第37話 散策
ジョシュアとオーリーにとっては、普通の静かな林でしかなかった。
小鳥がさえずり、陽の光が木漏れ日となって降り注いでいる。
穏やかで静かな、普通の林。
が、ソフィアにとってはそうではないらしい。
3人は、昨日来た林の入り口の地点に立っていた。
ソフィアは昨日よりは柔らかい表情で、2人に指示を出した。
「いいか、闘争心を見せるな。それがグリフォンを1番刺激する。
それと、私の側を離れるな。オーリー、お前は特に」
「了解」
ソフィアは笑った。
「オーリーには、難しいと思う。お前は
いつでも私の盾になるように訓練されているし、
自身もそうであろうと努めてくれていた。
だからこそ難しい。本能で動いてしまうからな」
「お前のいう通りだな……。なるべく反応しないように
気をつけることにする」
「ジョシュ、何かあったらオーリーを結界の中に
閉じ込めてくれ」
「分かった」
「おいおい、反応しないように気をつけるさ。
閉じ込めるのは無しにしてくれよ」
それを聞いてソフィアは笑い出した。
「そのくらい普段と逆さまなことが、
ここでの普通になると言うことだ。
普段のお前は優秀で、思いやりがあるからな。
しょうがないと思え」
思いがけず最大の賛辞をもらったオーリーは
ぽかんと口を開けていた。
「大丈夫だ、普通に歩けば良い」
ソフィアはクスクス笑いながら
そう言うと、先頭に立って歩き出した。
本当に、聖動物のことになると日常が逆さまになる。
いつもとっさにソフィアをかばうジョシュアも
気をつけなければならないのだ。
それは、かなり努力を必要とするし、
始終意識していないとできない。
いつもは先頭のオーリーが、今日はソフィアの後を歩きながら
何だか変な顔をしていた。
いつも後ろの警護対象が、目の前にいるので
よく見えて良いような、気配が感じられず
背後が寂しいような……。
道を10分ほど歩いただろうか?
ピーピーと鳴き声がする。
その姿を見て、ソフィアは微笑んだ。
「2人とも、動くな。大丈夫だ。
これはまた簡単に……。
いいか、視線を前に……。あれがグリフォンだ」
2人が道の先を見ると、自分たちの腰の高さ位の
背丈のグリフォンがいた。
「良かったな、2人とも会うことを許されたぞ。
あれは赤ん坊なのだ。赤ん坊にしては大きいがな。
……親はどこに行った?……あぁ、ちゃんと奥にいるな」
ジョシュアは、やっぱりグリフォンは表情があるのだなと思っていた。
赤ん坊は、喜んでいるように見える。
……俺だけか……?……あとでソフィアに聞かねば……。
チラッとオーリーを見ると、オーリーは初めて会えた
グリフォンに感動しているようだった。
なぜか目がキラキラし、ポツリと小声で話している。
「……かわいい……」
その小声に、ジョシュアは驚いた。
……オーリーが、かわいいと言ったのか?!
もしかして……かわいいものが好きなのか……?!
衝撃を受けているジョシュアをよそに、グリフォンの赤ん坊は
よちよちとソフィアに近づいてきている。
ソフィアは笑いながら、スッと手を前にあげた。
それはまるで、鳥が腕に留まれるかのようにするようだった。
ジョシュアには、赤ん坊の後ろを親グリフォンが
ジリジリと一定の距離を保って近づいてきているのが分かった。
ソフィアは、振り返りもせずにジョシュアに声をかけた。
「ジョシュ、大丈夫だ。緊張するな」
ソフィアの柔らかい声がする。
ソフィが大丈夫と言うなら大丈夫だ……。
そう思い、無意識の中にしていた緊張を溶いた。
赤ん坊グリフォンはソフィアの指先に、自分のクチバシを寄せ
甘噛みした後に頬をすり寄せ、何度も頬擦りする。
「そうか、よくここまで来たな。幼い羽で頑張った」
幼い頃もそうだった。ソフィアはジョシュアの手を握り、
グリフォンと話していた気がする。
ひとしきりソフィアに甘えた赤ん坊グリフォンは、
後ろにいるジョシュアとオーリーを見た。
オーリーは、緊張することもなく赤ん坊グリフォンを見ている。
ボソッと、かわいい……と小声で聞こえたのは、
多分聞き間違いではないだろう。
赤ん坊はジッと2人を見た後、後ろを振り返った。
少し先に親グリフォンがいる。
親グリフォンは静かに、でもジッとこちらを見ていた。
そして、体には似つかわぬ高い声で「クワッ」と鳴く。
ジョシュアは、鳴き声は鷹なんだなと思っていた。
赤ん坊グリフォンは、ソフィアの指先にもう一度頬擦りをし、
よちよちと後ろ足で、親グリフォンの元へ歩いて行った。
親グリフォンは、ソフィアを見た。
ソフィアは微笑んでグリフォンを見ていた。
しばらくすると親グリフォンは赤ん坊を連れ、立ち去って行った。
ソフィアはホオっと息を吐いた。
「2人とも、今朝はここまでだ。
帰るぞ」
何だか、色々考えていそうなソフィアの顔を見て、
昼は外で食べるか……。
ジョシュアは、そう思って道を歩くのだった。




