
筒状の金属のようなものに、クルクル回して閉じる蓋がついている。
物を温めたり、冷たいまま運べる簡易の入れ物だ。
この中にアツアツのスープを注ぎ、3人分用意した。
オーリーとジョシュア、交代で食事をすれば良い。
侍女長が感心したように、ジョシュアに尋ねた。
「ジョシュア様、お見事でございます。
料理の腕前も、相当なものをお持ちだったのですね」
「侍女長殿、ありがとう。簡単な物だったらな……」
「そうなんだ!!ジョシュは料理もできるんだ!!
でも侍女長、あなたの今朝のパンも、とても美味しかった!!
料理ができるのだな!」
「ソフィア様、お褒めいただきましてありがとうございます。
あの位でよろしければ、お手伝いさせていただきとうございます」
「いいのか?!でも……仕事が増える……」
「お気遣いなく、お願いいたします。動いていた方が
気持ちがラクなのです」
「あなたは働き者なのだな……。そうだな、無理のない範囲で頼む!!」
「かしこまりました。さ、ソフィア様。
皆様の準備が整ったようです。いってらっしゃいませ。
お気をつけて、お戻りください」
「うん、分かった!!」
こうしてソフィアは、これ以上ないくらいご機嫌で小屋を後にしたのだった。




